良作

「普段ゲームとかあんまりしないんだけどさ、やっぱりいざやってみると楽しいね。」
「お、英一もついにこの素晴らしさに気づいたか。」
 日曜日、学校が休みということもあり、陽介と栄一は勇樹の家に遊びに来ていた。
「九十九っちは普段あんまりゲームとかしないの?」
「そうだねえ。あ、でも、僕兄貴がいるんだけど、10歳も歳離れてて。」
「あの、芸人さんの?」
「そうそう。」
「もちろんまだ続けてるの?」
「そうみたいよ。いや、で、兄貴は昔は結構ゲーム好きだったから、懐かしいようなゲームは家に結構あったかな。」
「えー、すげえ。そういう昔のゲームとかってやったことないんだよ。」
「ああ、そうなんだ。」
「そうそう。レトロなゲームって、意外と値段張ったりして、手が出せないのよね。」
「ああ、そうなんだ。」
「え、その頃のゲームってまだ使えるの?」
「うん、多分使えると思う。」
「マジか!」
「まっつん、テンション高いなあ。」
「いやだって、テンション、そりゃあ上がるよ。」
「え、なんで?」
「それこそゲーム全般好きだからさ、動画とかで昔懐かしい名作特集とか、もう一度プレイしたい良作〇選みたいなやつ、ついつい見ちゃうのよ。」
「ああ、そうなんだ。え、じゃあ、もしうちのゲーム使えたら、やりにくる?」
「え、いいの?」
 勇樹は珍しく大きな声で、喜びの感情をあらわにした。
「う、うん。」
 思った以上の反応に少しばかり引いてしまう英一。
「ちょっとまっつん、九十九っちがびっくりしてるから。」
「ああ、すまん。」
 冷静さを取り戻したのか、勇樹は英一に平謝りした。
「ああ、全然いいよ。」
「え、例えば、カセットだけは買いやすかったりするから、やりたいゲーム買って持って行ってもいいの?」
「うん、全然いいよ。いやでも久しくやってないから、無事プレイできたらの話だけどね。」
「全然いい。なんならプレイできなくても、実物触れるだけで嬉しい。」
「それはどうなの?」
「いやだってゲーム機なんて箱入ってたりするからさ、本当に昔のゲームは触ったことすらないんだぜ。」
「ああ、まあそっか。」
「え、いつならいいの?」
「いつって、まあいつでもいいけど。」
「今日は?」
「今日?」
「ちょっとまっつん落ち着いてって。」
 陽介が制止する。
「いや、別にいいけど。」
「よし、今から行こう。」
「え、今から?」
「大丈夫、まだ二時前だし。」
「いや時間の問題じゃなくて。」
「じゃあ、一応今聞いてみるから待ってて。」
「ありがとう!」
 英一はスマホを取り出すと一旦部屋を後にした。
「もう、まっつんたら。」
「いやあ、楽しみだなあ。」
 陽介は少し勇気を諫めようかと思ったが、子供のように輝いた眼をしている勇樹に対して、そんな野暮なまねはできなかった。

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