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2023年上半期 良かったアルバム25枚

こんにちは。2023年も半分が終わり、みなさまどんな感じでしょうか。大豊作だった昨年を経て、年始あたりでは音楽ファンの間で「不作」という声も聞かれましたが、そんな予想をいい意味で裏切る、たくさんの良作が我々を楽しませてくれました。ここでは、その中でも個人的に特に好きだったものをまとめておきたいと思います。

良かった作品

大まかにジャンル別に並べています。アルバムタイトルを押すとsongwhipのページに飛べるので、気になった方はそちらからどうぞ!

The Record / boygenius

現行USオルタナポップシーンを代表する、Julien Baker, Phoebe Bridgers, Lucy Dacusの3人によるスーパーグループ。3人がそれぞれ、他の2人に支えられながらボーカルを回し合ったあと、サビで3声が重なるようなところに、まさに「盟友」と呼ぶべき3人の友情を感じて素直に熱くなってしまう。自分が結局少年マンガの世界観で生きていることを分からせられる。久々に一聴して真正面から食らった感がありました。仲間とともに音楽を鳴らす楽しさを、2020年代において改めて宣言してみせた大傑作といえるでしょう。グランジ以降のUSインディーギターを総決算するような、優れたソングライティングも必聴です。

After the Magic / Parannoul

Parannoulの新譜。歌詞に描かれた青春の終わりは、2年前の衝撃が過ぎ去り、インターネットの特異点としての役目を終えつつある彼の姿をその相似形として描き出しているように思います。私の好きな『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない(桜庭一樹)』という小説には、ある種神秘的な魅力を持っていた主人公の引きこもりの兄が、数年ぶりに家を出た途端にその神性を失ってしまう、という描写があるのですが、おそらくParannoulにもそのような瞬間が訪れたのでしょう。しかし本作では、それを他でもない彼自身が、2年前よりも格段に力強く洗練された爆音・轟音で祝福しています。無名の宅録作家から一躍インターネットのカルトスターとなったこの2年間を「Magic」と呼び、それに別れを告げて外へ踏み出すタイトルと、こうした力強い音像からは、自身が形成してきたシーンを超えて改めて音楽家としての自己を確立させる覚悟を感じます。こういった、作家が己の魂を救済するためだけに書いた作品が私は大好き。ジャケットに描かれた通りの、美しいノイズに彩られた光と希望のアルバムです。本当にありがとう、おめでとう。

Everything Harmony / The Lemon Twigs

稀代の天才ソングメイカー・ダダリオ兄弟を擁するThe Lemon Twigsの新譜。まず何よりもメロディが強すぎて泣いてしまう。それを伸びやかに歌い上げるボーカルと、シンプルながらも美しいコーラスワーク、バロックポップやインディーギターの暖かみとが重なり合った豊かな響きとが、核としてのメロディをさらに力強く引き立てていて、"Everything Harmony"というタイトルにも納得の傑作です。

Stereo Mind Game / Daughter

4AD発、ロンドンの3ピースバンド。ソリッドに削ぎ落とされたリズム隊が作る静かな高揚感と、その間隙を埋めるように広がるドリーミーなリバーブサウンド、コーラスワークとの組み合わせに酔いしれる、ドリームポップ、サッドコアの大傑作です。「酔いしれる」という表現がこれほど適切に思える作品もそうありません。

Less / deathcrash

同じくロンドンのスロウコアバンド・deathcrashの新譜。バンドサウンドのみで深淵な空間を作り出してしまうダイナミズムと録音の妙。ながら聴きだとスッと流れていってしまうくらい滑らかなサウンドですが、家でゆっくり聴いていると、彼らの音だけが響く虚空に捉われてどんどん吸い込まれていくような気分になる一枚です。世の中には家でゆっくり聴かないとわからない音楽があることを再確認。

Zango / WITCH

アフリカはザンビアのロックバンド。今回の新譜で初めて知ったバンドなのですが、1970年代に活動した「ザム・ロック(ロックとアフリカ音楽を掛け合わせたジャンル)」を代表するグループらしく、政治的要因により活動を停止してから実に40年ぶりの新作リリースだったそうです。サウンド面では、サイケやファンク基調のギターフレーズと、トライバルなリズム隊とコーラスワークががっちり噛み合っていて、全体的にドロッとした身体的なグルーヴが感じられて非常に気持ちよいです。やっぱり人類みな根はアフリカなんだよな。真逆のアプローチではあるけれど、Talking Headsはこれをやりたかったのかもな、と思ったり。

The Worm / HMLTD

HMLTDの2年ぶりの新譜は、メジャーレーベルで辛酸を舐めた彼らの怒りと意地と底力を感じる意欲作。ロックサウンドはもとより、フリージャズ的な演奏やストリングスとのコラボレーション、大胆なサンプリングといった、ジャンルの垣根を縦横無尽に飛び越える、鬼が出るか蛇が出るかの編曲力に圧倒されっぱなしのアルバムでした。シリアスで壮大でブチ切れた楽曲の中に、したりげな「音楽楽しすぎワロタ」感も漂う激ヤバの怪作です。

Green Unleaded are the Product / Green Unleaded

エディンバラのバンドということ以外ほとんど情報が見つけられない謎のグループ。90年代以降Curveなどが試みてきた、シューゲ〜ドリームポップ的なノイズとエレクトロなビートやヒップホップとの組み合わせを、最近のインターネット音楽やベッドルームポップの耽美的でdepressiveなモードで仕上げた感じ。RYMだとそこそこ好評な割にSpotifyの再生数はあんまりですが、私はめちゃくちゃ好きです。

But Here We Are / Foo Fighters

フーファイ新譜。バンドの精神的支柱でもあったドラマー、テイラー・ホーキンスの急死という、悲劇的状況からこのゴリゴリのロックサウンドを決めてるの素直にカッコよすぎと思うし、そこに至る決意とか苦悩みたいなのがダイレクトに感じられてかなりグッと来てしまいました。タイトル曲もこの曲名でデイヴが叩くドラムのパワー強めなのが熱い。彼らのキャリアでも屈指の大名盤だと思います。

Lucky For You / Bully

初めて聴いたバンドですが、かなり好きでした。女性ボーカルのインディーロックだけど、boygeniusとはまた違って、いわゆるSad Girl Indie的ではない。USオルタナ直系のサウンドにコートニーラブを思わせるしゃがれた歌声が乗る(まあそれはもうHoleなんだが)、Sub Popらしいパワフルでキャッチーな良グランジです。

Cuts & Bruises / Inhaler

めーちゃくちゃ良かった。1975以来のある種キラキラしたポップネスとUKロックの伝統的な気怠さ・耽美さをいい具合で折衷していて、BFIAFLやThe Carで摂取できなかったストレートなUK的カッコよさへの憧憬が満たされた感覚があります。2ndアルバムにして、UKロックシーンのこれまでを背負い、さらに未来を見据える気概十分です。サマソニが楽しみ!

the whaler / Home Is Where

フロリダの4人組エモ〜ポスコアバンド。激情と静穏、緊張と緩和、躁と鬱のシャープなコントラストが印象的な傑作アルバムです。突き刺すようなシャウトでウオオオオとなる曲もあれば、シンプルで暖かなメロとリフで泣かせるアンセミックな曲もあり、互いが互いをうまく引き立てているように思います。ギターの感じがなんとなく邦オルタナにも近く、案外幅広い層に耳馴染みがいいかも。

electric angel / that same street

ハードコアバンド・moreruのメンバーによるサイドプロジェクト。合成音声(初音ミク)の透明さとスクリームの狂躁との強烈な違和でなんだかどうしようもなく不安な気持ちになる異常音楽。じわじわと盛り上がる「ミクゲイザー」シーンや、折り返しに入った感もあるエモリバイバルにも呼応するような、現行インターネットミュージック最右翼の一つとさえ言うべきEPです。

animacy / 衿

ボカロシーンではこちらも外せませんね。新世代、異形のボカロPが現れました。カルチャーの発展・散逸とともにボーカルシンセサイザーの選択肢の一つと成り果てた電子の歌姫・初音ミクの「再神格化」という、いわば現実と非現実の垣根を超越するオタク的な偏執を、インターネットを漂うドラムンベースの亡霊と初音ミクを融合させることで強引にも実現した怪作。6曲12分のスピード感、その最後を正統派の初音ミクの歌モノで締める構成、そして全ての曲に初音ミクをクレジットする徹底さなど、作家性を鮮烈に刻みつけた素晴らしいデビュー作です。
どうもまだかなり若い学生さんらしいのですが、日本の電子音楽シーンってなんでこんなに早熟な作家が多いんですかね。imoutoid然り、長谷川白紙、Telematic Visions然り……

happyender girl / ex. happyender girl

ボカロもういっちょ。先ほども言及した「ミクゲイザー」ド真ん中のアルバムです。焦燥感のあるギターロックでありつつ、全体的に漂うこの独特のDTM感が、どこか寂寞とした作風を強めていてたまらない。「ミクゲイザー」といいつつ、どちらかというとポストロック全般からの影響の方が強いのでは?と思ったりもするジャンルですが、いずれにしても「合成音声の、非存在という概念やあどけない声質からくる一種のイノセンスと、サウンドの冷たいシリアスさの違和」というのが一つ重要な要素なのかなと思います。本作はそれが特に顕著に感じられる作品です。ジャケットも最高。

Fine Line / パソコン音楽クラブ

今年のポップスではこれが今のところ一番好きです。こういうオタクがオタクなりのやり方で超楽しいポップスをやってみせている感じはほんと一つの理想なんですよね(他には『ディスコの神様』や『Fun Tonight』などがこれにあたります)。中盤で持ち味のキッチュなエレクトロミュージックに振れるのも、「いや、全然やりたいことやってるだけですけどね」と言われているようでニクい。問答無用で最高になれるアルバムです。

GOOD POP / PAS TASTA

邦ハイパーポップシーンを代表する6人が集まった、スーパーグループ・ PAS TASTAの1stフルアルバム。一癖も二癖もある、それでいてどこか可愛い、センスとパワーとユーモアに溢れたGOOD POPが並ぶ傑作です。Cwondoや崎山蒼志、Peterparker69など客演も非常に豪華で、2023年日本のエッジィなポップシーンを象徴するような作品になっています。特に、ピーナッツくんとのコラボ曲 "peanut phenomenon" はアンセム級の大名曲。

10,000 gecs / 100 gecs

2019年の "1000 gecs" に続く、セカンドアルバム "10,000 gecs"。バカにしてんのか?
しかしそういうふざけた態度まで含めてかなり好きな一枚です。ポップパンクとEDMの周辺を軸に、各ジャンルがそれぞれ持っていたハッピーなエッセンスをハイパーポップの腕力で悪魔合体させたサイコーのアルバム。唐突に始まるスカパンクとかほんと最高。問答無用で笑顔になれます。

Back In The Day / Swami Sound

にわかに盛り上がる「NYCガレージ」の立役者。ハウスがイギリスで発展したところのUKガラージを逆輸入するような格好で生まれた音楽らしく、そのプロセス自体も面白いなと思います。カスみたいな感想になってしまうけど、ジャングルとかUKガラージのビートがチャカチャカしてるの好きなんですよね。それでいて決して音数が多いわけではないところに「アーバンな感じ」があるのかなとも思います。

Beloved! Paradise! Jazz!? / McKinley Dixon

生演奏主体のヒップホップ。すんばらしい出来です。ウワモノこそラップですが、バックの演奏は極めて良質でグルーヴィなジャズ~R&Bで、両者の絡み合いは聴き応え十分。ぜひ一度生でパフォーマンスを観てみたいアーティストの一人です。

With a Hammer / Yaeji

本作で初めて聴いた方。楽曲のクオリティもさることながら、歌声が天才的に良かったです。メロウで緊張感あるトラックとアニメ声との対比でザワつかせたかと思えば、ネオソウル的な深みを見せてハッとさせたり、時には合成音声的な存在感の透明さすら感じさせる、唯一無二の表現力を持ったボーカルだと思います。

Gril In The Half Peral / Liv.e

ネオソウルを基調としつつも、ドラムンベースやグリッチ、さらにはVaporwaveすら思わせる不穏な「異物」でその心地よいグルーヴをあえて破壊し、聴き手を混沌へと突き落とす異形の音楽。苦悩の渦巻く歌詞世界もそうしたカオティックな音楽性とリンクして、極めて圧の強いアルバムになっていると思います。衝撃度でいえば、今年のリリースでは一番大きかったものの一つかも知れません。

Heavy Heavy / Young Fathers

異形の音楽という点では、こちらもものすごい作品でした。地下のスタジオにメンバー3人だけで篭って制作されたという本作は、自由な発想と、制限された環境下でそれを発揮したがための狂気的なエネルギーに満ち溢れた怪作に仕上がっています。至上の快楽に向かって加速していくような、トライバルなコーラスワークや異様に性急なビートが、まさに一種の麻薬をキメているような、多幸感と焦燥感が同居する異常な精神状態へと聴き手を誘います。最恐の一枚。

UGLY / slowthai

ギターオリエンテッドに振り切ったサウンドなど語るべき点はたくさんある気がしますが、個人的には、執拗に選択されるリズムやフレーズの「反復」のアプローチが印象的なアルバムでした。やっぱり反復って、ダンスミュージックから宗教儀礼に至るまでみられる、根源的な高揚感に結びついたアプローチだよなって思うのと、本作ではサウンドのダーティさゆえの緊迫感・焦燥感がそれとうまく噛み合ってるなあと思います。世界をシリアスにアジテートするようなアルバム。サマソニ楽しみだったんですけど、性的暴行で起訴されてしまったらしく……うーん……

Proof Of Life / Joy Oladokun

本作で初めて知った方。R&Bを基調としていつつも、随所で差し込まれるロックっぽい直線的なノリが効果的に噛み合って、良質なグルーヴと耳馴染み良いポップスとしての強度がかなり高いレベルで両立されていると思います。特に終盤ビートルズ×グランジみたいな曲来て良すぎて笑ってしまった。

おわりに

というわけで、私的な2023年上半期ベストでした。大半がこれまでのnoteとツイートの再放送でしたが……

新譜digのペースが少し落ちていた時期もありつつ、それでもたくさんの良作に出会えた上半期でした。改めて下半期も楽しみに音楽を聴いていこう!……と思っていた矢先、ちょうどこれを書いているタイミングでにわかに沸き立つTwitterサ終の気配。これまで自分は音楽情報収集の一定部分をTwitterのTLに頼っていたため、そろそろ本格的に代替案を考えておかないとなあと思い始めました。マストドンもmisskeyも今のところTwitterの代わりにはなりきれていない感じなので、とりあえずは慣れているインスタで移住基盤を作っておくことを検討中ですが、どうしたもんですかね。

noteでこうして一般人が感想の駄文を投稿できることも実は当たり前ではないのだよな……と感謝しつつ、今年後半もほそぼそ続けていければと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました!


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