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アマゾンNY本社建設断念 - 失敗に終わった計画の裏で何が起きていたのか

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みなさん、こんにちは。NY在住MBA学生ライターのユカです。

日々の生活に欠かせない存在であるアマゾン。日用品からニッチな物まで、安価に、簡単に、迅速に手に入るということで、毎月平均して世界中から約2億人ものユーザーがアクセスするそう。
そんなオンラインショッピングの巨大企業アマゾンですが、実はNY市に第2の本社を建設するはずだったことを知ってましたか?残念ながら、たったの3ヶ月で建設計画は白紙に戻ってしまいましたが、今回の記事ではなぜ建設計画が失敗に終わったのか、その背景に注目して、ビジネス戦略として大企業が誘致をする際に気を付けたいことを解説をしようと思います。

1. アマゾンがクイーンズにやってくる?第2本社誘致計画の全貌

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アマゾンのシアトル本社 (出典: https://www.klcc.org/post/mohawk-metals-steel-solidifies-new-amazon-hq-addition)

全ては2017年の9月、アマゾンが現在の本社に加えて更に敷地の拡大を発表したことから始まりました。本社はワシントン州のシアトルですが、街の敷地の19%をアマゾンが占有している点、ビジネスの拡大に伴ってより広大な敷地が必要になる点、更には雇用や人事的な面から別の拠点が必要になった等の理由で、第2本社の建設計画を発表するに至ったのです。当初アマゾンは、第2本社建設にあたって5万人の雇用を生み出し、50億円の予算を割り当てるはずでした。候補地にはアメリカ国外を含む238箇所からの応募があり、アマゾンへの税制優遇措置や建設許可の迅速な取得、地元地域の犯罪率低減プログラムに至るまで様々な支援が検討されました。激しい誘致合戦の末、最終的に候補地は20箇所にまで絞られ、計画発表から約1年後の2018年11月に、第2本社を米国内2箇所に分けて建設し、各地区で25,000人ずつ新規雇用を行うことが取りまとめられました。1箇所目は、バージニア州のアーリントン、そして2箇所目がNY市のクィーンズ地区にあるロングアイランドシティ(以下LIC)です。

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(出典:https://www.cnbc.com/2018/11/17/amazon-hq-long-island-city-is-cool-nyc-neighborhood-for-young-people.html

LICは、現在急成長を遂げている再開発された工業地区。最近では高層マンションの建設も著しく、マンハッタンからほど近いところに位置する利便性もあり、若者の間ではブルックリンの次のホットスポットとして注目されています。LICに支社を建設するにあたって、NY市並びに州政府はアマゾンに「条件付き」ながらも、1500億円にも上る税金控除政策、そして300億円以上もの助成金を約束しました。

地域活性化や働き口の促進にも繋がり、NY市にとっても最高のプロモーションチャンスとなったであろう本計画。NY経済を牽引し、好調な滑り出しをしたかのように見えたプロジェクトはあっという間に計画撤退へと追い込まれたのです。

2. たった3ヶ月で計画断念 強すぎた地元住民と地元議員からの反発

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(出典:https://queenscountypolitics.com/2018/11/13/some-queens-pols-pushback-against-hq2-coming-to-lic/

LICに第2本社を建設するというアマゾンからの発表直後、NY州下院の民主党議員であるアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏が、ツイッター上で懸念を表明。「地下鉄は崩壊しかけていて、もっと投資が必要なのに税控除を行うのは地元住民にとっては大変懸念のあること」と投稿し、クィーンズ地区住民の反対意見に賛同しました。当該議員の他に、NY市議会議員、NY州議会上院議員なども続々反対意見を表明。

アマゾン進出に当たって、主な懸念は:

・地元の教育施設等が資金不足にさらされている中、既に儲かっている企業に多額の税金控除を行うNY政府の決断
・地下鉄や公共施設等のインフラ整備が間に合わない点、またインフラ投資に使用できる予算をアマゾンへの支援に回した点
・アマゾン第2本社を建設することで、周辺の住宅価格や賃貸価格が高騰し、地元住民が家を借りづらくなる、引っ越しを余儀なくされるなどの不都合が生じる点
・地元ビジネスの時給引き下げ・利益減を誘引し、最悪の場合、小規模ビジネスを潰してしまう可能性

など以上の点でした。クィーンズ地区自体、中所得者層が多く住む地域で、マンハッタン地区と比較しても裕福とは言えないエリア。地区が公共サービスの改善費用を工面しようと苦労している中で、地域情勢を無視した様々な税制優遇策や助成金に住民が真っ向から相対した形となりました。

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(出典:https://www.theguardian.com/technology/2018/nov/14/amazon-hq2-new-york-protest-queens-long-island-city

住民の反対は大規模なデモを行うまでにエスカレート。そして3ヶ月後の2019年2月、アマゾン側はLICでの第2本社建設を断念し、LICに代わる場所は選出しないとの旨を発表しました。計画撤廃にあたってアマゾン側は、70%のニューヨーカーはアマゾンの進出を支持していたとのコメントを残し、このような形で終了してしまったことに遺憾の意を示しました。

後にNew York Times紙は、NY市長であるデブラシオ氏と、州知事のクオモ氏はアマゾンの本決定に「不意打ちを食らった」と報道しています。また、デブラシオ市長は「アマゾンがせっかくのチャンスを不意にした」との声明を発表し、クオモ氏はさらにアマゾンの撤退をNY市上院の民主党議員のせいだと非難しました。

こうしてNY市へのアマゾンの誘致劇はたったの3ヶ月で幕を閉じたのです。

3. 大都市進出の難点とアマゾン誘致失敗から学べること

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(出典:https://www.labornotes.org/blogs/2011/02/strong-words-against-wal-mart-new-york-rally)

実は、NY市が大企業の進出を拒み、撤回に追い込んだのは、今回が初めてではありません。過去には、小売大手Walmartや、Kmart、マクドナルドの進出にも市民から反対デモが起こっていました。中でも、小売世界最大手であるWalmartは何度も進出に挑戦していましたが、いまだにNY市での店舗の展開は実現していません。アマゾンに反対の声が上がったのと同じく、地域の時給水準や労働環境が悪化する懸念のほか、小規模ビジネスが価格競争に勝てないというのが理由で反対に遭い、計画が頓挫し続けています。

NYのような大都市に進出する場合、企業がまず最優先に検討しないといけないことは、計画が地元の経済にとって有益となるかという点。特に、全米都市の中でもNY市のような屈指のリベラル都市は、人権や公共サービスにかなり敏感です。地方自治体がアマゾンのような大企業を誘致する際は下記の点に留意して行うのが良いでしょう。

・大企業だからといって無敵な訳ではありません。大々的に宣言していたことが失敗となる場合、地方自治体はもちろん関連企業の評判も傷つきます。今回はクイーンズという土地柄を分かっていなかったことも、失敗の理由と言えるでしょう。進出しようとしている地域住民の層を事前に調査すること、官民提携を行う際は、企業自体がどのように地域経済に貢献し何をもたらせるのかよく分析することが大切です。

・そもそも建設地をコンテスト形式にしたことがいけなかったという意見も。デトロイト市のような経済破綻を経験した場所に支社を建設することができたのにも関わらず、敢えてNY市という既に全米でも規模の大きい都市を選んだことも企業側の選択ミスと言えるでしょう。

・地方自治体側も、利益のみを追求するのではなく、住民に根ざした政策となるよう意見を取り入れ、企業側と協力して計画を進展させるべきです。上院下院、民主党共和党など、同じ市内でも意見が対立し、一致団結できなかったことも最終的に合意に至れなかった大きな一因です。

いかがでしたか?本記事では、企業誘致についてNY市とアマゾンの例を参考にしました。企業が新たな街に進出する際は、自社の利益のみではなく、そこに住む地元住民や土地勘を活かしたビジネス戦略を立てることで、より一層企業として成長できるのではないかと感じました。

<ライター:ユカ> 何となく旅行とか、洋画とか、読書とか、瞑想とか、健康的な食事とか、世界情勢とか、環境保護とか、人間のこととか、心理学とか、アートが好きです。いまのところ20代、いまのところNYC在住のトリリンガルの女の子です。

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