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寝る前の2時間は、彼との時間。【短編】

22時から24時の間。
この2時間が、私と祥太の時間だ。

私は祥太との時間を1秒も減らさないように、ご飯、お風呂を全部済ませてしまう。そしてベッドの上に座って、22時を迎える。
そして祥太との時間を2時間たっぷり過ごし、24時に「おやすみ」を言い合って眠りにつく。それが私の日課。

毎朝6時には起きなきゃいけないから少し眠いけど、祥太のためなら頑張れる。それくらい私は彼が大好き。だから全然平気だって思ってる。


祥太は歌手で、アプリがきっかけで出会った。祥太との出会いは本当に運命としか言いようがなくて、一生懸命歌う姿を見て、私はすぐに大好きになった。

祥太は歌が上手なだけじゃなくて、喋るのも上手だ。いつもその日にあったことなどを楽しく話してくれる。昨日はたしか、配達に来たウーバーイーツの人がすごく変わってたって話をしてくれた。あとはなんだったか、あまり覚えてない。

話をあまり覚えてないのは、楽しそうに話す彼を見ることばかりに気がいってしまうから。ほんとに話も面白くて、いつも笑わせてくれて、元気をもらう。でもスマホ画面の向こう側で、祥太がニコニコ話してるのを見るだけで、私は幸せなのだ。

「今日はランチ何を食べたの?」とか聞くと、それにも答えてくれる。確か昨日は、ラーメンって言ってた。その前の日もラーメンって言ってて、「体に悪いよ」って注意した。
そしたら祥太は、「でも最近ハマってるラーメン屋さんがあってさーやめられないんだよね」と困った顔して笑ってて。そんな彼が、私はまた好きになってしまった。

健康には気をつけてほしいけど、幸せそうな祥太が見ていたい。コロナで会う機会がとれないけど……「今はお互い我慢だよ」って言われたから、私は素直に信じて、会える日を楽しみ待っている。こういう気持ち、きっと祥太も同じだよね。


時間は21時55分。
その頃になると、私はスマホを覗き込んでアプリを立ち上げる。


『祥太 生配信 22時~』
そんな無機質な画面が、22時になると切り替わる。


すると今夜もスマホの中で「こんばんは」と祥太が笑顔を向けてくれた。
私もコメントで「こんばんは!」と返す。
たくさんの人の「こんばんは」でコメントが流れていってしまうけど、私は全然気にならない。時々自分のコメントが祥太の目に触れれば、それで十分満足なのだ。

「今日は歌も歌いたいんだけど、先にちょっとおしゃべりしようかな」
祥太はいつもの笑顔を浮かべて今日あったことを話してくれる。それに笑ったりコメントしたりして返す。


この想いは一方通行だけど、これが私の至福の時間。


「好き」にかたちなんてない。
「好き」は「恋」に発展しないといけなくて、
「恋」は「両思い」にならないといけないなんて、誰が決めた?


寝る前の2時間。
私は毎晩、大好きな彼と過ごすんだ。


END.

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