「もう大丈夫ですよ、安寧の人。」〜その“灯台”は、福音としてヒト科を導くだろうか〜

混沌として過ぎ去る日々の中で、唯一の光であった平沢進のソロアルバム、【BEACON】がリリースされた。

先日、参加することが叶わなかった24曼荼羅にて、先行して演奏された2曲を含むアルバム。今の自分に、このアルバムが受け止め切れるのか、複雑な心境で聴き始めた。

01: BEACON 
02: 論理的同人の認知的別世界 / The Cognitive Another World of the Logical Coterie
03: 消えるTOPIA / Disappearing TOPIA
04: 転倒する男 / The Man Who Falls Down
05: 燃える花の隊列 / Ranks of Burning Flowers
06: LANDING
07: COLD SONG
08: 幽霊列車 / Ghost Train
09: TIMELINEの終わり / The End of TIMELINE
10: ZCONITE
11: 記憶のBEACON / BEACON of Memory

01: BEACON 
 1曲目から、疾走感漂う、明るく爽やかな。灯台のある岬、そこに広がる海と一帯に広がる緑、そこに漂う全ての空気を吸い込み、あらゆることが事由である世界。ヒト科はもっと堂々とした生き物であるのだ。

02: 論理的同人の認知的別世界 / The Cognitive Another World of the Logical Coterie
 一見広がった自由な風が止み、あたりが暗くなってきた。歪み、世界が私に見せようとしている「セカイ」、何かが奪われていく、その過程を私は認知できているのか。今、奪われない、何者にも奪われない、私の世界はどこに。

「物語はクライマックスへ 冗談のような夜ですって? えぇ、前夜ですから。」

03: 消えるTOPIA / Disappearing TOPIA
 暗闇に包まれたかと思った最中、怪しげで、また、美しい光、それは蛍のような、深海を揺蕩うクラゲのような、そんなもので周囲が溢れてきた。美しい日本語のリズム、消えゆくかと思われた安寧の世界、今、キミに帰ってきた。私の世界は消えていない。

04: 転倒する男 / The Man Who Falls Down

周囲を照らす灯台に登ってみる。薄暗い螺旋階段をひたすら登っていく。途中の狭い小窓から外を眺める。すると、少し先に丘が見える。何かある。しかし、どうやってここに登ってきたのだろう。気づけば戻る方法が分からない。戻るには、この螺旋の空洞へ飛び込むしかない。鋭さを増すギターが、私の背中を押している。

05: 燃える花の隊列 / Ranks of Burning Flowers

落下した私の行き着いた先。いつの間に出ていた灯台の麓、先ほど見えていた丘、そこへ青白く燃え盛る【何か】が、隊列を成し、真っ直ぐに向かっている。恐怖はない。私はそれに加わりたい。そう思った。命を焚いてでも、その荘厳な隊列に加わりたい。そして、その隊列の【何か】は、存在を焚く私を受け入れ、進んでいく。

06: LANDING

燃え尽きそうな私の生存は、荘厳なストリングスによって導かれる。そこにいる司祭風の【それ】は、祈りにもにた祈祷をあげる。キミは目覚めたのか、キミにはその虹が見えるか、司祭は私に問う。

07: COLD SONG

祈祷のようなそのメロディは続く。流れる音は、一音一音、噛み締めるような、大切な何かを伝え続けるように響く。ここはどこだ。丘に向かっていたはず。洞窟にでも導かれたのか。

08: 幽霊列車 / Ghost Train

不穏な空気が漂う中、一閃。何かが通る。列車だ。規則的で、怪しげなリズム。どこへ向かっているのだろうか。コンパートメントには誰もいない。私以外誰もいない。私しか。対峙する自己。雨降りしきる中、深きに入ると、気がついた。私以外の誰か。たくさんの誰かを。何に、どこに導かれるのか。

09: TIMELINEの終わり / The End of TIMELINE

突如明るくなり、爽やかな風が吹く。目を開けると、そこに広がるのは、初めにいた岬。そうか、またここに辿り着いたのか。晴わたる空に、降る雨。まるで福音のよう。ヒト科の私は、自分自身が生きていたいタイムラインを生きることができる。そう、私が選ぶことができるのだ。正しい、タイムラインを。

10: ZCONITE

降る雨の中、一瞬暗い影が。タイムラインにノイズが入る。せっかく選び取ったタイムラインに入るノイズ。選び取ったはずなのに。自分を信じることができるのか。

11: 記憶のBEACON / BEACON of Memory

「物語はこれでおしまい。もう大丈夫ですよ、安寧の人。」

生きると決めたタイムライン。目の前が晴れ渡り、鳥瞰の感覚へ。晴わたる世界を見渡すことができる。そう、ヒト科として、堂々と。光さすこの世界で、私は自由である。奪われず、福音に溢れたこの世界を。


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