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聖人ではない主人公ゆえに面白い『ハブられルーン使いの異世界冒険譚』

GCN文庫の新刊『ハブられルーン使いの異世界冒険譚』を読みました。
黄金の黒山羊さんが「小説家になろう」で発表していた作品の文庫化。
実はメロンブックスの特典付きを予約してあるのだけど、月末発売の書籍を同時予約したせいで、それに合わせて遅れて発送されるっぽい。んん~。
仕方ないのでBOOK☆WALKERさんで電子書籍の方を購入。
紙の本と電書なら、2冊あっても気にならないしね。

さて、序盤を読んでいてアレ? と思った。WEB連載版とかなり違いますね。
書籍化にあたって、かなり改稿……というより大幅に書き直しているようなので”「小説家になろう」からの文庫化”という表現は適切でないかも。細かく手が入れられているので、WEB版を読んでいた人も買って損なし(どうせネットで読めるし~、という訳でもない文庫なので)。

▲表紙及び4色カラーの口絵と本文カットは 菊池政治さん
官能的なヒロインのイラストが最高です

 異世界に召喚/転生した現代人が、神様から授かったチート能力で19世紀レベルの文化のヨーロッパみたいな町で無双する…という設定はもう山ほど見ているので、今更新味のある設定は出てこないだろうと思っていたが、本作は”ルーン”が用いられているのが面白いです。ルーンは多くのフィクションに於いて魔術や呪いなどに使われる、超自然の力を秘めた文字と呼ばれ、ファンタジー作品に登場するルーン文字はとくに有名。
 本作の主人公 秋光 司あきみつつかさは、異世界にやってきた時にこのルーンを操る力を付与され、印術をもとにヒロインの松坂美穂乃まつざかみほのと契約を交わす。美穂乃のヘソの下あたりにはルーン文字状の印が刻まれ、これがいわゆる淫紋っぽくて良いですね。

 本の帯にハードエロティック・ファンタジーと謳われているように、割と濃いめの性描写が頻発する。WEB連載版でもR18指定で書かれていたし。この作品が良い所は、異世界転生/召喚モノにありがちな、聖人みたいな性格の主人公でないこと。なぜ異世界モノのライトノベルに登場する男性は、みんな揃って性欲が無さそうで丸い人柄なんですかね。多くの美女に囲まれたハーレム設定でも、裸の美女に迫られると狼狽えて逃げたりする。アレは現実的ではないよなーと常々思っていたので、ちょっと下衆な性格の司くんはリアルな男性像として好感が持てます。プライドなんかも捨ててるから、魔族に罵られならがもこうべを垂れていられる胆力を持つ。

 ヒロインの美穂乃が病気の妹を助けたい一心で、主人公と契約した対価に嫌々抱かれるのだが、この恥辱にまみれながら性交してるシチュエーションがそそる。生殖器各部の固有名詞が何度も出てくる性描写に、著者の熱意が現われてます。各販売店ごとに個別に付けている特典用のSS(短編小説)も、サービスが効いていて流石。しかしあそこまで美穂乃の身体を好き放題に出来る司くんが、彼女の尻だけは犯さないのは何故?(いや、2巻を待たないと何とも言えないが)
 執拗なまでに繰り返される司と美穂乃の性交について著者は「メジャーな作品ほど、主人公とヒロインが結ばれたとしても濡れ場を省きがち」「大人向けと銘打ってる作品でも(中略)エロパートがおざなりになっている作品が多い」とあとがきで語っている。こうしたフラストレーションの発露として書かれた作品だけに、主人公が善人だらけの異世界モノに疲れた人の、心のオアシスみたいに沁みる小説です。続刊にも期待。


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