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俺と格闘ゲームの話 11 ~オタク格ゲー~

1,大分事情が変わっていた格ゲー業界

 背水の逆転劇から既に1年は経過していた当時の格ゲー界隈。
 全盛期ほどの復活というわけではないが、少なくとも世間のゲーセンを多少名が生きさせる程度には客を呼び返せていたと思う。
 かのストリーファイター33rd(以下3rdで統一)プレイヤ―の「こくじん」がyoutubeで「俺達格ゲープロはウメハラの膝を舐めさせてもらって生きている」と言っていたが、それを否定できない程度には「背水の逆転劇」は存在感がすごかった。
 あそこで3rdのインカム回収率がすさまじかったからこそストⅣへの土台ができたと言っても過言ではないほど、3rdは店舗インカムを上げていたのだ。

 面白いのがもう格ゲーなんて、と思っていた元クソガキ達の考え方は格ゲー製作陣にもあって、カプエスと言われるストツーのカプコン、KOFのSNKのコラボ的作品や、カプコン格ゲーのオールスターバトルとして作られたカプコンファイティングジャム辺りではもうカプコン自身も熱気を失っており遠くない未来、格ゲー事業をたたむ予定だった事。
 SNKも2000年に倒産して格ゲーで一代を築き上げたメーカーがなくなった事もあったということで、ウメハラの背水の逆転劇がなければ現在の格ゲー事情も変わっていただろう。

 ただ、そこに至るまで格ゲー界は進化し続けていた。
 正直言えばちょっと練習すればなんとかなる、というレベルはとうに超えているレベルで進化していた。

 例えばクソガキ達の頃ではあまり気にも留められていなかった「キャンセル」の概念を知っているか知らないかでダメージソースが変わってくる。
 キャンセルというのは攻撃をする際、

 攻撃モーション→相手にヒット→当てた側が止まる(硬直)→通常モーションに戻る

 という手順を踏んで攻撃をするのだが、ある特定の攻撃の場合、この硬直の入力タイミングで硬直を無視して、

 攻撃モーション→相手にヒット→キャンセル→攻撃モーション→相手にヒット

みたいなことが起こる動作異常(バグ)がある。これを意図的にする事をキャンセルと言い、これを繋げて攻撃を相手に与える事を「コンボ」という。
 格ゲー好きには当たり前に出てくるコンボという言葉。言ってしまえばこれがなくとも格ゲーは成り立つのだが、上のレベルに行くとこれを頭に入れておくのが必須なのだ。

 だから例えばパンチやキックでも、パンチ一つの後にキャンセルで繋がる攻撃を知っているか否かで相手へのダメージが変わってくる。パンチ一発を入れて終わりだったことが、キャンセルを駆使してキックと昇竜拳をセットで与える、みたいなことを覚えていて、それを実践できるか否かで大分勝率が変わってくるのだ。

 簡単に言ってしまえばマクドナルドでハンバーガーとコーラMサイズとポテトMサイズを単品で頼むより、ハンバーガーセットという「ハンバーガー+コーラM+ポテトM」のレシピを作る事で買う側はセットというだけでオトク、売る側も一々確認しなくてオトク、のオトクセットがキャンセルにおけるコンボというわけだ。
(これは格ゲー知らん人になんとなく伝わるように説明しているものだから解釈違いとか具体的には違うとか言わんように。分かってるから。違うと思ったら格ゲー知らない人に伝わりやすいたとえ話を持ってくるように)

 また、有利判定、不利判定というのも覚えていないといけなかった。
 前述するように攻撃には

 攻撃モーション→ヒット→硬直→通常モーション

の順で動いていく。
 だがこの硬直は一定ではない。攻撃やキャラクターによって硬直が変わってくる。それゆえにガードしてしまうと相手のガードより硬直が長い攻撃を持つキャラクターが出てしまう。そのため攻撃をガードされたら不利になる、というものがあるのだ。

 これが身内でワイワイ遊ぶ程度なら気にも留めなくていいところなのだが、ゲーセンで格上格下関係なく戦う容赦ない世界になると覚えているか否かで大分勝率が変わってくる。
 なのでこれを熟知し、相互に理解しあった人間同士が毎日練習していた場所などになると同じゲームでも動きが全く違う。この頃にはそういう尖った面々が台頭していたから格ゲーの敷居はかなり高いものと言われていたのだ。

 しかしこれも言い換えるとだ。
 格ゲーが下火になっていた中でもゲーセンに通って格ゲーを研磨していった男達の築き上げてきた結晶みたいなものが10年以上前の格ゲー世界では当たり前になっていたという事でもあったのだ。

2,いろどりみどり、各地から集められたゲーマーたち

 小、中、高と人との出会いが増えていくが、大学になると今までの出会いが増えていくというより自分が新たな出会いの一人となる事が多い。周りに知る人はほとんどおらず、周りはほぼ全員知らない人。積極的に会話出来るか否かで知り合える人は決まった。
 この頃から割とバンバン人と話したり付き合ったりしていたから、こういうのは好きな方だったのだろうと改めて思い出される。オタクのくせに人見知りってわけではなかった。

 新しく出会いが変わるという事は各々の生活環境なんかまるで違うわけで。他人が俺を見て「変なやつ」と思えば俺もまた相手を見て「変なやつ」と思う。それが基本だったのだ。
 という事はクソガキ経験が全く違うやつとも出会いが生まれる。俺のように中学生に差し掛かったころにはゲーセンなんてものがなくなっていたクソ田舎出身の人間と、まだまだゲーセンばりばりでしのぎを削っていた都会出身の人間が同じ舞台に出てくる。

 今までつけてきた知識や経験も違うやつらが対戦する事になるのだ。

 実際問題俺は上手いゲーマーではなかった。
 ゲーマーじゃないプレイヤーを軽くいなすくらいにはやっているが、所詮それは白帯だけど空手稽古をしたことがある、という程度の話で、帯の色が変わってくる世界に入るとまあ勝てない事勝てない事。

 事実貧乏学生だった事もあってアーケードでやる事も少なく、やってもそうそうに撤退、みたいなことはよくあった。
 3rdもまだまだ稼働初期のメンツが残っていた時代。100円が簡単にインカムにのまれて行く。そしてそういう面々は割と徒労を組んでいるからいくら人見知りしないからってこちらから声はかけにくい。

 結局ゲーセンでするにはするけど、というような状態になっていった。

3,土曜の夜にはどこかで格ゲー大会

 ではそんなザコザコ格ゲープレイヤーはどこへ行っていたかというと、それはもう誰かの家だった。
 当時はPS2が主流で、世間にもPS1のソフトが中古市場に大量だった時代。誰がどこからともなくPS1の格ゲーを持ってきたり、PS2のゲームアーカイブスを持ってきて、それを具体的に検証する事もなくおおざっぱにプレーした。
 一つのゲームに大体1時間。それを6本くらい回すから大体6,7時間やって終わり。
 そして大体ニチアサのゲキレンジャーかなんかを見て、物語の整合性をつけるために無理やりこじつけた場所をあら捜ししてげらげら笑って帰るような生活を送っていた。

 まだインターネットが有線限定で、住んでいた下宿(指定寮という)ではインターネットそのものが気軽ではなかった時代。インターネットを引ける奴は金持ちか社会人のどっちかだった頃。情報も得ずにげらげら遊んでいるものだった。
 それでも各々練習はするもんだから、変なコンボを開発してくるわ、それは有利フレームの通常攻撃であっさり破壊されるわ、という事を何度も繰り返していた。

 1986年に生まれた、割と格ゲーをコミュニケーションツールとして使っていたクソガキ達。どこに集まってもまあまあクソガキには格ゲーがあればなんとかコミュニケーションが出来た。
 そして大学に行く奴は多かれ少なかれ好奇心みたいなものを持っているから、必ず変なものを持ってくるやつがいる。
 学校のインターネットを調べていたら出てきたクソゲー呼ばわりの「FIST」やら、美少女物ながら隠れた良作格ゲーとして有名だった「あすか120%」なんかを近くの古本屋のゲームコーナーから見つけ出して持ってくる。
 まだまだネシカ筐体(ゲームメーカーが出した公式エミュレーターみたいなもの。現在スパ2xや3rdをやる人は実機よりこっちがメインって人も多いのでは?)のように過去のゲームが入った筐体がゲーセンになかった、あっても本当に一部のゲーセンにしか置かれていなかった頃、PS2とブックオフなどの古本屋は本当に活躍していた。
 過去のゲームソフト互換が出来ない今ではなんとも貧乏かつ贅沢な日々であった。

 こうやってクソオタクたちは無駄に変な格ゲーを覚えながら夜を過ごしていったのだった。

 今はもうゲームをダウンロードで買ったり、オンラインで隣に人がいないまま格ゲーが出来る時代になったから、過去のように誰かの家に集まって、良ゲーかクソゲーかも分からないままゲーム機にディスクを突っ込んでギャーギャー言いながら遊ぶ光景がなくなったと思うと、少し寂しさを覚える。
 オタクにはオタクなりのコミュニティってのが、どっかにあったのだ。

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