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俺と格闘ゲームの話 12 ~豪血寺とニコニコ動画~

1,絶対触れたいと思っていた格ゲー、豪血寺一族

 ある程度インターネットにも触れ、格ゲーの世界周りも知ったりしてくるとアーケードにしかなかった格ゲーが多くあったことを知る事になる。
 何かとネタにされがちな「風雲黙示録」(SNK)。格ゲーファンには隠れた名作として扱われていた「groove on fight」(アトラス)。漫画の色と格ゲーのバランスが両立していたと格ゲーファン以外にも愛された「ジョジョの奇妙な冒険」(カプコン)。
 結果としてどれも触れる事はなかったが、世界にはこんなに面白い格ゲーがあったのかと驚いたものだった。

 その中で一番異色で俺も目を引いたソフトがアトラス発の「豪血寺一族」だった。
 主人公が婆さん(お種)でラスボスも婆さん(お梅)。そして二人含むその一族が豪血寺の頭首をめぐって争う。
 書いててなんだがもう訳が分からない。渡る世間は鬼ばかりやおしんを茶化して格ゲーにしたような、妙な違和感を覚える。なにせ主人公が婆さんだ。婆さん。今までリュウ(ストツー)やテリー(餓狼伝説)のような格闘に一物がある主人公や、草薙京(KOF)やソル=バッドガイ(GGX)みたいな美男美女がメインストーリーとされがちな中で婆さんを主人公にする、というのはなんというか気が抜ける、妙に目立つ存在であった。

 この頃はもう暇があればトランペットの練習が格ゲーか本を読むか、の三択しかなかった時期なので、こういう新しい情報が手に入ったら即座にやってみたくなる。
 とはいえ貧乏学生で買い物する手段も限られてくる。まあ近所のブックマーケットでコンシューマ化したものが手にはいりゃいいな、程度に思いながら記憶から忘れ去られていたのだ。

2,豪血寺一族 煩悩開放登場!

 いつ頃だったか、恐らく大学二年生の頃か。
 とんでもない情報が入ってきた。

「豪血寺一族、新作が出る」

 聞いた瞬間の驚きである。
 前述したように豪血寺一族はまあ何かとピーキーな設定の作品だ。近年これを復刻しようとしたノイズファクトリーがポリティカル・コネクトレス、俗にいうポリコレが原因で失敗したくらいだ。

ご無沙汰してました… 「豪血寺30周年」に向けてリリース されたゲームの復刻を昨年11月から 版権元に申請していましたが、あるキャラクターがポリコレ(political correctness)になるリスクが高く訴訟に発展するリスクが高い為、ゲーム復刻の許諾はおりませんでした…

https://twitter.com/noise_mail/status/1509114071416680448

 その印象は別段近年だけの話ではない。15年ちかくまえの、俺が学生時代だった頃でさえ、中々の癖ある作品扱いだったのだ。(でも正直豪血寺一族復刻は買っちゃうくらいやりたかったなー。俺は。せめて現行のタイトル、先祖供養だけでいいからコンシューマ化してくれないもんかね)

 そりゃあ衝撃的なタイトルだったので、俺は必死に金をためた。
 現在でさえこれだ。当時だって買い逃したら絶対後悔するタイトルであることは間違いない。とはいえ、サークルは大学公認の指定強化部だから練習に気は抜けないからバイトは出来てせいぜい2日。そこからせめて昼飯と、下宿で飯がでない日曜日の飯代はなんとかしないといかん。親は学費と下宿費でかつかつだから甘えるわけにもいかん。

 そんなもんだからまあ金策をした。

 ついでに言えば俺が楽器でライブやらなんやらで金を貰うようになったのもこれがきっかけだ。とにかく豪血寺のために金が必要だったのだ。1万円もらえたらもうそれでラッキー!終わりレベルで。
 こういうのが俺の人生を妙に濃くしていった。
 結果食えないと分かったのと、サークルに影響が出てくるのが段々と分かったので泣く泣く廃業したが。

 まあ、なんとか生活に支障が出ずに新作を買える程度は財布に入っていたのだ。
 だがそこは貧乏学生。一円でも安く買うために近くのブックオフやブックマーケットに張り込んだ。
 当時格ゲーはコアユーザーが多いのと新作が出にくいものだったため、中古ゲーム市場でもなかなか安くならないジャンルだった。RPGやアクションは簡単に値段が下がるのだが、格ゲーは緩やかで、たまにプレミア価格がついて高くなったりもする。
 だから値下げそのものは期待していなかった。
 だが、500円もあれば鳴門うどん(大分を中心に展開するうどんチェーン店。安くて量が多いので結構学生が来る)ですうどんトリプル玉が食える。または替え玉無料だった長浜ラーメンでラーメンが頼める。
 そうでなくとも自分の楽器のメンテナンスやらなんやらで金がかかる。金は出来る限り使い惜しみしたいのだ。
 それくらいかつかつだった。

 で、待っていたらそれは来た。
 PS2の中古格ゲーコーナーに置かれた「新・豪血寺一族 煩悩開放」の文字。手に取ってみると6,800円。うーん。新品7,,480円だからあんまり安くなっていない。やっぱり高い。
 一瞬悩んだ。どうせ半年後にはやっていない可能性が高いゲームだ。深夜の格ゲー会合で最後まで生き残るのはやっぱり本格派。ネタゲーは三か月もせぬうちに消えゆく存在。そんなものに金を賭ける価値があるんだろうか。
 でもお前考えてみろ。これ買い逃したら永遠に買えない可能性がある。特に中古格ゲーなんていつ出てくるか分からん代物。お前同じ理由で無理やりマブカプ2(マーブルヒーローvsカプコン2。1はナインティナインデザインのキャラクター、憲麻呂がいた事でも有名か)買っただろう。
 悩んだ挙句、選んだのは「やっぱりこれを買うために今まで苦労してきたわけで。買っちゃおう」の一言。無事購入に至ったのだった。

センターの女の子は主人公ではありません。アーケード版、闘婚ではラスボスでしたが、このゲームではここに書かれてないキャラです。斜め上で構えてる婆さんたちが主人公格です

 余談だが今amazonなどでこのゲームを中古販売で見てみると1万円超えがざら。やっぱりあの時買うの辞めなくてよかった。

3、謎の格ゲー。豪血寺一族。わけわかめのオンパレード

 買った後やってみる事に。

 実はこの時点ではそういうオタク連中に知られているゲームタイトルだった。なんていったってこの作品、ラスボスがかのボビー・オロゴンなのだ。

 ボビー・オロゴンを知らなくなった人も多いだろう。ナイジェリア出身のアフリカ系タレントで「ビートたけしのここがヘンだよ日本人」や「さんまのSUPERからくりダービー」などで外国人タレントが活躍する場面が多く、その中の一人だった。
 が、もうこのゲームが出るころにはそれも落ち着いてボビーは割と過去の人。誰が得するか分からないラスボス人選だった。
 しかし思い返してみると、当時のスーパーロボット大戦にバーチャロン(セガのゲーム)勢が登場し、セガ社員にして世界一歌の上手いサラリーマンこと光吉猛修や、マジンガーZやルパン愛のテーマを歌ったアニキこと水木一郎が声優としてキャスティングしていたりするからそういう時代の流れだったのかもしれない。
 そんななぜかよく分からんラスボス起用をされていた。

 あとこのゲームが特徴的だったのが、サウンドトラック付きだった。
 サントラ付きゲームってのはちょくちょく見かけるが、このゲーム、妙な特徴があって、対戦ステージのBGMが全てボーカル付きで、その歌が特典サントラとして入っているのだ。
 過去のゲームでもボーカル付きステージみたいなのはあった。有名なのはKOFでも有名なアテナの「サイコソルジャー」か。サイコソルジャーの頃からやっていたことを考えると90年代にはボーカル付きステージをやっていたわけで、そういうところもSNKはよく分からん。

 だが、豪血寺はなぜか全てのステージに曲がついている。
 グループサウンズに格ゲーとゲーセンの歌詞をつけた「青春の格ゲー」。40年代のリンゴの歌みたいな曲調でインターネットを歌う「素晴らしきインタアネット」。
 なんちゃって電波オタクソングのように聞こえて内容は90年代に秋葉原に多くいたパソコン製作に命を懸けていたコアなパソコン自作派が妙に共感する、萌えオタクが蔓延る前の秋葉原を支配していた頃の古いオタクが歌詞を書いたような時代がずれたニッチすぎる「ときめきオーバークロック」。(筆者が推すのはこの「ときめきオーバークロック」。当時のパソコン自作派の話を聞けばきくほど笑える、知識が増えると歌詞の深みがわかってくる謎の歌。でもそういう知識がないと単なる場末の解散寸前アイドルが歌う電波系ソングにしか聞こえないのがこの曲の恐ろしいところ。ニコニコ動画やyoutubeに当時のPC自作派のコメントが書かれているから読みながら聞くとよい)
 こんな妙な歌がゲームを支配していた。

 そのうちから四曲をサウンドトラックに入れられていた。
 四曲の内訳はこうだ。
「レッツゴー!陰陽師」
「ときめきオーバークロック」
「貧乏人間 カネナイジャー」
「ボクラノヒミツ」

 まあ、当時の時流から外れたような曲ばっかりだった。

 でも曲の構成自体は出来が良く、どれも聞くに堪える代物。どれだけネタに走ってもここはプロ。
 特に「レッツゴー!陰陽師」は曲構成が妙にいい。
「悪霊退散! 悪霊退散!」
 の歌詞から始まる妙に明るいロック調(なのかなあ?)かつダンサブルな曲調が妙に頭に残る。今聞いてみるとほかの曲も味わい深いのだが、それでもレッツゴー!陰陽師の曲としての出来がいい。
 これは仲間に教えてやらんと!と思いながらその曲だけダビングして友人に渡しまくっていた。

 このレッツゴー!陰陽師が半年後くらいか、想像もつかないことになっていく。

4,ニコニコ動画開始と共に爆発的知名度を得たレッツゴー!陰陽師

 記憶がある。大学三年の頃だったはずだ。
 経済学を受けようと友人と二人で受けた後、ちょっと疎遠になっていた陸上部の友人から声をかけられた。彼は格ゲーというよりはガンダムが好きなオタクだったので、そっちの付き合いの方が大きい。
 そいつに呼び止められて一言言われた。

「レッツゴー陰陽師、流行ってるぞ」

 は?
 友人の言葉にクエッションマークが浮かび上がった。

 というのももうすでに俺達周りでは豪血寺は格ゲー大会のメインストリームから外れており、たまにやる程度だった。内輪ですらマイナー扱い。
 仲間周りには俺のせいでレッツゴー陰陽師などは知られていたが、それも一過性というか。一時的なブームみたいなものだったし、そもそもメインストリームにならないと思ったからみんなに周知したこともあったから、その言葉に違和感を覚えたものだった。

「なんでだよ」
「ニコニコ動画ってのが始まって、それで盛り上がってる」

 というわけでやっぱり当時もインターネットが家で出来る環境でもなかったため、インターネットをつないでいる視聴覚センターに飛び込んで調べた。
 すると日本の動画配信サービスにニコニコ動画登場し、そこでキラータイトルとして挙がっている動画が。

新・豪血寺一族 -煩悩解放 - レッツゴー!陰陽師

 えっ?
 ええええええええええええええ!?

 それはもう驚愕だった。
 寂れた格ゲーの、一部のマニアしか喜びそうにないゲームの、一部だけが知っている曲がネットで知られているのだから。
 もうコメントに困った。仲間内で大流行した曲を教えていたインフルエンサーになっていたわけで。でもそれは別段自分が育てたわけでもなければ、たまたま知っててなかなかいい曲だからって教えていただけだから、この曲と俺は関係で言えば無関係。しいて言えば俺の方がユーザーなわけで、しかも最近飽きている傾向にあった作品の曲。
 それが世間に知られ、しかも爆発的に流行しているのだ。

 無関係な立場にいる俺がなぜか焦った。
「いい曲だろ!どうだ!」
って思った半面
「この曲が世界に知られていいもんなんだろうか?」
みたいな気持ちが芽生えた。なんといえばいいか分からない気持ちになったのを覚えている。

 だが、動画を観るのはもう少し後だった。
 というのも当時のニコニコ動画は会員制。無料登録だったか有料登録だったかは記憶にないが、どっちにしたって会員登録しないと観れない仕組み。しかも携帯電話だと登録しても観れない。
 だから結局後々に、すでに動画配信サイトとして基盤を得ていたyoutubeで見る事になる。

 だが観た時は衝撃的だった。
「なにこのPV!?おれ知らない!!」

 この後に分かったのだがこのレッツゴー!陰陽師は豪血寺一族に入っており、一人モードや対戦モードで色々アンロックしたら観れる仕組みだったそうだ。
 買ったはいいものの対戦ばかりやってて、しいて言うなら裏キャラのボビー・オロゴンとプリンセス・シシーを使えるようにした後放置していた。

 知った後、実機を起動して調べると確かにレッツゴー!陰陽師のPVが解放条件に入ってる!ときめきオーバークロックも、貧乏人間カネナイジャーも……っていうか特典サントラについてたやつらばっかじゃん!

 そうやってしこしこやって、ようやく自分のPS2で大ブレークしたレッツゴー!陰陽師のPVを観る事になった。

 なお、豪血寺一族 煩悩開放は実家に保管されている。
 また、レッツゴー!陰陽師の入った特典サウンドトラックは現在の家のどこかに眠っている……。

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