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# 11 「利便性」だけが魅力なの? 次の時代のオンラインショップ論

90年代後期、NUTSは楽天市場が誕生したとほぼ同時に出店し、今も残る数少ないオンラインショップの中のひとつです。あまり意識することはありませんが、急成長してきたEC業界で20年以上続く会社は、老舗の類と言っても過言ではありません。

そんなNUTSの代表ヌマオはほとんどゼロから起業し、会社として届けたい価値を多くの人へ届けられるように、紆余曲折、さまざまな物語を描いてきました。

『そうした物語の記憶を残さないのは勿体ない。』 そう思った編集担当のカタヒラは、ヌマオにお話を聞かせてもらうことに。取材した内容を“私目線”で考え、記事として11回にわたりまとめてきました。社員にも話したことがない内容もあったそうで、振り返ってみれば社内広報に近いことができたようにも思います。

さて、いよいよ連載としては最終回。最後はNUTSとEC業界全体の未来について、ヌマオの考えを話してもらいました。この合理化の進むデジタル社会はどうなっていくのか、思いを巡らせてみます。

<話し手:NUTS代表 ヌマオ/聞き手&考察:note編集担当 カタヒラ>

●こんな人におすすめ!
・オンラインショップの仕事をする人
・お買い物が好きな人
・社会のあり方について考えたい人

NUTSのこれから:新たな価値を編集で生み出す

僕の考えているNUTSの今後のキーワードはキュレーション。『キュレーション』というのは、情報を選んで集めて整理すること。あるいは、編集して新たな価値を付与する作業。

弊社は色々なものをセレクトしています。その商品たちをどう編集して、どうお客さんに伝えていくかということに、新しい価値を作り出していきたい。今までも同じようなことをしてきたけど、もっともっと強化して、他のお店にはないことをやりたいんだよね。

いま扱ってる商品で例えば、“イタリア食材”と“デザイン雑貨”という普通なら考えつかない商品の組み合わせを、『なるほどそんな編集の仕方があったのか、面白い』と思ってもらえる売り方をしたい。

時計屋がオリーブオイルを売るなんて、あまりないじゃない。これから、どんどん新しくて驚かれるような価値を届けていきたいなと思ってる。

だからそのうち実体のあるものだけじゃなく、ソフト的なものも売ってみるのも面白いかも。例えば音楽とかね。

僕の友人に『東京R不動産』という不動産業を営む人がいます。これ、すごい面白いと思ってるんだよね。

普通の不動産は雑多に情報を出すじゃない。場所、家賃、広さとか。でもここのサイトに出ているのは、ちょっと変わった物件なの。デザイナーが作ったものやリフォームされたものとかいろいろ。そういう物件を丁寧な文章で紹介してる。

不動産のサイトって、基本的に味気ないじゃない。だから、これを見て、今までと全然違う面白さを感じました。家を借りるつもりがなくても、つい見てしまうサイト。

NUTSもモノを売るWEBサイトだけど、R不動産のように見てるだけでワクワクするような、そういうサイトにしていきたいかな。」


EC業界を初期から見てきたヌマオが考える“未来のオンライン”

今はリアル店舗が下火で、ECが伸びていると言われている。でも日本の現実は、物販のBtoCのECの売上比率は7%にも満たない。もちろんECはこれからさらに伸びていくと思うけどね。ただ、Amazonのように必要なものをとにかく便利に買うためのお店というのは、僕はいいとは思わないかな。

これからのECは、Amazonみたいな“便利さ”を追求するお店と、R不動産みたいな“ワクワク感”を提供するお店の2通りになると思う。で、大半の消費者は、前者のお店にいくだろうね。それはコスパも良いし、簡単だから。

でもNUTSとしては、皆がいく方向に行っても仕方がないから、後者の道を行こうと思ってる。その方法というのは、まだまだこれからの課題です。

まあ、モノを買うとき最初はAmazonとか、大抵わかりやすいほうにいくよね。でもそればかりになってしまったら、物足りないしつまらない。現在の消費者はその物足りなさをリアルな店舗に埋めに行っている。

でもこれからは、その合理的なECがつまらないから、それ以外のECサイトで買い物するという方向があってもいいと思うの。技術もどんどん進歩していくしね。

ここにいると、なんだか落ち着くなって場所があるじゃない。同じように、このECサイトにいると楽しいし、いいなって思ってもらえる場所をNUTSで作りたい。」

つまり、こういうことかなと思い、ヌマオさんの考えるECこれからの全体図をつくってみました。

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歴史を辿れば、今後のECのトレンドも見えてくる?

車を例に取ると、電気自動車や自動運転が主流になっていくのがもう目に見えている。その一方で、やっぱりガソリン車を自分の手で運転したいという価値観もあるはず。NUTSはそのガゾリン車のような方向性でありたい。

まさに僕が長年携わってきた時計の歴史を見ると顕著です。時計が開発された当初は機械式時計しかありませんでした。でもその後、日本からクォーツ時計が生まれます。

安くて時間も狂わないから、全世界がクォーツ式にシフトしました。それで機械式の市場は壊滅状態になった。でもクォーツ中心の世界になっても、スイスなんかは地道に機械式時計の製造を続けていたんです。そしたらまた最近になって、機械式が再評価されているでしょ。歴史から見ても、価値あるものは何度も掘り起こされていくんです。

自動車の話に戻ると、これから車に乗る若い世代は最初から自動運転という場合も出てくる。ハンドルを使った運転がどういうものか、一切知らない人もきっと出てきます。そんな基本的な楽しさを教えてあげることも大切なんです。NUTSはそういうサイトでもありたい。

だから、少しずつお客さんの年齢層も下げてみたいとも思っています。」

歴史から読み解くって面白いですよね。

この話で、私らの世代で身近なのはレコードやカセットテープ。綺麗にされ過ぎたデジタル音とは違った温かみのある音が魅力ということで、これらが再注目されました。いまや音楽を聴く主流の手段とも言えます。

まさにオンラインショップも利便性が追求され続けた結果、Amazon一強になりつつある。この点は最近特に取り沙汰されていることだと思います。でも、いくら問題視されようと、ユーザーは新しい技術やサービスに寄っていってしまうもの。

このまま突き進み加速しすぎたデジタル化の先に待つのは、歴史が辿ってきたような旧来の社会への回帰なのか、それともまだ誰も知らない完全デジタルに振り切った社会なのか、あるいはそれ以外か。

どこで買い物するかというのも社会への意思表示。NUTSのようなインデペンデントなお店を、愛すことのできる社会をつくっていきたいと私は強く思います。

(取材 編集・カタヒラ)

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