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R-指定と桜井和寿の共通項 人間への諦観とポップスに仕込む毒

大注目、大活躍、大波乱だった2021年11月

今月はずっとCreepyNutsの話題が絶えない。すごいことになっている。「有吉の壁」武道館ライブでのサプライズゲスト出演、「マツコ会議」の松永号泣事件、そこからのネット上での論争、横浜アリーナ、ラジオ…ややこしい話題も含め、ただでさえ今年出ずっぱりだった二人が日本中から注目されている。ファンとしてはうれしいんだけど心労がたたってそうで心配。


マツコ会議の件は、僕はそもそも10年来のマツコデラックスのファンなので言及したいこともあるし松永の話もしたいんだけど、ちょっとそれはまたの機会にする。今回は松永の話ではなくR指定の話がしたい。そしてタイトルにミスチルと書いたのは、そこに到達するまで長いんだけど、ある共通項を見つけたのでそれについて書きたい。

「J-POP」「GReeeeNかと思った」という揶揄の意味と違和感

最近の、恐らく「サントラ」以降のCreepyNutsの楽曲の方向性を指して、こういう表現を使う人たちがいる。僕はHIPHOPの世界に明るくないので知ったかぶりは避けながらしゃべるが、明らかに文脈からしてJ-POP的であることとか、GReeeeNかと思ったという言い草は誉め言葉ではないだろう。(GReeeNに失礼だろと思うけど)

それは二人が地上波に引っ張りだこで、音楽とは関係ないバラエティ番組に出ていることも含めての、「お前らもう全然アンダーグラウンドじゃないじゃん」という批判だと推察する。「所詮俺たち日陰者です」という顔で出てきたお前らが、当初やっかんで突いていた「日の当たる側の奴ら」側になっちゃったじゃん、という文脈だろう。

CreepyNutsが世に出たきっかけのひとつが「たりないふたり」「助演男優賞」だったことからも、彼らが日陰者という自意識から活動をスタートしたのは実際そうだろう。そして今「バレる!」等の曲の歌詞からも見て取れる通り、そのイメージが固定されたままであることに苦悩を感じ、次のステージに行こうとしていることも見て取れる。その「次のステージに行こうとすること」に、「あれだけ日陰者の立場で甘い蜜を吸ってたくせに」という反発がある…ように見える。多分。日陰者であることやアングラということとHIPHOPの世界は深い関係性があるのはそうなんだろうなと思うが、前述のとおり僕はHIPHOPの世界をあまり知らないので言及しない。J-POPみたいだという比喩は、雑な言い方をすると「陽キャっぽい、もう陰キャじゃない、日陰者の代弁者ではない」という話だろう。

長々と前置きしたうえで。僕が違和感を覚えるのは。

「CreepyNutsの曲って、今の方が闇深くない?」という話だ。

CreepyNutsの根底にあった「怒り」

僕はCreepyNutsの曲だと「みんなちがって、みんないい。」が好きだ。

御覧の通り全方位に喧嘩を売りまくっている。今URLを貼って笑ったんだけど、この動画はおそらくPV内で女性ラッパーが自傷行為をしているシーンがあるせいで年齢制限をつけられている。そういうところも「らしい」。

明らかにモデルが分かる誰かさんを戯画化し茶化し中指を立て笑いにしたあとで、雑踏の中で真顔でカメラの前に立ち、目元を隠す黒線を外して見せる。その冷たさがR指定の魅力だと思う。

CreepyNutsの初期の曲は大体3タイプに分けられるように思う。

①「犬も食わない」「どっち」「紙様」「教祖誕生」のような、スラップスティックめいた乾いた笑いの奥にRの冷めた目線を感じる曲

②「刹那」「未来予想図」のような、未来を悲観せざるを得ない中でその壁に向き合う苦しみの吐露を歌う曲

③「助演男優賞」「よふかしのうた」「だがそれでいい」のような、彼らの等身大の自意識を感じられる曲

②③には明確な境界線が無い気がするが(「トレンチコートマフィア」とかどっちだろう?ってなるし)、とりあえずこういう分け方をしてみた。

①②には少なからず、環境や過去に出会ってきた何か、誰かへの怒りを感じさせる文脈があった。苛立ち、ルサンチマン、「なんで俺ばっかりこんな目に」という気持ち。「トレンチコートマフィア」の「美化されまくったヤンキー漫画では描かれなかった『迷惑かけられた側』『逃げる側』」なんかは顕著な例だろう。その怒りに共鳴したから僕らはCreepyNutsを「日陰者代表」として応援していたのかもしれない。

僕も今書き散らしていることはただのファンでしかない僕一人の解釈なので、断定系で書くのは気が引けるし「違いますよ」ってなるかもしれないのだけど、一つ感じたことがある。

もしCreepyNutsがかつてと今で変わったのだとしたら、そのタイミングは例に挙げられがちな「サントラ」や「かつて天才だった俺たちへ」ではない。

「Dr.フランケンシュタイン」だ。

怒りが諦めに変わり、「俺VS世界」から降りた

「Dr.フランケンシュタイン」は「かつて天才だった俺たちへ」に収録されている曲だ。「フランケンシュタインの怪物」の物語に自分をなぞらえ、今の自分を構築した環境や周囲に「あなたのおかげでわたしが…」とお礼を言う。

一回聴いてみてほしいのだけど、全楽曲の中で一番悲しくて一番歪んでいて、これまで理不尽な世界に対してファイティングポーズを見せていたR-指定がなにかを「諦めた」かのような歌詞だ。

みんな歩幅を合わせ同じ方へ歩かされてきたからです
列をはみ出すとすぐ仲間外れと言い聞かされてきたからです
(中略)
Dr.フランケンシュタイン 恨んでいない 貴方のおかげで私がいる

諦めることと許すことは違う。相手に怒るときは相手に変わることを期待しているからだとも、誰にでも優しい人は誰にも最初から期待していないから怒らないのだともいう。

そしてこの「Dr.フランケンシュタイン」と「のびしろ」は地続きに続いている。

「のびしろ」はポップな曲調やCMに起用されているのもあって楽しく明るく前向きな雰囲気を持っているが、はっきりと「他人に期待をしないのが今の俺の強み」と言っている。僕はこの部分、フル音源を買ってぎょっとした。

「助演男優賞」「たりないふたり」の自虐観は薄れたかもしれない。だがR指定の中の世間へ向けるまなざしは、かつてより更に暗く冷たいのではないか?

自分が世界に受け入れられたとは、居場所を見つけられたとは今も思っていないんじゃないか?

僕はこういう毒の仕込み方をする人を一人知っている。

好きな人も揶揄する人も皆、J-POPと言われて連想するアーティスト。

Mr.Children、桜井和寿だ。

笑顔で猛毒をばらまく「顔役」桜井和寿

みんな知ってる超メジャーのどまんなか。ドラマ主題歌として数多く起用されたことも一因だろう。多くの人はドラマ「14歳の母」の主題歌だった「しるし」や「オレンジデイズ」の主題歌「Sign」を覚えていて、桜井和寿と言われたら柔和な笑顔で歌う姿を思い出すのではないか。幅広く受け入れられるポップス、陽だまりで歌う人。

だけど実際の所Mr.Childrenは、どぎつい毒やアイロニーが入った歌もたくさん歌っている。一回「深海」は通しで聴いてみてほしいところだ。

ミスチルの話を始めるとただでさえ長くなった文章がいよいよまとまらなくなるので、一つ僕が大好きなミスチルの曲とその「やり口」を挙げる。

「fantasy」という曲と、それがタイアップしたCMについてだ。

この曲はBMWのCMに起用され、いかにも幸せそうな家族が車に乗っている映像のバックに流れる。

僕らは愛し合い 幸せを分かち合い 歪で大きな隔たりも越えていける

といった、とてもポジティブな歌詞と曲調だ。CMだけ聴いた人はそういう印象だけ持って帰るだろう。

ところがどっこい、この曲はその後こう続く。

たとえばそんな願いを 誓いを 皮肉を道連れに旅立とう 日常の中のファンタジーへと

つまりこれは、前述の「愛し合うこと、幸せを分かち合うこと、歪で大きな隔たりを越えられると考えること」をまるごと「ファンタジー(幻想)」だと断じている。

ぜひ聴いて確かめてほしいのだが、これは僕の大げさではなく、曲全体を通しで聴いたら「なんちゅうこと言ってんだ」となる。世にあまねくきれいごとを「勘違いや嘘、本当は自分のことさえわからないのに世界の何がわかるんだ」と言い切る。

僕はこれをCMのタイアップに仕込んだことに笑い転げた。こんな毒づき方があるか?こんなことしてるのに世間一般に「いつも笑顔が素敵なシンガーソングライター」という顔で認知され続ける。僕は実家の母が「桜井さんって歳をとっても更けなくてさわやかね」というのを聴いて腹の中で呵々大笑した。最高の中指の立て方だ。これでこの曲に興味を持った人は「WALTZ」「I」とかも聴いてみてほしい。

大衆向けになっていっても毒は残せる

長々と書いたが、僕は今のCreepyNutsが好きだし、応援している。「ポジティブなこと言って日陰者じゃなくなっても変わっていく二人が好きだよ」ではなく、「いやあんたら多分根っこの悲観主義は変わってないだろ?」という気持ちで。べつに悲観主義をやめる必要も、人に期待をしないのをやめる義務もないのだ。背負うものや集める視線が多くなっても気に入らないものに中指を立てる方法はあるのを僕は桜井さんから学んだ。自由を失わず頑張ってほしい。もちろん中指を立てたくなくなったら素知らぬ顔で仕舞えばいい。

押し付けにならない範囲でいちファンとしての願望を言うならば、このままCreepyNutsにはどんどん活躍してお茶の間の人気者として地位を確立していってほしい。

その時もし、「あいつミスチルみたいになったな」とヘイターがやっかんだなら。

僕は笑いを噛み殺しながら、「そうだね、その通り!」と相槌を打つだろう。



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