ファミレスのビールは酸っぱいから瓶ビールを頼みなさい


「回避性パーソナリティ障害って言うんだって」

冷房の効きすぎた中華屋で瓶ビールをがぶがぶ飲んでいるわたしにツナキがそう言う。

またそうやって、わたしをなにかにカテゴライズしたがる。そうしたら自分が安心できるからだろうとおもった。

いちいち指摘されてたら、ロボットの猫ですら働いているのに働きたくないわたしは生きている価値ないのだろうか。なんて考えてしまう。

「ふぅん、それで?」

餃子を頼もうか迷いながら、問いかけてみた。

「やっぱり、ゆうはもともと自傷癖も摂食障害もあったし境界性なかんじはしてたけど、いまは回避性の傾向がつよいよね」

やっぱり餃子は頼もう。

「うん、そうかもね。でもさ、それってツナかわたしがどうにか出来ることなわけ?」

わたしにはそんなこと、とうの昔から分かりきっていたから、だれかがどうにか出来ることでもないと思っている。
摂食障害も自傷癖も、自分を認めることでどうにか回避して、10年近く落ち着いている。
自分の精神のコントロールは自分でできているつもりだ。

「うん、まあそうなんだけど…ごめんね」

そうやって人を安易にカテゴライズして、被害者ぶって悲しい顔をする彼ははズルいと思った。

なにも言わずにわたしはモバイルオーダーで餃子とビールを追加した。

「ね、最近わたし、仕事やめようかなって思ってるじゃない?それでね、求人みてたんだけど・・・・」

そう言って彼に説明していたら、2つとなりの席に座っていた女性がわたしのほうを怪訝な目で見ているような気がしたから、彼女に向かってにっこり微笑んでおいた。

「でも、もったいないんじゃない?せっかく契約社員になれたし、いろんな仕事任せてもらえてるのに」

「それはそう、だから迷ってるんだよね。ツナはさ、尊敬できない上司の下で、こいつバカなのかな?って思いながら働ける?」

ツナが考えあぐねていると、愉快な音楽とともに配膳ネコ型ロボットがわたしのビールと餃子を運んできた。

ネコは、ゆっくりしていってにゃん!と言った。

機械のくせに愛想よく働いているこいつを作った人に会ってみたいと思った。

2つ隣の女性が、食事を終えて席を立ち会計にむかっていた。彼女はもう、わたしと目を合わせようとしなかった。

もちろん、わたしの向かいにツナが居ないことはわかっていた。

狂気を抱えながら普通の人のふりをすることと、狂気に気づかないまま壊れていくひと、どちらがおかしいのだろうかと思いながら、大きな餃子を食べて舌をやけどした。


おわり


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