嫉妬

 GAME OVER
 テレビ画面にはグレーがかった背景と、その上に赤黒く輝くそんな文字が。
「うわあ、また負けた。」
 勇樹はコントローラーをフローリングに置くと、頭を抱えた。
「さっきもここで負けてなかった?」
 そうわかっていて煽るように言う陽介。
「なんだよ、悪いかよ。」
「悪くはないけどさー。」
「まあまあ二人とも落ち着いて。」
 英一は二人をなだめた。

 つい数時間前までは、三人とも勇樹の家でゲームをしていたのだが、英一のふとした発言をきっかけに、三人は急遽場所を変えることにした。
 英一が母親に電話をすると、うちでいいなら全然いいけど、という返事が。
 三人は、特に勇樹が意気揚々としながら英一の家へと向かった。
 目的はただ一つ。レトロなゲームをプレイする、それに尽きる。

「そんなに言うなら陽介もやってみろよ。」
「えー、いいよ。僕も倒せる気しないし。」
「ほらー。」
「まあ昔のゲームって難しいもんね。」
「そうなんだよ、ありえないほど難しいんだよ。」
「でもこの時代の人はこれを真剣にやってたんだもんね。」
「そうだねー。」
「こういうところからゲームの歴史は始まってるんだ、面白いだろ。」
「うん、面白い。」
「いやあ、目も疲れて来たし、一旦ここらへんで休むか。」
「そうしよー。」
 やはり昔のゲームというのは、今の現実そのものみたいなゲームと違って画質も荒いもので、なかなかどうして目に来るようだ。
「じゃあ何する?」
「そりゃあ決まってるだろ。」
「うん。第592回どうやったら彼女ができるかトーク、だね。」
「うん。」
「いや、そんなにやってないよね。」
 英一は思わずツッコんだ。
「そんなことはどうでもいいんだ。」
「どうでもって。」
「いや実はさ、九十九っちに少し前から聞きたかったことだあるのよ。」
「毎回そんな入りな気もするけど。」
「失敬な。」
「ああ、ごめん。で、聞きたいことって何?」
「九十九っちと彼女さんは別の高校なわけじゃない?」
「そうだね。中学校が一緒だっただけだから。」
「別の学校同士ってどうなの?」
「どうって言われても。」
「いやほら、行事とかも違うし、一緒の学校でこうしたい、ああしたいとかはできないわけじゃん。」
「ああ、そうねー。」
「ずばり、どうなんですか?」
 二人は芸能人に迫る雑誌記者のように顔を近づける。
「落ち着いて。ね。」
「ああ、すまん。」
 二人は少し下がった。
「まあ、同じ学校だったらこれもできたな、とか思わなくはないけど、意外と普通だよ。」
「あ、そうなの?」
「うん。だって中学が一緒だったくらいだから家も近いし、意外と会えるのよ。」
「なるほど。確かに高校で付き合い始めると、家が遠い可能性もあるのか。」
「そうそう。」
「それは、一理あるな。」
「じゃああれは?嫉妬したりとかはないの?」
 陽介はもう一歩踏み込んだ質問をした。
「嫉妬も、ないねえ。」
「なんで?」
「だって、女子校だし。」
「あ、そっか。」
「そう。」
「いや、英一のことを嫉妬してるかもしれないぞ。」
「ああ……ないっしょ。」
 英一は笑って答えた。
「うーん、なんかほかに聞きたいことは?」
「待って、スマホにメモしてあるから。」
 陽介はポケットからスマホを取り出す。
「はあ、長くなりそうだね。」
 英一はため息をつくことしかできなかった。

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