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読書感想「代替医療のトリック」 サイモン・シン エツァート・エルンスト


YouTube番組「ゆるコンピューター科学ラジオ」のパーソナリティー堀元見さんがサ
イモン・シンの「暗号解読」という本を勧めていたので音訳があるかと調べてみたと
ころ、あるにはあったがダウンロードはできないタイトルだった。
そしたら同じ著者のダウンロードできる著作にこのタイトルを見つけた。ペーパーと
はいえ鍼灸師の免許持ちとしては捨て置くことはできず読むことにした。
自分はペーパーだけど一応気になるではないか。


論文やら何やら科学的論拠に基づいているのだろうけれど、とにかく論調がヒステリ
ックなのが気になった。そりゃわからないでもない。お医者さんが頑張っているのに
民間療法に頼った挙句がんが悪化して亡くなったとか極端な食事療法で命を落とした
などという話がSNSなどを介して私の耳にさえ届いてくる。これは一部の有名人の話
だったりするのだろうから市井では同じようなことがもっと頻発しているに違いない



私は鍼灸以外の代替医療についてはわからない。鍼については「気」が科学的に証明
されない限り胡散臭い認定されても仕方がない所はあるだろう。森羅万象は「陰陽」
と「五行」に分けられるから生き物の体もその法則に準ずると言われても科学的とは
言い難い。


本書にもあるとおり、代替医療は底深い沼、鍼灸一つとってもとにかくいろいろなア
プローチがある。ペーパー鍼灸師としてはその中のどこら辺を「鍼治療」として定義
しているかが明確になっていない段階で説得力に欠ける。

「刺さないダミー鍼」を使ったり表面だけを刺すなんて言う実験をしているけれど、
実際の現場では刺さない鍼も治療に使う。接触鍼という手法もあるし伝統的アプロー
チでは深く刺すことはほとんどない。、刺す場所も1か所か2か所くらいだったりする
事もある。
一方、使う鍼の本数で値段が変わってくるなんて言う治療院もある。

そんなわけで、一応免許だけは持っている身としては「鍼治療」と十把一絡げにする
のはいささか無理があるのではないだろうかと思う次第である

だからと言って鍼が万能なわけではない。
日本では鍼灸の資格は国家資格だけれど、私でさえそこそこまじめに勉強すれば取れ
るような簡単な資格。結構誰でも取れてしまうので鍼灸師のクォリティーは玉石混交
。私みたいな箸棒から仙人みたいな先生までいる。
しかも鍼の「四診」という診断は西洋医学のような客観的計測ができないから施術者
の能力によって変わってきてしまう。
本来は全員が仙人と同じ診断ができなければならないけれど、なかなかそんなわけに
はいかないところがまた突っ込まれる要因になっているのではないだろうか。


所でなぜ保険も聞かない高額な代替医療に人々は殺到するのか。
本編にもあったように西洋医学は冷たいと感じるというのは一因だろう。「3時間待
ち3分診療」なんて言われていることからも察せられる。

私のアトピー由来の汗疱状湿疹を見つけたのは全盲の鍼の先生。近所の皮膚科の先生
はしばらく気づかなかった。
そこの病院はいつも混んでいてほとんど流れ作業で診察していた。アトピーは日常生
活の中でも注意しなければならない事がいろいろあるのに、そういう生活指導も一切
なし。私はステロイドの種類に段階があることや熱いお風呂はNGなどネットで調べて
初めて知った。

その後いつまでたっても皮膚の状態が改善しないので家族が見つけてきたアトピー外
来という所に行ったら、薬が全取り換えになった。お陰様で今は私が「ステロイド職
人」と呼んでいる先生の下不通に日常生活を送れるレベルに改善した。

私はたまたまいい先生に巡り合えたからよかったけれど、そうでなければ代替医療に
流れていくのは必定だっただろう。もう病院何て信じられないという事になる。


友人の鍼灸師が「西洋でも東洋でもとにかく治ればいいんだ」と言っていたけれど、
私は彼に同意である。

医者でも代替医療の施術者程ではないだろうがバラつきがあるのは仕方がない。「名
医」に当たればいいけれど、外れに当たるケースだってある。極端なドクターショッ
ピングに走るのもどうかと思うが、自分をある程度知識を持って納得できる道を選ぶ
ことが肝要。


著者は代替医療の中でも特にホメオパシーをディスっていた。ホメオパシーは日本で
はあまりメジャーではなく私も名前くらいしか知らなかった。
ここで紹介されている限りではそんなめちゃくちゃ薄めた薬に何の効果があるのかと
疑念がわく。

しかし鍼についてのコメントに説得力がなかったことを考えるとホメオパシーについ
ても本当に正しい評価がなされているのだろうかと疑わしく思ってしまう。


本編ではいろいろな代替医療に対してのコメントがあったが、漢方薬については「わ
からない」という結論だった。鍼灸も流派によっては漢方薬と同じ診断法を使ってい
るのだから「わからない」に分類されてもいいのではないだろうか。


西洋医学の薬は莫大なお金をかけて精緻な実験を繰り返して世に出てくる。それでも
効く人がいたり効かない人がいたり。
いわんや代替医療をやというところだろう。

ろくなエビデンスもないくせに高額をぼった来る代替医療に腹を立てる気持ちはわか
る。
だからと言って全部が全部プラセボだと言い切るのも極端なのではないだろうか。病
院で出された薬が効いたのか、鍼が聞いたのか、はたまた時間が治したのか。その辺
は結局よくわからない。


とにかく死を目前に後悔しないよう自分にとって何が大切か、病気になってからおた
おたしないよう指針を持つことが必要。そのためには自分も知識を持たなければいけ
ないなと改めて教えられた一冊だった。

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