星の子

「星の子」――わかんない。わかんないけど、お父さんもお母さんも全然風邪ひかないの

ジャンル:ヒューマンドラマ(原作あり)
制作年:2020年
上映時間:110分
配信サービス:Netflix、Hulu、Amazon Prime Video

年が明けてすぐに地元で大きな地震がありました。
自分にできることがあれば行動したいと思う一方で、
「ここは出ていくべき場所だ」と信じて疑わなかった頃のことも思い出されます。
新幹線で帰路につきながら感じた後ろめたさは、なぜか遠くで光っているように感じました。
光が希望とは限らないですね。
というわけで、この映画を紹介します。

冒頭の5分。
未熟児として生まれた主人公・ちひろと家族(父・母・姉)がやわらかな光に包まれています。
でも、時折差し込まれる育児記録の映像から伝わってくる不安が、痛い。
ある夜、ちひろと一緒に泣きだす3人。
ここまで台詞はありません。
はじめて発せられるのは、「水が悪い」という同僚の一言。

水を変えた日から、みるみる体調が落ち着くちひろ。
また光を取り戻したリビング。
これが、両親が新興宗教を信仰するようになった理由です。

この映画は、まず「宗教2世として育った少女の物語」として認知されることが多いと思います。
全く間違ってはいません。
しかし、「自分とは違う人生」という見方だけではとりこぼしてしまう部分がある作品です。

15年後、中学3年生になったちひろはある男性教師に恋をします。
彼との間に起きるあるトラブルと、いくつかの友情と、大切な人との別れ。
成長するにつれて、なぜか傷つくことが増えていき、今まで信じてきたものがわからなくなっていく。
こうした経験をするのは、彼女だけでしょうか。

とあるシーンでは、伯父さん家族から両親のもとを離れて一緒に暮らすことを提案され、彼女は「今のままでいい」と答えます。
「怪しい宗教の2世」という観点で言えば、早くそんな環境からは逃れるべきだと思うかもしれませんが、それは本当に「自分を愛してくれる、そして自分も愛している家族から離れる理由」になるでしょうか。
確かにちひろはまだ、わかっていません。でも、彼女にだけわかっていることもあるのです。

信者たちが集まる合宿に参加したちひろと両親。
夜になり、3人は合宿所を抜け出して星がきれいに見えるという場所へ向かいます。
雪がうっすら積もった林の中で腰を下ろし、両親が見たという流れ星を3人揃って見るために待ちます。
一度、ちひろは「見えた」と言いますが、もしかすると嘘だったかもしれません。
観客には信じていいかわからない。
なぜなら、ラストシーンまで空が映ることはないから。

ちひろ「……見えない」
父「……見えないな」

流れ星が現れないまま、暗転。


全編を通して、色調は浅く、やや暗い。
だからこそ、教室に差し込む木漏れ日や、車のライト、曇り空を反射する海、宗教施設のステージ、そして星が印象に残る。
それぞれの光が持つ意味はちがっていて、ちひろは今そのすべてを受け止めている最中です。

ひとつひとつはそう長くないのですが、ここで触れていないシーンも含めて完成する映画だと思います(当たり前のようで当たり前でない)。
ここぞという派手な演出が施されたシーンがないと宣伝しづらいのかもしれませんが、埋もれてほしくないです。
おそらく想像されているよりもたくさんの俳優さんが登場するので、みなさんの演技もたのしんでください。
ちひろ役の芦田愛菜さんについては言わずもがな……!

ぜひ観てね。
また書きます。

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