俊作が大河に連れられて入った居酒屋は、普段みんなで連れ立って入るようなチェーン展開された店や大衆酒場とは違い、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「うん、よさげだね。」
「そうだなあ。」
「ごめんな、俊作。急遽こんなところまで付き合ってもらっちゃって。」
「いや、気にすんなって。俺も同じゼミなんだし。」
「はあ、まさか俺がゼミ飲みの幹事を務めるだなんて。」
「まあ、決まったことだからな。」
「大変だ……」
 大河は静かにそうこぼした。
「いや、大変だと思うよ。」
 俊作も同情を禁じえなかった。
「普段の飲み会なら全然気張らないんだけどな。」
「まあな。」
「忘年会ともなると教授まで参加するから、俺たちがよく行くようなお店じゃダメだもんな。」
「仕方ない。一人三千円握れば足りるような店じゃ、ご老体の教授は納得できないだろうからな。」
「俺は全然それでもいいけどな!」
「まあまあ。でもほら、これから社会に出たら上司のために店を探すなんてこともあると思うし、その練習だと思ってさ。」
「え、そんなのもあんの?」
「なんか、そうらしい。」
「はあ。」
 大河は深くため息をついた。
 すると二人のいる個室の扉が叩く音が。
「失礼します。」
「はーい。」
扉が開くと、そこにはさわやかな笑顔が似合う若い男性店員が。
「こちら、ビールでございます。」
「ありがとございます。」
 二人はジョッキを受け取る。
「ご注文はお決まりでしょうか。」
「ああ、いやまだです。」
「かしこまりました。ではまた後程お伺いします。」
「はい。」
 男性店員は、またニコっと微笑むと扉を閉めた。
「やっぱこういうとこってバイト大変なのかな。」
「まあしっかりしてるだろうからな。でもその代わり、お客さんの質もいいんじゃないか。」
「ああ、それもあるな。」
「とりあえず、メニューでも見よう。」
 俊作は二つあったメニューを取り、一つを大河に渡した。
「ありがとう。」
 二人はしばしメニューとにらめっこをする。
「うーん、でも実際当日はコースで頼むんでしょ。」
「そうだね、まあ多少変えられるものがないか、くらいは聞いてみてって感じかな。」
「じゃあまあ今日は、コースに入ってるようなのと、気になるの食べてみるか。」
「まあ、それでいいでしょ。」
「うーん、串か。」
「そうそう、ここのお店は串が人気らしいよ。」
「へえ。」
「とりあえず、この串盛りいく?」
「いや。」
 俊作は静止した。
「え?」
「俺はな、串盛りってあんまり納得いってないんだよ。」
「なんで?」
「串盛りってさ、結局何食べてるかわからなくならない?」
「まあ、そうね。」
「多分、せせりだろ、とかいうじゃん。」
「そんなのあるね。」
「いやこれでな、めちゃくちゃお得とかならいいんだ。でも別に、特段そういうわけでもないだろ。」
「まあ、そうなんだよな。」
「だから、串盛りはやめよう。今日は下見、しっかり気になるのを吟味しよう。」
「わかった。」
 そういうと二人は再び、メニューとにらめっこをするのだった。

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