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読書感想 丸山正樹著 「慟哭は聴こえないデフ・ヴォイス」


以前YouTubeで高校生のビブリオバトルを見た時紹介されていたので気にはなってい
たが、今回ドラマ化されるという話を聞いて読んでみた。

どうやらシリーズの中途半端なところだったみたいだけれどこれだけ読んでも十分楽
しめた。

まず感じたことは、聞こえない人も大変なんだなという事。

電話ができないから110番や119番もできない。
緊急に助けを必要としても、その辺の人に声もかけられない。

病院や役所に行っても必要な情報が伝わらない可能性がある。
通訳の人任せになるので自分では確認できない。これは私たちが代筆してもらったと
きに、必要な情報がちゃんと書いてあるか確認できないときのもどかしさと同じだろ
う。

視覚障碍者の中にも実際書類の不備で強制送還になってしまった留学生や盲学校の国
語の先生になりたかったのに普通校の方にチェックが入っていて進路変更を余儀なく
された人もいる。

緊急電話についてはあとがきで特別なアプリができて、対応できるようになったとあ
ったので一安心。
お便利アプリで生活環境が向上したのは視覚障碍者も同じである。


前に聴覚障害の人は全く聞こえなくても障碍者手帳1級ではないという事を聞いたこ
とがある。障碍者の投球は年金額とリンクしているかららしい。

そっか、聞こえなくても自分で移動できるし車の運転もできる。
パソコンだって遜色なく使いこなせる。作品中にも出てきた職人系の仕事も肉体労働
系の仕事もできる。
聞こえなくてもできる仕事はたくさんあるから職業選択の幅は視覚障碍者とは比較に
ならない。

よくない方向では作品中にもあったが、犯罪系の事にも加担できる。昔聴覚障碍者だ
けのヤクザの組があったなんて言う話も聞いたことがあるから一つ間違えると転落人
生もあるのが危ういところだろう。
見えなければ盗んだバイクで走り出すことすらできないもんな(涙)


しかし生活の質全般を考えると一概にどちらがましかなんて言い切れないし個人差も
あるのだから比較するのもナンセンス。


以前見えない友達がいろいろな障碍者がいる職業訓練所に行っていた時の話。何人か
の人たちと昼ご飯を食べていたらいきなり聞こえない人が泣き出したそうな。その場
にいた人は皆びっくりして事情を聴いたところ、彼女は皆が自分の悪口を言っていた
のだと思ってしまったという事だった。

皆話に夢中になってしまって彼女に説明することを忘れていたのだろう。

少人数ならまだいいけれど、大勢の中に入るとにっちもさっちもいかないのは視覚障
碍者も同じ。見えないから誰が誰だかわからないし、自分に話しかけられているのか
もわからない。離席している人に話しかけてしまって気まずい思いをすることもある


作中の会社員女性が同僚の飲み会に来ないと非難されていたけれど、私も原則会社の
イベントは居心地が悪いので行きません・・・というかもう声すらかけられません(
笑)
とにかく耳でも目でも不自由だと情報から置いて行かれまくるのである。


前にも書いたことがあるが、健常者側もはじめのころは腫れ物に触るように接触して
くる。けれど、自分の仕事の他に余計な用が増えてくるとだんだん塩対応にもなって
くるのは仕方がない。とは言え、作中の女性のように健常者と同じラインで仕事をし
なければいけない人はそれでは仕事に支障をきたす。

聞こえない人はできることが多い分健常者と関わらなければならない部分が多い。障
碍者フレンドリーじゃない会社に入ってしまうと評価もされず孤立していってしまう
なんていう事も日常的にあるだろう。


モデルの男の子の話も「障碍者あるある」で思わず苦笑が漏れた。。
とにかく「映え」てなんぼの世界、リアルはどうでもいいのである。

私の友達も同じような目にあった。歌がうまくて美人の彼女は歌手デビューしたのは
いいけれど、弱視なのに全盲という設定で売り出された。
全盲の方が「映え」るのかどうかは知らんけど、一事が万事その調子だったらしい。
まじめで誠実な人なので、それに耐えられなくなりレコードを1枚出しただけでとっ
とと引退してしまった。
今は地元で旦那さんと治療院をやっていて幸せそうだ。


ところでドラマは聴覚障碍者の役は皆当事者がやるという事でも話題になっているよ
うだ。アカデミー賞を取った「コーダ」もそうだった。
一方、視覚障碍者の役を当事者がやるというのはほとんど聞いたことがない。
ラジオドラマならともかく、カメラがどこだかわからないし、移動も文字のやり取り
にもバリアがあるからやはりハードルが高いのだろうか。

全盲の人が全盲の役をやっている舞台をDVDで見たことがあるけれど、他の役者がく
るくる動いている中、一人だけ棒立ちでセリフを言っていたのが違和感だった。
これは演出が悪いのだろうけれど、障碍者自身も自分が日常的にどんな動きをしてい
るか研究しなかったのだろうか。
やはり視覚障碍者は映像世界は厳しいのかな。私はM1とかに出てみたいんだけど(笑)

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