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No.30 中村崇氏 〜リサイクルを社会システムに組み入れたい〜

 公益財団法人福岡県リサイクル総合研究事業化センターの代表である中村先生は、福岡市で3人姉妹を姉に持つご長男としてお生まれになられました。
 機械好き、様々な図鑑を愛読する少年として鉄腕アトムより、むしろお茶の水博士に胸を踊らせた少年時代でした。
 小学生の社会科見学で訪れた旧八幡製鐵所の風景に、先導にあたった先生の一言が記憶に残られているそうです。
煙突から立ち上がる七色の煙を見ながら、「鉄が日本を支えているのだ」。

――科学への目覚めは幼少の頃からですか

小中学校は公立でしたが、地元の修猷館高校に進学して周りの生徒と同じ路線で九州大学に進みました。それまでも文系というよりは理科好きでした。九州大学でも当時は学生運動が盛んでしたので、授業自体がとても貴重だったので真面目に取り組み、私の授業ノートが友達にも評判となり、熱心に学業に励んでいました。
 金属組織学という当時では難しく、3次元の組織構造を理解しないといけない試験では70名中4名に残り、金属とくに非鉄金属に興味を深めたものです。
 九大で金属製錬、非鉄を学びながら、八幡製鐵所への就職を志望していましたが、指導教授の人柄と推薦もあり、九大では初めての本多光太郎(旧東北帝大総長)顕彰奨学金<公益財団法人本多記念会>をいただけることとなり、九州工業大学で講師となりました。本格的に金属を極めようと思い至りました。

――研究テーマはどのようなものですか

現在、希少金属のリサイクルを主にリチウム電池からの収集を研究していますが、当時はリサイクルという概念やしくみが、産業廃棄物とどのように異なるかの社会認知が整備されておらず、東北大学に招聘されて研究を深めてきました。金属リサイクルではその工程から、ダイオキシンが発生しますので、その専門性も期待されていたのです。
 リサイクルはその原料をいかに効率的に回収できるか否かに掛かっているのですが、当時の環境省担当官も廃棄物法を盾にして、「不法投棄にならないか」と疑念の目で見られたものです。旧同和金属(現DOWAホールディングス社)が関心を持って私の研究をサポートしてくれたので、小型電子機器からレアメタルの回収実証実験を秋田県大館市で成功し、環境省もようやく「小型電子機器リサイクル法」の成立に繋がりました。
 技術はあっても実用化の難しさは常にあります。特にリサイクルでは廃棄物というゴミから希少資源を回収して社会に貢献する、更には地球環境の保全にもつながるのです。そのための社会の認知、その社会システム構築が重要なのです。そのことを広めるために、福岡県リサイクルセンターで活動を続けていることころなのです。


若き研究者との懇談、気持ちが通じている愛犬

――後進への思いやこれからの夢は何でしょうか

研究を極めようとされる方には特に、異分野のテーマや研究者との交流を勧めます。研究は時として行き詰まり、思い悩むことが多くあると思いますが、研究を研究だけで終わらせないためにも、ブレークスルーには異種混合が欠かせません。研究指導の先生方や学窓仲間だけでなく、企業や地域の人々、行政や官庁とのつながりが必要なのです。ご自身の資質や興味関心を深めることはもちろん大切ですが、好奇心を持って広く観ることを忘れないで頂きたいです。
 リチウム乾電池は日本で生まれ育ちましたが、経済的には生産量も販売も中国に抜かれてしまっています。主な用途のEV車はこれからも世界でますます広がることでしょう。電池には寿命があるので、そのためのリサイクルが重要です。リサイクルは各国で様々な法律で規制さており、地球環境や経済の持続性のためにも新しい社会システムが求められているのです。技術をどのように実用化してゆくのか、日本できちんとしたモデルを作り上げて世界に広めてゆきたいと願っています。そのためにも政策的な発信やユーザー、メーカーへの啓蒙活動、地球環境保全や温室ガス削減など社会への情報発信など、まだまだやりたいことは続いているのです。

 「鉄は国家なり」という高度経済成長を体感して育たれた中村先生は、7色の煙の不思議が心に刻まれていたと話されました。小学生の頃の好奇心が研究者として花開き、現在の地球問題や社会課題の解決に今なお、勤しまれているお姿に感銘を受けたインタビューでした。
 中村先生のご決意の詳細は、福岡県リサイクル総合研究事業化センターのリサイクルセンター長ご挨拶でも多く語られています。ご参考にされてください。

<取材:2024/02/02>


略歴:
2017年 公益財団法人福岡県リサイクル総合研究事業化センターセンター長
2017年 東京大学生産技術研究所特任教授
2001年 東北大学多元物質科学研究所教授
1998年 東北大学素材工学研究所教授
1991年 九州工業大学教授
1977年 九州工業大学講師
1972年 九州大学工学部冶金学科卒業、同学工学研究科修士、博士課程終了
1968年 福岡県立修猷館高等学校卒業
1949年 福岡市出身


NTS主な書籍:NTS書籍情報にリンクします
2023年8月 車載用チウムイオン電池のリユース技術と実際例 監修
2024年4月予定 リチウムイオン電池からのレアメタル回収・リサイクル技術