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櫻坂46「2nd TOUR2022 As you know?」東京ドーム2日目の感想ー答え合わせをした未来ー

※ この記事は、欅坂46&櫻坂46の知識は薄めのSKE48ファンが書いたものです。勉強不足の点がありましたら、ご容赦ください。

記憶の断片と条件反射



 僕が好きな欅坂46の曲の中に「東京タワーはどこから見える?」という曲があります。歌詞が記憶と現実について認識させられるもので、特にサビの歌詞が印象的です。

「記憶の断片を真実より美しく補正して 
 そんなこともあったといつの日か語りたい 
 残酷なくらいありのままの現実を見せようか?( 悲しくなる ) 
 僕たちの別れと答え合わせをした未来」
              

「東京タワーはどこから見える?」より引用

 思えば、僕たち人間は知らず知らずのうちに、記憶を補正してしまうことがあります( 美しくも醜くも )。しかし、現実は変わらずそこにあり、時として残酷なギャップの答え合わせを未来でしてしまうこともあります。
 欅坂46も人によっては「記憶の断片」を沢山生み出すものかも知れません。その「断片」が重なっていけば行くほど、欅坂46が持つ曲の重力は重くなっていくと思います。欅坂46で特別な思い入れがある曲が、この記事を読んでいる皆さんにも1曲はあるのではないでしょうか?

 櫻坂46というグループは欅坂46というルーツを持つ稀有なグループです。歌う曲の世界観も欅の匂いを感じながらも変化があると思います。具体的に言うと、孤独に世界と向き合うことからコミュニケーションで世界と向き合う変化を僕は感じます。特にツアーのタイトルになっている「As you know?」に収録されている「摩擦係数」やセットリストの中に入っている「断絶」や「I’m in」は、歌詞からコミュニケーションを諦めない姿勢や自分から関わっていく姿勢を感じます(「車間距離」は車の喩えでコミュニケーションを語っていますよね )。
 その反面、このアルバムの中では、1つ特異な響きを持った曲があります。
 それが「条件反射で泣けてくる」です。
 麻布十番を久しぶりに歩いた曲の主人公は、街の風景をトリガーに「誰か」を思い出して涙が出てきます。
 強く自分と紐づけられた何かが心を揺さぶる。
 先ほどの「東京タワーはどこから見える?」と曲調こそ違いますが、何か近いものを僕は感じています。
 後悔の念と「ケンカ」や「無視」というマイナスな記憶の断片も楽しかった思い出として懐かしんでいます。
 ひょっとすると、今、櫻坂46を楽しんでいる方の中にも「条件反射で泣けてくる」曲や場所があるのかも知れません。
 今回の東京ドーム2日目は、キャプテンの菅井友香さんの卒業セレモニー―もあります。事前に東京ドーム公演のトレーラーでも欅坂46の「over ture」が使われていたので、もしかすると欅坂46曲が来るのでは、と予想されていましたが、まさか、あの曲が来るとは。

 あの会場の中で、「残酷なぐらいありのままの現実」を観た人もいれば「条件反射で泣けて」きた人もいたのではないでしょうか?
 今、この記事を読んでいるあなたはどちらでしょう?
 それでは、本編の感想を書いていきましょう。

疾走する魂

 まず、最初の曲からMCまではペンライトの点灯は禁止で完全に曲の世界をメンバーと演出チームが表現する場となっています。
 乱反射する白い光と重低音が鳴り響く中、メンバーが登場し、ダンスパフォーマンスをしていきます。
 そして、1曲目は「条件反射で泣けてくる」。
 この曲は、「As you know?」というアルバムの中でもやはり特別な重さを持つ曲なのではないかと感じました。
 途中、花道を疾走するピアノとそれを高速で弾く天ちゃんが印象的でした。2番の振り付け、こんなに可愛かったのかとも。
 「BAN」ではリフターステージ上で激しく踊るメンバーたち、「Dead end」では花道を疾走する森田ひかるさん。東京ドームという空間の広さを使った素晴らしいパフォーマンスでした。「Dead end」序盤での森田さんの表情と、めちゃくちゃ動ける人が静かに座っている「静」の色気がありました。いきなり激しい曲が続いたかと思いきや、更にハサミのような振り付けが印象的な「断絶」、「流れ弾」でとどめをさしてきます。
 会場で観ながら、「いやいや、こんなの続けてたら死ぬぞ!」と何故か観客の僕が心配になるぐらい疾走感のあるパフォーマンスが続きました。
 

ライブで解像度が上がっていく曲たち


 MCを挟んで「タイムマシーンでYeah!」では卒業セレモニーがある菅井さんを始めとする1期生たちがアリーナをぐるっとタイムマシーン風の巨大な車で回っていきます。もう、凄く幸福度の高い1曲ですよね。思えば、このコンサートの演出では何度か時間を意識させる演出がありましたね。
 「Oneーway stairs」でのステージを活かした登っていく表現や「ずっと春だったらなあ」、「制服の人魚」は振り付け付きでみるからこその良さがありました。つまり、メンバーというメディアを通すことで、曲の解像度が上がっていくわけです。振り付けも曲のビジュアライズ化であると考えれば、曲の世界を考えて行く手がかりが一つ増えているわけですよね。
 特に「ずっと春だったらなあ」が顕著で、歌詞の中で登場する「ユラリ」とは何かと考えていたんですが、これは「景色がにじんで泣けてくる」風景ではないでしょうか。勿論「ヒラリ」と「ユラリ」は速度が違うので、桜がそれぞれの速度で散っていくところと考えることもできますが、曲の主人公が見ている光景ではないか、と僕はコンサートを観ながら考えました。

 そして、巨大なモニターやLEDを使った一つの森を作り出したかのような演出から始まる、「五月雨よ」も素晴らしかったです。その後の「なぜ 恋をして来なかったんだろう」は夏鈴ちゃんの没入型の魅力が爆発してましたし、有頂天をあんな感じでビジュアライズ化するとは!いや、浮いてるよ!という衝撃がありました。
 そして、「Nobody's fault」の森田ひかるさんのカッコよさ!
 かなり高い位置に佇む姿が本当に絵になる。
 覚悟を決めて行くように語りかけるような歌詞が印象的なこの曲ですが、森田さんの佇まいと表情が印象に残っています。
 そこからの「I'm in」の爽やかさ、当事者になる参加者になるというのは、まさにコミュニケーションの始まりも感じます。
 そして、「Buddies」の映画のテーマソングに使いたい壮大な広がり。毎回、この曲を聴き終わると何か一本の映画が終わった満足感があります。
 さらにコミュニケーションをどの距離でするか、どう持続させるかを連想させる「車間距離」、「恋が絶滅する日」と畳かけます。
 そして、断絶ではなく関わり続けること、黙るのではなく話し続けることを選ぶ「摩擦係数」で本編は終わります。ただ、この曲に出てくる「殴るよりも殴られろ」という歌詞はこの後に来るあの曲の「殴ればいいさ」とは似ているけれど、何か違いを感じます。

不協和音で既成概念を壊せ


 アンコール明けは、欅坂46の「over ture」で始まります。
 思わず、「えっ、ライブをやり直すの?」と叫びそうになりました。
 それぐらい世界観がリセットされる感覚がありました。 
 流れる映像から、菅井さんの卒業ブロックが来るなあ、と楽しみでした。ちなみに、僕は「青空が違う」という曲が大好きなので、もしかしくて「青空が違う」くるかも、くふふと一人でワクワクしておりました。
 すると、まさか流れると思わなかったあのイントロが!
 そう、不協和音です。
 この時の地響きのようなどよめきは、忘れられません。
 でもね、正直、不安もあったわけですよ。
 センターの平手さんはもう居ません。
 彼女だからこそ、生み出せる世界があったと僕みたいなよそから見ていたファンは思ってましてね。「喜怒哀楽」でいえば「怒」や「哀」によりそう表題曲が多かったイメージがありましてね。この「不協和音」はコミュニケーションの「なあなあ」とか「妥協」を許さない「怒」や孤独になる「哀」も感じる曲だと僕は感じています。そして、平手さんはその「怒」や「哀」を取り込んで増幅させる表現が本当に素晴らしい人だなと個人的には思っています( ちなみに、「六本木クラス」を見ていると「喜」や「楽」も素晴らしいことは伝わってきます )。
 おそらく、会場に居たファンの方々の中にそれぞれの思い入れというか記憶の断片があの曲には乗っていると思うんですよね。それを2022年の東京ドームで復活させるとは。
 結果はどうかというと、僕は条件反射で泣いていました。
 とんでもないことが起きているという動揺と、歴史的な瞬間に立ち会えたのではないかという喜びがありました。
 正直、「不協和音はもう二度としないだろうな」という勝手な既成概念が脳内にあったんですが、それを見事にぶち壊してくれました。「ぶち」なんてなかなか動詞の前に付けないんですが、今回の「不協和音」にはこの表現が似合う気がしました。
 菅井さんの悲鳴にも似た苦しい声を出しながら、「僕は嫌だ!」は鳥肌ものでした。苦悩して出した答えのようで本当に素晴らしかったです。曲の終盤で外れたイヤモニもそのままに踊る姿が本当に凛々しくて美しかったです。
 そして、曲終わりの三角形になるフォーメーションからのあの手だけの振り付けを肉眼で見られる日が来るなんて。
 この世からふと浮いたような、不思議な時間でした。
 
 この直後に「ガラスを割れ!」とか「避雷針」が来るのかもと思いましたが、「砂塵」が来たのは意外でした。でも、卒業していく彼女と砂塵が晴れて、気持ちが見えてきた曲の主人公の心情が凄く合っていたんですよね。
 素晴らしい欅曲ブロックでした。

ここからは見えなかった愛が今浮かんだ


 会場が暗転し、菅井さんの思い出VTRが流れます。
 懐かしい写真と共に様々な彼女の体験や活動が語られていきます。この辺りから周りの席で鼻をすする音や嗚咽が聞こえてきました。
 そして、お手紙を一人一人が読んでいくブロックに突入するんですが、正直に書くと長かった…。ここまで凄く気持ちが曲と共に高まっていたので、一旦、止まる感じがしました。ただ、この全員が手紙を読むというのは、長さと共に発見もあって。あの「こんにちは」から始まる子とか凄い面白いと思ってコンサート終わりから気になり始めました。
 また、あるメンバーの手紙の中に登場する「必死に引き留めようとした」という言葉は凄く印象的で。欅から櫻に変わって行く過程で離れて行く人もひょっとすると居たのかな、と感じました。表でも裏でも引き留めるために頑張ってたんだろうな、と全部は想像するしかないですが、彼女の苦労を想像しました。でも、今回のコンサートには沢山戻ってきた人がいるかもしれません。そして、櫻に留まるきっかけになる素晴らしいものだったのでは、と思います。
 今の櫻坂も面白いじゃないかと。
 多分、ここから菅井さんが居ない喪失感を感じるかも知れませんが、彼女が残してくれたものをまた同期や後輩たちが引き継いでくれるのではないかと期待しています。

黄昏の坂の途中


 東京ドームから飯田橋にあるホテルまでの坂道を歩きながら、ふと何年後かにここをまた歩くかも知れないと思いました。「条件反射で泣けてくる」のように。でも、思い出は場所だけでなく、曲の中にも宿るなと今日の欅坂46の「over ture」と「不協和音」から感じました。
 MCか手紙かは失念しましたが、「菅井さんがドームに連れて来てくれた」という表現をしていましたが、次は誰が櫻坂46を再びこの場所に連れてくるのか。櫻坂の「over ture」で最後の方に登場した4人がこれからの中心になってくるかも知れません。もう次の物語は始まっている気が僕はしています。
 その時、今日聴いた曲たちにまた別の文脈が乗っているかもしれませんし、今は後列にいるメンバーが頭角を現しているかもしれません。櫻坂の現在と欅坂の思い出が融合した東京ドーム2日目のこと、ここで響いた歌たちを僕は一生忘れないと思います。

 

こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。