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俺と格闘ゲームの話 6~NEOGEO 餓狼伝説、龍虎の拳~

1,クソガキの憧れだったテリー ~餓狼伝説~

 クソガキにとってかっこいい、とはなんであろうか。
 まだ小学生でそれらしいかっこよさの基準なんてものもない世界でかっこいいの基準値として最初に扱われるものはやっぱり「スポーツ万能」だろうか。
 恐らく男の子で最初からスポーツ万能に憧れの一つもなかったという事はないだろう。すでに忘れているか、結構早い段階で諦めたか、特殊なケースか。これらだ。
 クソガキだった俺にとってもスポーツ万能になりたかったのは間違いない。かけっこで一番速くいたかったし、ドッジボールでかっこよくみんなをなぎ倒したかった。

 でも大抵途中でそれは難しい事に気付いていく。
 一方で興味が違うところに行ってしまい
「それはオイラもかけっこ一番になりたいけど…」
という願望で終わってしまう。実際クソガキの俺も小学二年生になったらカプコンが出していたロックマンXの虜になっていて、毎日おふくろが職場から持って帰る透明の半紙にロックマンXを書きなぐっていたものだった。
 クソガキは「絵」がアイデンティティに変わっていたので、スポーツ万能はアイデンティティを作る要素ではなくなっていたのだ。

 そんなスポーツにアイデンティティを失っていたクソガキにとって餓狼伝説に出てくるテリー・ボガードは魅力的だった。

 クソガキにとってテリー・ボガードはストリーtトファイターのリュウとは違った魅力があった。
 リュウというキャラクターは確かにかっこいい。波動拳、昇竜拳、竜巻旋風脚を駆使してあらゆる格闘家に立ち向かっていき、己の技を磨き、勝利していく。やっぱりそれはかっこよかった。
 一方でそれはとっつきにくさでもあった。
 女子中学生が初恋の先輩に近付きたいけど、あまりにも住む世界が違いすぎて遠くから見つめるだけ、のような触れにくさ、みたいなものがあった。
 リュウはクソガキからしても「憧れ」という言葉が似合いすぎる男だった。

 一方でテリーという男はどういう存在だったか。
 赤いキャップにシャツ。その上に羽織った服はキャップと一緒でお似合い。さらに金髪で巨躯。長い脚によく似あう青色のジーンズとコンバースのスニーカー。
 そして勝利ポーズの「OK!」という言葉に合わせて投げられるキャップ。
 クソガキたちにとってかっこいい要素が詰まりまくっていた。

 そしてそのOKポーズはテリーというキャラクターがいい意味で軽かった。

 前述したとおりストリートファイターのリュウはかっこいいが近寄りがたい。勝利ポーズも腕を組んで立ち尽くすだけ。それに鉢巻が風になびくだけというものだった。
 だからかっこいいけど近寄りがたい、憧れのようなものだったといった。

 だがテリーのOKポーズは彼が「陽気なアニキ」としてのキャラクター性を際立たせた。
 あんなにスポーツ万能なのに気軽に接してくれそうな軽さと明るさがあった。それはリュウには持ちえない魅力であるし、リュウのライバルだったケンですらその魅力があったか、と言われたらなかった。ストZERO以降にそれがついてきた、という印象の方が強い。

 リュウは「憧れ」としたらテリーは「いつも優しい兄貴分」というポジションが彼のかっこよさを引き立てたのだ。

大乱闘スマッシュブラザーズでまさかの登場しあの象徴的な「OK!」も再現。
やっぱりリュウに相対するのは草薙京ではなくテリーだよな。

 後年、確かな情報ではないのだがゲーセンにおいてテリー・ボガードというキャラクターはやっぱりかっこいいと思われていたのか、コスプレの走りはテリー、と聞いたことがある。
 それが本当なのかどうかは分からないが、聞いた時はなるほど説得力があった。だってあのテリーだもの。

 そういう意味ではクソガキが一番憧れる存在だったかもしれない。
 クソガキたちにとってスポーツ万能というのはわかりやすい優劣性が観られるものだから、自然と「スポーツ得意派」と「スポーツ不得意派」に分かれる。
 そしてどうしてもそこでヒエラルキーが発生してしまい、スポーツ得意派の下にスポーツ不得意派が組み伏せられる構図になってしまう。これはクソガキだらけの小学生における社会構造では避けられない。
 それはどこにでもある淘汰みたいなものだけれど、スポーツ不得意派だって一度はスポーツ得意派に入りたかった。それは誰にだってあるだろう。

 その中でテリーは俺達スポーツ不得意派にもかっこよく手を差し伸べてくれそうな気軽さがあった。キャラクター的には滅茶苦茶スポーツ得意派なのに。
 そして「リュウよりは俺達もなれそう」感がさらに親近感を沸かせた。

 その親しみやすさがテリーという男最大の魅力だった。
 クソガキの誰もがテリーのような服装で、アメリカの駅から無賃乗車して、ラシュモア山を背景にかっこよく戦いたかった。テーマは勿論テリーのテーマであるクリキントン。あの明るいサウンドの中、爽快に戦い、超必殺技のパワーゲイザーをかっこよくキメて勝った後、「OK!」という言葉と共にキャップを投げ、勝利の喜びを表現する。
 それにクソガキ達は憧れたのだ。

 テリー・ボガードはクソガキにとって永遠の若大将なのだった。

2,龍虎乱舞という秘密の超技に誰もが酔いしれた~龍虎の拳~

 そんな餓狼伝説と相対するようにあったのは龍虎の拳。
 NEOGEO筐体でKOF全盛期になる直前くらいは大抵セットで入っていた。
 当時のクソガキは餓狼伝説をするか龍虎の拳をするかいつも迷っていたのだ。

 なのでリョウ・サカザキやロバート・ガルシアを知っているけど触った事がない、という人は少なくなかった。
 しかもゲームをする度に小遣いが減るNEOGEO筐体。大人のようにポンポンインカムに小遣いを突っ込めるクソガキなんてほとんどいなかったのだ。
 伝説の格闘ゲーマーにして現在もプロとして活動する梅原大吾がストツー世代というのもよくわかる。負けると小遣いが減るから勝てることはその時点でコスト対策になるのだ。

 そして前述したとおりクソガキにとってかっこいいのは俄然龍虎の拳の主人公たるリョウ・サカザキより餓狼伝説のテリー・ボガード。なのでどうしても餓狼伝説よりはマイナーな扱いにされていた。

 だからこそ餓狼伝説SPECIALでの裏キャラとしてリョウ・サカザキが登場し、しかも一定のコマンドをすれば使用可能になる、という事実はクソガキを沸かせた。
 それもアーケードではなくスーパーファミコン版でそれが出来るのだというのだからとてもうれしい。現在では散々こき下ろされるスーファミ版、いわゆるタカラ版SNK格ゲーシリーズだが、小遣いが限られている田舎のクソガキたちにとってはやっぱり大きい存在だったのだ。

当時はラスボスの後の裏キャラという概念もなかったためにこのリョウの存在は大きかった。
クソガキ達にとって裏キャラといえばMr.カラテではなくリョウだった。

 ただ、リョウ・サカザキというキャラクターはどうしてもそのプレイアブルの性質上比較されるのはテリーではなくストリートファイターのリュウだった。
 当時のクソガキ達にとって企業の概念なんかなかったから
「どうしてリュウがいるのに似ているキャラがいるんだ」
という気持ちの方が勝り、やっぱり人気があったとはいいがたかった。
 当時のストツースタッフがカプコンからSNKに移籍後作ったシリーズが龍虎の拳と知るのだが、それは後々の話。

SNK版リュウとして作られたリョウだが、企業の概念を知らないクソガキにとってはリュウの真似っこキャラという印象だった。

 だからといってリョウやロバートがパクリキャラと一概に決めつけられなかった。
 それは彼らにはリュウが持たない超必殺技があったからだ。

 ちょうどこの頃はドラゴンボール全盛期。クソガキ達にとって水曜日の夜7時は放送されていたドラゴンボールタイムで、観ていない家庭はほとんどなかった。
 木曜日の朝にはドラゴンボールZの話が持ち切りで、今見るとひどいくらいの引き延ばしなど気付かないほど集中してみていた。
 野沢雅子ボイスの「かぁーめぇーはぁーめぇー!」で次回に続くになってもクソガキ達は興奮するほどの存在感があった。

 だから同じポーズをとるリュウの波動拳が受け入れられたという事情があった。
 放課後、クソガキ達が公園に集まってキャラクターごっこをする際、必ずドラゴンボールの主人公孫悟空のかめはめ波とリュウの波動拳はぶつかっていたものだった。

 だが、リュウの波動拳には弱点があった。
 格闘ゲームとして仕上げたリュウの波動拳は弾が一つ飛んでいくだけだ。
 だが悟空のかめはめ波はビーム状の演出をされている。
 しの演出の差が必然的に波動拳を負けさせた。波動拳とかめはめ波が戦ったら、必ず波動拳が負けたのだ。

 だが、リョウは違った。
 リョウ・サカザキたちの使う覇王翔吼拳はかめはめ波と同じポーズながら波動拳よりも大きくダメージも大きい。
 格闘ごっこで悟空のかめはめ波と対峙できる必殺技を持っていたのだ。
 しょうもない話かもしれないが、当時のドラゴンボールの空気を知っているクソガキ達にとっては波動拳よりも強い必殺技は強烈なアイデンティティだったのだ。

波動拳を超えたかめはめ波に負けない技がある。これだけでアイデンティティだった。
なお格闘ごっこで打ち合いになるとやっぱりかめはめ波の方が強かった。流石ドラゴンボール

 それと同じくしてクソガキ達の間でまことしやかに噂された超技がある。
 聞くところによると覇王翔吼拳を超える超強い技があると。
 うちの地元ではロバート・ガルシアで先にその技を出したのか技が判明したのか分からないが、ロバートが使える最強の技があって、ゆえにリョウよりロバートの方が強い、という噂が立った。

 それが「龍虎乱舞」だ。

 流れるようにパンチや蹴りを繰り出し、あまりにも素早く出るから踊りのように見える最強の技がある、と誰もが噂したのだ。

 当時は今と違って全ての技が書かれた説明書なんてのはなかった時代。
 攻略本の秘密の超必殺技が書かれている事がウリだったほどで、その秘密にされた最強の技を持っている事が彼らの存在感を際立たせたのだ。

 今の格ゲーマーにとっては乱舞技なんて演出が長いだけのダルダル技とされるが、あの当時を知るクソガキどもにしてみれば、覇王翔吼拳を超える謎の超必殺技を持っている、というだけで大騒ぎだったのだ。
 技のクオリティ以上に技の演出が大切にされた時代がクソガキ達のいる格ゲーの時代だったのだ。まだ対戦よりも一人プレイで敵をかっこよく倒す事に主眼が置かれた時代ならでは、というところか。

 だから今でもクソガキ達はリョウ・サカザキやロバート・ガルシアが好きなまま大人になってしまったのであった。

 NEOGEO編はもう少し続きます

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