豚骨

勇樹と陽介は二人揃って珍しく電車に乗って都心部の方まで足を運んだ。
「土曜日にこっちまで来ることなかなかないけど、こんなに混んでるんだな。」
「さすが、都心って感じ!」
「いや、東京に比べたら大したことないだろ。」
「まあそうだけど。」
そんな会話をしながら、二人は待ち合わせ場所で英一を待っていた。
「あ、九十九っちじゃない?」
「おお、本当だ。」
英一は二人に気づくと軽く手を振り、小走りで近づいてきた。
「ごめんごめん、もう着いてた。」
「いやついさっき着いたところだから。」
「そうそう。」
「いやあ、僕が言い出しっぺなのに。」
「いや、いいってば。」
「おお。で、今日はどうしたんだよ。」
「そうだ、何するか聞いてなかったもんね。」
「うん、ズバリお腹は空かせてきた?」
「うん、ペコペコだよ!」
「俺も、一応朝ごはんは食べずに来た。」
「さすが二人!ここで話しててもあれだし、とりあえず行こうか。」
英一の提案に二人は納得した。
「二人は結構こっちの方まで来るの?」
「いや、さっきも陽介と話してたけど、全然だよ。」
「なんかオシャレに興味あったりすれば、買い物とかで来るのかもね。」
「確かにな。英一は、よく来るの?」
「うーん、まあ彼女と遊ぶ時くらいかな。」
英一はいつも通りの調子で、全く嫌味なしに言ったが、二人はなんとも言えなくなった。
「……ああ、ごめん。」
そんな二人の様子を察して謝る英一。
「いや、いいんだ。」
「聞いたこっちが悪かったよ。」
「そんな……まあ、気を取り直して、ね?」
「ああ、そうだな。」
「うん。」
三人は先ほどよりも少し重い足取りで目的地を目指した。
少し進むと、何やら人が列を成しているのが見てとれた。
「お、もう着くよ。」
「あ、あの列?」
「そうそう。」
「ん、なんかいい匂いしてきた。」
陽介は鼻をヒクヒクさせながら言った。
列の後方に近づくと、とりあえず並ぼう、という英一の言葉に二人も従った。
「で、ここは、ラーメン屋?」
「正解!」
「えーっと、豚骨?」
「そう、豚骨ラーメンのお店。」
「へえ。いいじゃん。」
「普段なかなか食べないもんね。」
「ああ、確かに。」
「あ、本当?ここ食べたら、もうここの豚骨ラーメン以外食べられなくなるかもよ。」
「そんなに美味しいんだ。」
「そう!しかも美味しいだけじゃないのよ。」
「美味しいだけじゃない?」
「僕は昨日二人になんて言ったっけ?」
「なんて?」
「お腹空かせてこい、って。」
「ああ、そうだそうだ。」
「そう。このお店はね、学生は替え玉5つまで無料なのよ!」
「「5つまで?」」
二人は思わずハモった。
「すごいでしょ。」
「いやすごいっていうか……」
「無理だろ。」
「いや、無理じゃない。」
「いや無理だって。」
「決めつけは良くないって。」
「いや……」
「確かにね。」
陽介は首を縦に振った。
「なんで納得すんだよ。」
勇樹もすかさずツッコむ。
「まあ5回は多くてもさ、せっかくならいけるだけいってみようよ。」
「それは、そうだな。」
「確かに、せっかくの機会だもんね!」
三人はなんてことない話に花を咲かせながら自分たちの順番が来るのを待った。
「そういえば、替え玉無料って土曜日でもやってるの?」
「そりゃあ……あれ、どうだろ。」
「え、やってないの?」
「いや、待って。」
英一は慌ててスマホを取り出し、店名を検索し始めた。
「あ……」
「え?」
「おお?」
「平日だけでした……」
英一は落胆した表情で答えた。
「まあ、仕方ない。」
「土日祝日は、学生は1玉まで無料だって。」
「おお、それならいいよ、ねえ?」
「うん、全然いいだろ。」
「ありがとう。この前来た時は平日だったから、つい。」
「まさか、デートで来たのか?」
「いや……」
勇樹の察しの良さが裏目に出る。
「次の方、三名様ですか?」
「あ、はい。」
元気な店員さんに、悲しそうな声で英一が答える。
「食券を購入してからお座りください。」
「「「はい。」」」
三人ともが少し憂いを帯びた表情で店内に入っていった。

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