今日のできごと

おはようございます、今日も良い1日を。

そうやって、送り出される。
白い扉を開けて外に出ると、そこは想像していたよりも、ごちゃごちゃとしていて、灰色だった。

この時期特有の湿気と気だるい気温で、自律神経がおかしくなる。
満員電車に乗ると、とがったヒールパンプスの踵で指先を踏んづけられた。
痛みで思わず声が漏れる。

結局、電車を降りるまで、踏みつけられた指先は痛いままだった。

電車を降りて歩いていくと、おばチャンがすごい勢いよくこちらに向かってきた。

ドスン!とぼくにぶつかると、なにもいわずに去っていった。
尻もちをついたぼくは、そのままなにも言わずに胸囲100センチはありそうなおばチャンの背中を見送った。

あの、これ、落としましたよ?

顔を上げると、短髪のきれいな美女がぼくに大きめのネジを手渡していた。

「あ、ありがとうございます。ぶつかって落としたみたい」

「大丈夫ですか?つけるの手伝いましょうか?」

「え…そんな、悪いですよ」

「いいんですよ、わたしもこの間、会社でふたつくらい落としちゃって大変だったんですよ」

「会社でですか、それで見つかりました?」

彼女はぼくの外れたネジをくるくる回しながら笑う。

「それが、見つかったんですけど、ひとつは穴がバカになっちゃってて、なおらなかったんですよね、ふふっ…」

「じゃあ、ぼくのねじ、ひとつ差し上げますよ」

そうしてぼくは、いちばん大きくてきれいなねじを、彼女にあげた。

ぼくはねじが足りないまま、会社に向かったけれど、だれも気づかなかったし、それくらいでちょうど良かったんだ。と納得した。


おわり

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