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見えなくても習字


クラブハウスの朗読ルームでお世話になっている人が埼玉の越谷の朗読会に出演する
という。これは是非にと聞きに行った。

朗読と書道のコラボという不思議なイベント。
朗読の先生が読んだ中島敦の「山月記」の中から気になったフレーズを出演者も観客
も皆ではがき大の神に筆で書いてみようという試みだった。

ちなみに朗読仲間の京都出身の彼女は始めに場を和ませてくれるような絵本を読んで
くれました。
京野菜がたくさん出てくる作品で彼女のネイティブ京都弁が光っておりました。


私は見えないのでもちろん文字何て書けない。最近はボールペンでも複雑な感じはお
団子になってしまうので「りょうしゅうしょ」とかひらがなで書いている。
文字は相手に伝わってなんぼ、読めなかったら意味がない。

そんなわけで私の分は書道の先生が一緒に書いてくれるという事になった。
しかし先生は全員分のはがきにハンコを押して回らなければならない。だから私はな
るべく簡単にと思い一文字を選んだ。
山月記といえばやはり虎だろう。という事で、別にタイガースファンではないけれど
、「虎」の一文字を先生と一緒に書いた。


見えなくなってからはできない事は多いし、何をやるのも人の何倍も時間がかかる。
本当にろくなことがないけれど、一つだけよかった事がある。
それはお葬式や結婚式で「ご芳名」を書かなくてよくなったこと。

、前に友達の結婚式に呼ばれた時、ご芳名をという事で筆ペンを渡された。私の分は
ごく自然に字のうまい友達が代筆してくれた。
私は見えていたころから特に毛筆が壊滅的に下手だったのだ。

やはりあまり字のうまくない友達もうまい友達に書いてほしいと頼んでいたけれど、
「あなたは見えるでしょ」と却下されてしまった。
10年に1回あるかないかの「見えなくてよかった」瞬間だった。


今回の朗読会に一緒に行ってくれた友達は「修二なんて小学校以来」なんて言ってい
たけれど、普通の学校は中高では習字をやらないのだろうか。

私の学校は私立の女子高だったけれど、中高になっても毛筆はもちろんペン習字まで
やらされた。

今考えると私は持ち方も変だったし筆圧も高かったので滑らかで美しい文字が書けな
かった。
でも昔から目が悪かったためだろうか、字はうまくはないが濃く大きく読みやすいと
言われていた。
文字はコミュニケーション手段。達筆すぎて読めないよりは読めてなんぼだろう。芸
術的なのは別カテゴリーでやってくれという気持ちだった。


一方姉は書道部で手本として書道室に作品が貼り出される常連。ペン習字もうまかっ
た。
だから私のふがいなさを見るに見かねてわざと下手に書いて習字の宿題に持たせてく
れたのはいいけれど、適当に書いたものすら銅賞を取って私が拍手されるといういた
たまれない状況になった。よく知っている友達は「あれお姉ちゃんが書いたんだよね
」と苦笑い。

習字と言うとそれらの黒歴史が走馬灯のように流れる。
しかし今は目が見えなくなったので人前で字を書くという呪いからまんまと解放され
たのである。


とは言え宅配便の伝票も役所や銀行の書類も書けないのは不便極まりない。

銀行では代筆はだめな場合もある。家族でも血縁関係があると証明できなければ受理
できないと言われた事もある。

最近はペーパーレスになったとはいえ、今度はタブレットにペンみたいなやつで名前
や住所を書いてくださいなんて言われる。

私は大学まで晴眼者として生活していたのでとりあえず文字は書ける。だから「所定
の位置からはみ出しますよ」とか言って宅配便の受領書類にサインしたりしていたけ
れど、小さいころから見えなくて、文字を書いた経験のない人はもっと大変に違いな
い。

そう考えると習字はともかくやはり文字が書けないのはよかった事とは言えない。
物によってはヘルパーさんにお願いするのはためらわれるものもある。

就職のエントリーシートや入国審査のあれこれなど、書くところを間違えて試験が受
けられなくなった人や強制帰国になった留学生の話を聞いたことがある。


今はエントリーするにもペーパーレスになりオンライン上でできる事も増えた。
とは言え音声ソフトの問題なのかHPのバグなのか、うまく入力できるものとできない
ものがある。

音声が出力しているところにしかフォーカスが当たらないから全体を把握できず、入
力を間違えるリスクも高い。

ラジオボタンにチェックが入れられず、結局時間ばかりかかったけれど自分ではでき
なかった事もあった。

とにかくサクサクできる時となんだかよくわからないときがある。

いずれにしろやはり見えないと不自由なことの方が圧倒的に多いようだ。


ちなみに朗読会は普段あまりお会いできない人とも会えたし、朗読も絵本から文学作
品まで堪能できました。
観客参加の「銀河鉄道の夜」の群読にも混ぜていただき、習字と合わせてとても楽し
かったです。

お誘いいただき感謝感謝でした。


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