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コントロールを手放したら起こったこと

人と仲良くなるまで時間がかかる割に、動物とはすぐ仲良くなれるという特技があった。

公園にいると鳩はなぜか寄ってくるし、最初は吠える犬も、ずっと一緒にいると側に来てぴったり寄り添ってくれる。嘘がない動物と一緒にいると、私もとても心地がよい。

そんな私を見込んだ友人から、旅行で留守の間、友人宅に泊まってわんちゃんと留守番してほしいという依頼を受けたことがあった。

お家で大好きな犬と一緒にいるだけの仕事なので喜んで引き受けたのだが、困ったのが散歩だった。

このとき一緒に過ごしたわんちゃん(ここでは仮名:チーズとしておく)がとても臆病な子で、いざ散歩へ出発してしまえばご機嫌で歩いてくれるのだが、出発する決意ができるまで玄関で時間をかなり要するという子だった。

最初はチーズが怖がらないように「ああ、外の世界はなんて良いところなんだ!ラララ〜♪」と私が一人で歌いながら、チーズをさりげなく連れ出すミュージカル作戦をやってみた。しかしチーズは、

*イメージ写真です

「何してんスか?」とすまし顔で動かないままである。
心なしか通行人もひどく呆れた顔でこちらを見ている気がする。

だからといって強くリードを引っ張ると、チーズは強固に抵抗した。

チーズはもともと人間に暴力を振るわれていた保護犬で、私が手を上に上げただけで「殴られる!」とビクッとするような子だった。無理やり連れ出そうとすればもっと抵抗するし、犬とはいえ結構な大きさの動物が本気で抵抗されると、私にはどうしようもできなかった。

私は観念して膝を曲げ、チーズの目線に合わせてしゃがみ込んだ。チーズの目を真っ直ぐに見る。

チーズをコントロールしたい気持ちを手放すように息を吐き出し、その代わりチーズのハートに届くようにと願いながら息を吸い、もう一度だけ心を込めて、渾身で「チーズ。行こう!」と言ってみた。

その時チーズは私が発した何かが響いたようでハッとした顔になり、座り込んでいた玄関から、すぐ階段をタタタッと降りてくれた。そしてそのまま歩道をスムーズに歩き始めた。

その後の散歩中も「おや、珍しい草だな」とか「この電信柱はチェックしないと・・」とたびたびチーズの外部視察のため歩くのが止まったが、全てを諦めてチーズに任せたところ、以外にも後半はスタスタと歩いてくれた。翌日朝の散歩はもっとスムーズに出発できた。

人はどうしても全てをコントロールしたくなる。
私も何か1つ予定していた段取りが狂うとパニックになってしまうのだけれど、コントロールを手放して、今この瞬間の心に意図を持つ。
相手に服従するのでも服従させるのでもなく、ただ真っ直ぐに目の前のことに向き合うことで、初めて物事は本当に動き出す。

そんなことを、このワンちゃんから教わった気がした。