厚底ブーツ

 当初の目的通り、油そばを食べる任務を終えた英一は、特にやることもなくなってしまい手持ち無沙汰だった。
 それでもこのまま帰るのは忍びない。どうしたものかと駅前をさまよっていると、何やら見たことがある人影が。
 英一は彼に近づいて声をかけた。
「大菅くん?」
 突然声をかけられた圭祐は、飛び上がって驚いた。
「わあ、九十九くん。」
「ごめん、突然声かけちゃって。」
「いや、全然。」
 圭祐は首を横に振りながら答えた。
「九十九くんはこんなところで何してんの?待ち合わせ?」
「いやその、予定が急になくなっちゃってさ、一人でラーメン食べてきたところ。」
「ああ、そうだったんだ。え、もしかして彼女とか。」
「ああ、まあ、うん。」
 英一は少し照れてみせた。
「マジか……」
 圭祐は自分で聞いておいて、少し静かになってしまった。
「あ、ごめん。」
 英一は思わず謝った。
「やめろ、謝られる方が不憫だ!」
 圭祐は大声で叫ぶ。
「ああ、ごめん。」
 英一はまた謝ってしまった。そしてそれと同時に、これまでの勇樹や陽介との会話を思い出した。
 こういったことは今までにも何度もあったが、その度に反応に困ったことを思い出された。
「あの、九十九くんも誰かと待ち合わせ。」
 このままこの話題で進めてもよくないと感じ、必死で話題をそらす。
「ああ、そう。中学の時のやつらとな。」
「へえ、そうなんだ。いいね。」
「おお。」
 と、ここまでは順調に話をしていた英一だったが、所詮はいわゆるクラスメイトの関係性。これ以上、特に話すことがなくなってしまった。
 何とも言えない空気が二人の間に流れる。
「えーっと、なんかいつもと雰囲気違うね。」
 英一はそんなふわっとした切り出し方をした。
「ああ、えっと、私服だからかな。」
 圭祐も少し困りながら答えた。
「その、なんていうか、なんかパッと見たときから違うなって思って。」
 そう、英一は圭祐を見たときから、いつもとどこか違うと感じていたのだった。
「なんていうか……あ、目線?」
 英一は違和感の正体に気づく。
「う……」
 圭祐はもごもごと口ごもった。
「あ、いや、なんかいつもと目線の位置が違うなって。」
 そう言いながら英一は圭祐の全身に改めて目を通した。
「あ、足元。」
 さっきよりも顔色が悪くなる圭祐。
「あ、ごめん。」
 英一は今日何度目だろうか、またしても謝ってしまった。
「……厚底ブーツだよ。」
「ああ、なるほど。」
 二人の間に先ほどよりも嫌な空気が流れる。
「その……似合ってる。」
「ありがとう。」
 二人は何も言えなくなってしまった。
 と、その時遠くから大きな声が。
「おーい、圭祐!」
「お、おお!」
 どうやら待ち人が来たようだ。
「ああ、じゃあ僕はこれで。」
「お、おお。またな。」
 英一は気まずい思いをしながら、逃げるようにその場を後にするのだった。

この記事が参加している募集

スキしてみて