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円安雑感その3~円安をめぐる不見識~

前回に円安の記事を書いてから、もう2年近く経った。それから円安はさらに進みいったん160円を付けて、その後152円程度まで下落した。

今の円安水準はオーバーシュートだと思うし、この円安進行スピードとボラティリティは異常であるが、2年前とは基本的に見解は変わらない。ただ、さすがに不見識が横行し過ぎだと思うので、今回はその点を指摘したい。

円安をめぐる不見識1~外国為替特別会計~

円安をネガティブに取り上げる報道の中で、外国為替資金特別会計(外為特会)を取り上げていない報道が多い点が不公正である。

昨年のドル円が130円台の水準で外為特会の含み益は30兆円あるとされているが、150円台ともなるとさらに膨らんでおり、その含み益を実現しながら円高誘導することもできるはずである。その含み益を国民経済に還元することによって、円安のデメリットを解消することができるだろう。もちろん、実現性は議論になるだろうが、その検証すらもせずに、金利を上げることで円高誘導しようという議論が多いのは不公正である。金利を上げることで景気悪化させるリスクに対する検証もあまりにも少なすぎる。

円安をめぐる不見識2~変動相場制の問題そのものへの不言及~

そもそも、2年前の時と同様に、変動相場制による不安定な為替レートの変動に触れられることがないのが問題である。円安も円高もそれぞれメリット・デメリットがあるという穏当な指摘があればまだいい方だという惨憺たる現状である。

1971年のニクソンショックにより、通貨は金の裏付けを失い、原理的には通貨は全て紙切れにすぎない。これが度々バブルと恐慌を繰り返して、人びとを危機に陥らせる原因なのである。

根源的には実効性は脇に置くとしても、ケインズが提唱した国際通貨バンコールの理想を想起すべきである。世界各国の貿易黒字や貿易赤字の状況に応じて通貨交換比率を調整するという仕組みである。実体経済に裏付けを持ち、投機の要素によって国際経済が不安定にさらされるリスクが少ないわけである。

ケインズの理想とは裏腹に、米ドルを基軸通貨とするブレトンウッズ体制が成立することとなるが、それでもなお、辛うじて金の裏付けがあった。しかし、ニクソンショックによってその裏付けすらなくなり、世界経済は以後、極めて不安定な状況になってしまった。おそらくは新自由主義の勃興や、ローマクラブが提唱した「成長の限界」の影響があるのだろうが、今回はその点に深入りするのを避ける。

円安をめぐる不見識3~近隣窮乏化策への不言及~

そもそも通貨の切り下げは、基本的に「近隣窮乏化策」とされて、自国への利益誘導と批判されるものであり、これは教科書的な初歩である。

その初歩の初歩への言及があまりにも少なすぎることが実に嘆かわしいが、辛うじてトランプ氏がそのことに触れたのが実に興味深い現象である。いつかこの点に触れたいが、あまりに長くなりすぎるのでそれはまたの機会とする。

あまり指摘する人がいないが、今回の円安は米中冷戦、そしてロシアのウクライナ侵攻の余波であろう。中国やロシアからの投資が引き上げられて、その避難地として日本が選ばれている。生産拠点としての日本は生産コストを引き下げるために円安誘導されていると言えるであろう。そういう意味で、おそらくは基軸通貨の担い手であるアメリカの意図の下で、近隣(=中国・ロシア)窮乏化策が展開されていると見る方が妥当であろう。

つまり、冷戦(あるいは熱戦?)を煽る方向へと拍車をかけているという根源的な批判が必要であるはずだが、そういう批判を見ることは皆無に等しい。半導体投資の文脈でその点を指摘する人はいるが、戦争と平和の観点でこの点に触れる人は皆無であろう。

円安をめぐる不見識4~ザイム真理教~

最後はマンガチックに見えて実は重要な指摘を紹介して終わることとする。森永卓郎氏が『ザイム真理教』を上梓して、ネット界隈では大きな反響を呼んでいる。

不見識1の外国為替特別会計の論点と関連するが、実はこの円安の最大の受益者は、外国為替特別会計を持つ財務省である。この円安トレンドにおいてそのことに触れる指摘は少ない。

どうして、この最大の受益者から分配することで急激な円安の衝撃を緩和しようという議論が出ないのか。森永氏のロジックを借りれば、日本国民はザイム真理教というカルト集団に洗脳されているからだということになる。

いささかマンガチックに見える指摘だが、日本国内のマスコミは基本的に官庁から情報収集を行っているが、官庁の中で最も大きな力を持っているのは予算の権限を握る財務省であるからに、その影響を濃厚に受けていると言って過言ではないだろう。

現在、ドル売り介入の真っ最中なので40兆円ともされる膨大な含み益の価格、あるいは残額、そして利益確定額についてどのように評価すべきについては議論は必要だが、少なくとも国民の財産である外国為替特別会計から出た利益を分配せよという議論は必要である。

円安・円高のメリット・デメリットよりも、上記4点の議論を避けて、日本国内で不見識な浅い議論ばかりして、国際情勢や通貨についての根源的な理解を欠くことによって招く災厄の方が大きいであろう。


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