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読書感想文「恐怖の正体」トラウマ・恐怖症からホラーまで

恐怖の正体 トラウマ・恐怖症からホラーまで
春日武彦著
中公新書

怖がりであるにもかかわらず、私はホラー小説や映画が好きです。
ただゲーム(バイオハザードとか)はムリ。
リアル過ぎて、心臓に悪いから(笑)

本書は6章で構成されていて、恐怖について考察しています。
「こうすれば克服できます!」や「医学的に見て云々…」といった内容ではありません。
医学書からの引用よりも小説や映画といったフィクションからの引用が多いと感じました。
著者は精神科医さんですけど、文章がお医者さんっぽくないです。
エッセイのような気楽さがありながら、小説のような艶やかな表現がいくつもありました。
では私が印象に残った部分を2つだけ紹介させてください。


1.恐怖症

第二章で「恐怖症」について書かれています。
ちなみに私は以下の恐怖症持ちです。

・高所恐怖症…スカイツリーで((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
・尖端恐怖症…箸を向けるなー(# ゚Д゚)
・集合体恐怖症…あー気持ち悪いっ(>_<)

上記はもちろん、他の恐怖症(閉所恐怖症や人形恐怖など)についても書かれています。
集合体恐怖症で引用されていたのが「異形コレクション 恐怖症(短編小説集)」に収録されている柴田よしき氏の「つぶつぶ」です。
実はこの異形コレクションを何冊か読んでいて「つぶつぶ」も読んでいました。
よく覚えています。
主人公が集合体恐怖症で、一度は克服したかに見えたのですが…と結末はぜひ「つぶつぶ」を読んで確認していただきたいです。
この話が引用されているのを読んで、著者に親近感が湧きました。
精神科医さんがこういう本を読んでいて、それについて真剣に考察していることが嬉しかったです。
ちなみに著者は「甲殻類恐怖」で、エビやカニを見るだけでもダメだそうです。
恐怖症っていろいろありますね。
恐怖症じゃない人から見たら、不思議でしかないと思います。

2.グロテスク

グロテスクは第五章に書かれてあります。
本書で一番印象に残ったのがグロテスクの中で紹介された短編小説です。
これを「グロテスク」と思った著者の感性がすごいです。

タイトルは「ルイザよ、帰ってきておくれ」
支配的で偽善的な家族にうんざりしていた19歳のルイザは家出を決行した。
とある小さな都市にたどり着いたルイザは、偽名を使い住む場所と仕事を得ることに成功する。
家出から1年。
ラジオから「ルイザ、帰ってきておくれ。おとうさんもおかあさんもあなたを愛しています…」と呼びかける母の声が聞こえてきた。
しかしルイザは心を動かされることはなかった。
ある日、近所に住んでいた男性にルイザは見つけられてしまう。
なんと両親はルイザに懸賞金をかけていたのだ。
連れ戻されて母の前に連れていかれるルイザ。
そのときの母の第一声が「あんた、名前はなんていうの?」だった。
ルイザは偽物と思われ、小さな都市に帰された…。

母親が認知症、というわけではありません。
家族にとってはルイザを迎えるよりも、探し続ける状態のほうが楽だったのです。
これを著者は「不幸に安住する」と表現しています。
家出した娘という現実に向き合うより、不幸な家族でいるほうが心地よいというグロテスク。
これは少なからず自分の中にもある心理です。
現実と戦うより、不幸な自分を哀れんでいるほうが楽ですから…。
自分の心に無意識のうちに飼っていたグロテスクに恐怖を覚えました。

感想

いろいろな恐怖について触れることができて、面白かったですね。
恐怖はすべての人類の中に必ずあって、その在り様は一言で表せません。
人によって違う部分があったり、共通する部分があったりします。
この感想文では取り上げませんでしたが「死」についても書かれています。
恐怖って深い。
深淵そのものです。
私たちは恐怖とうまく付き合っていくしかないのだな…と最後はちょっと苦笑いが出ました。



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