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ふたつの重みと思い出すこと

ゴールデンウィーク前半は、実家へ帰省するため、金曜日はリュックに必要なものを詰めて会社へ行き、退勤後はそのまま帰省することにした。

なんとなく昔から、年末よりも、ゴールデンウィークの方が大掃除したい気持ちになる。

元々は、年明けから、家族4人で旅行に行く予定だったが、兄が仕事の都合で来られないことになったので、予約をキャンセル。

そのため、前もって数ヶ月前から、「ゴールデンウィークは実家のお掃除をするから、予定を入れないように」と、両親には数回に渡って伝えてあったが、なんとなく両親には様々な理由をつけて逃げられる気がして、鬱々とした気持ちになる。

別に、実家がどれだけ散らかっていようが、放っておけば良いのだが、今の私が両親にできることはそのくらいだし、物をあげてもさほど喜ばない人たちなので、そういうことで返せるなら、と思う。


金曜日の夜だったが、電車のボックスシートは1人分の歯抜けができるほどには空いていた。

頭の中で掃除のスケジュールを組んでいたら、なんだか座り込みたくなったので、シートの歯抜けに身体を押し込めて、腿のうえにリュックを乗せ、それを抱えた。

座った途端に、上瞼と下瞼の引力が急に強まったので、逆らわずに目を瞑った。瞬間、身体がふわりと軽くなり、意識が遠くなった。

駅に着いて、左隣の人が立ち上がった気配で目が覚めた。入れ替わりで乗ってきた、黒髪に金髪のメッシュを入れた女の子が、私の左隣の空席に、自分の身を放り投げるようにして座った。そして、腕を組み、その腕の隙間に頭を突っ込むのではないかと心配になるくらい首を下げて、眠りについたようだ。

連休前でみんな疲れてるね…と思いながらも、私もリュックを抱きしめて、うつらうつらとする。

右隣の白シャツを羽織った男性は、今までずっとスマホを弄っていたが、膝の間に挟んでいたリュックの中にスマホを放り投げて、腕を組んで眠ったようだった。

しばらくして、左右の2人が、各々ペースで船を漕ぎ始めた。
なんだか嫌な予感がする。
急に意識が冴えてきた。


やはりというか、なんというか、私の肩には隣人の頭が寄りかかっていた。

寄りかかるのは別に不可抗力だし全然構わないが、隣の2人よりも、私の目的の駅が先に来てしまったら、私は一体どうすればいいのだろう。

私が勢いよく立ち上がったら、2人が頭をゴチンとぶつけ合うのではないだろうか。

少しだけ身をよじって、さりげなく2人を起こさないまでも、正しい位置に戻してあげたらいいのだろうか。

わからない。
急に鼓動が速くなる。

まだ答えが見つかっていないのに、目的の駅の1つ前の駅を過ぎてしまった。

はぁ、もう、誰か助けて…と思いながらも、昔誰かに、私の「肩に寄りかかると落ち着く」と言われたのを思い出す。

あれは、誰だっただろう。

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