50歳になったら

「50歳までに結婚してなかったら一緒になろ」

酔った31歳のわたしは、彼のモノを咥えながらそんなことを口走ったのだった。酔った時の「好き」なんて信用できない、なんてセオリーを真に受けて、答え合わせは19年後にすることにした。

あんたはそのとき「いいよ」って笑ってペニスを私の膣内に埋めたけど、わたしとあんたは8歳くらいの年の差があった。それに気づいたわたしは、どっちが50になったら?って聞いてこないあんたに「意味わかってんの、わかってないよ」って思ったけど、そんなことよりも、わたしのことをなんにもわかってないあんたには萎えてきていた気持ちを、いくら頑張って擦りつけられても潤わないわたしの膣穴が教えてくれたのだった。

それから間もなくして、わたしたちは別れを迎えた。
あんたは、わたしとはずっと一緒にいると思ってた。なんて沸いたこと言ってた。わたしは「彼女と頑張って幸せになってね」と、ラブイズオーバーを送りたい気持ちで、ちょびっとのセンチメンタルを添えて別れを告げたのだった。




そんなわたしが50歳を迎えたその月に、あんたから連絡が来た。

「元気?」

わたしは生粋の遊び人でさみしがりなので、ずっとメールアドレスも電話番号も変えていなかった。いつだって、繋がろうと思えば繋がっていられる、という安心感がすきで。まあこれを誰かに言ったことはないから、相手が試しに連絡してみないとわからないんだけど。

びっくりして、二度見した。ショートメッセージの宛先は確かに、あいつの名前だった。いたずらかな、とも思った。

その昔、キャバ嬢だったわたしは、客に連絡して返事が来たと思ったら、そいつの女からの返信だったことがある。だから連絡なんて、誰だってなりすましてできるんだということをよく知っている。

ただわたしはもう20代やそこらの小娘ではなく、50歳の未亡人になっていた。35歳で自分で事業を始めて、10年以上続け、そこそこ生活できるようになっていた。あの頃のわたしとは完全に違う。そしてなにより、すこし退屈だった。

だからすぐに、そのメッセージの番号に電話を掛けた。

「もしもし・・・」

繋がって、おそるおそる声を出す。

「・・・・もしもしー」

ぎこちない返答があって、あいつだ。とすぐにわかった。
すこし声は年をとっているけれど、あの間の抜けたしゃべり方だった。

「だいちゃん?げんき?」

「・・・・ひさしぶり、まあ、そこそこ。急に電話くるから、びっくりした」

「え、わたしがびっくりなんだけど、20年ぶりくらいに突然連絡してくるって、なに?余命宣告でもされたわけ?」

「いや、そうじゃないんだけど、なんかひさびさに思い出して・・・」

わたしはこういう時、だいたい相手は会いたいとかひさびさにセックスしたいとかそういうものだと思っているし、だらだらと話すのは好きじゃなかった。はやく「会いたい」と一言いえば良いのに、それをわかってないのがこの男だった、と思い出しながら話していた。

そうこう会話をして、明日、会うことになった。

9年間セフレとして過ごし、50歳になったら結婚しようと、酔ってそう言った男と。


つづく


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