見出し画像

【小説】四つ星男子のセンセーション!(4)


あらすじ

「お前は、星が見つけた希望の子だ」
腐れ縁四人が、周りの大人たちに言われ続けた言葉だ。
生まれながらに星の加護を受け、魔法を扱うことのできる四人は、国中の憧れである『魔法騎士』のトップで、『四英星』と呼ばれている。

六花の星、コルンバ。
黍嵐の星、アリエス。
陽炎の星、アルフェラッカ。
芽吹の星、レオ。

そんな四人が最期に望んだのは、四人の軌跡を形にすることだった。
しかし、その願い虚しく四人は戦死。
四人は転生し、男子高校生デビューを果たす。
再び集った四つ星は、今度こそ望みを叶えるため、高校生活を謳歌する――!

前回の話

登場人物紹介

獅子倉芽来(ししくら・めぐる)

繊月学園高等部1年生。過去のある出来事がきっかけで人を信用しなくなった。
小さい頃から文芸が好きだが、それを形にしようとは思っていない。
冷静。あまり人を寄せ付けないタイプ。

日辻紅牙(ひつじ・こうが)

繊月学園高等部1年生。重度の厨二病。母を事故で亡くし、父親と2人暮らし。
仲の良い幼なじみがいる。
自分を曲げない、まっすぐな性格。


3話

 入学式が終わり、俺たち新入生はクラスに戻ってきた。
 式の間、ずっとあの男子生徒のことを考えていたが、やっぱり思い出せない。
 誰なのか、どこで会ったのか、どうして彼は俺に声をかけたのか。
 何ひとつ、解らない。

「席に着いてください。ホームルームを始めます」

 顔を上げると、眼鏡を掛けた、若い細身の男性が、黒板の前に立っていた。
 このクラスの担任、目黒めぐろ先生だ。
 先生は、全員が着席したところで、口を開いた。

「改めまして、皆さん。入学おめでとうございます。私は、このクラスの担任、目黒めぐろ鏡也きょうやです。言っておきますが、眼鏡は本体ではありません」

 真面目腐った顔で冗談を言う先生だな、と一瞬思ったが、おそらくあの顔は、冗談を言いたかったのではない。とても切実な顔をしている。
 しかし、そんな風に捉えたのは俺だけだったのか、教室中に笑いが起こった。

「さて、今から皆さんにも、自己紹介をしていただきます。名前と、趣味や好きなものなどを述べ、『よろしく』でお願いします。クラス替えまでの一年を共に過ごす仲間ですから、まずは互いを知るところから始めましょう」

 自己紹介。
 目立つ行為が苦手である俺は、大衆の前で自分について話さなければならない自己紹介が苦手だ。
 ただ、それは同時に、よく聞いておくべきものでもある。
 予防策だ。
 誰が俺にとって関わって損はない人で、誰が俺に害をなす可能性がある人なのか。
 それを理解し、自分に害をなす人を自衛する為の。
 エゴイズムな考えだというのもわかってはいる。
 でも、そうでもしないと、自分自身を護れない。
 必要最低限のエゴだ。

 最前列、出席番号一番から自己紹介が始まる。今のところ、まだ俺のエゴは誰も見放してはいない。
 一人、また一人と、自己紹介を終え席に着く。どんどん順番は回っていき、隣の女子が桃色のツインテールを揺らし、立ち上がる。
「えっと、春日野かすがの華菜かなです。趣味は、手芸です。ぜひ仲良くしてください。よろしくお願いします」
 ペコリ、と頭を下げ、着席。俺の視線に気づいたのか、ほんのり赤づいた唇に笑みを乗せ、軽く会釈をした。俺もそれに応える。

 しばらくして、俺の番がやってきた。
 立ち上がり、名を名乗る。
「……獅子倉ししくら芽來めぐるです。趣味は読書です。よろしく」
 申し訳程度の拍手が起こり、俺は心の中で少しばかり安堵した。普通で特徴のない自己紹介が出来たと思う。後は、残りの生徒の自己紹介を聞くだけだ。

 三列目、四列目、と終わっていき、自己紹介は五列目に突入。
 ……するかと思いきや、先頭の彼は、何故か席を立たなかった。
 その先頭が誰なのか理解した時、思わず「あ」と声が漏れる。
 彼だ。
 彼の名前を聞けば、引っ掛かった何かが取れるかもしれない。
 少しの期待を抱くが、彼はなかなか席を立たなかった。

「……? ええと、ヒツジくん。君の番ですよ」
 ヒツジ、とは、彼の名前だろうか。記憶を辿るが、答えには行きつかなかった。一体、どんな人なのだろう。
 すると彼は、何故かくつくつと笑い始めた。
「フッ、我の方から名を名乗らねばいけないとはな。我も落ちぶれたものよ」

 ……は?
 その一言を聞いたクラスメイト達は、ざわつき始める。それもそうだろう、学校の自己紹介で、映画で聞くような台詞を聞いたのだから。
 ざわめきの中、彼はようやく立ち上がる。

「我の名は、日辻ひつじ紅牙こうがだ。我が友が作るスパゲティを好んでいる。星に手を伸ばす同胞達よ、まずはよろしくと言っておこう」

 一同、唖然。
 おそらく今の一瞬で、このクラス全員が理解したであろう。
 コイツ、本物の厨二病重症患者だ、と。
 しばらく続いた沈黙を、クラスメイトが茶化した。
「……って、いやいや、マジの厨二病かよ! イタいわ!」
 その一言に頷く奴、吹き出す奴、同じく声を上げる奴。
 様々だったが、日辻は首を傾げて、本当に不思議そうに答えた。

「いや、我はキサマらと同じ高校一年生だ。中学二年生ではない」

 一同、再び唖然。
 更に深いため息を吐く。
 ――もう、あの男が誰なのか、なんてどうでもいいかもな。
 あの変人とは、関わりたくない。
 俺のエゴは、日辻紅牙を見放した――いや、拒絶したのだった。

 ***

 入学式の日の夜。

「――もしもし、我だ」
『もっしー、どしたんひっつじー』

 電話の向こうの幼馴染が、いつも通りの調子で答える。
 しかし、今から話さなければならないことは、いつもの調子で話せるないようではない。声を低くし、「一大事だ」と伝える。
『どーしたの』
「レオを見つけた」
『えッ、うっそ、マジでェ⁉』
 大声を上げて喜ぶ彼。その喜びのままで報告が済めばどんなに良かったことか。
「ただ、手放しでは喜べない状況だ」
『え? なんでさ、やっと見つけたんじゃん!』
「……我のことが、解らないようなんだ」

 電話の向こうの騒がしい声が、ピタリと止んだ。一気に空気が凍ったように感じる。
 しばらくして、彼は口を開く。
『確認なんだけど』
「なんだ」
『諦めるつもり、ないっしょ?』
 まさか、そんなわけがない。
 おちゃらけた雰囲気など微塵も感じない彼に、逆に問いかける。
「わざわざ確認する必要があるか?」
『念のためだっての。ま、リーダーには明日報告だんね』
 そうだな、と相槌を打つ。

「我等に欠けた仲間ピース、絶対に取り戻そう」
了解イエッサー

 通話を切った途端、静けさが我を包んだ。
 ――獅子倉芽來。それが、この生での名か。

 四人で、そして今度はこの世界で、センセーションを巻き起こす。
 それが、我の、一番の願い。
 そして、アリエスの、最期の意思だ。

次回予告

謎の厨二病クラスメイトと再び出会った芽来。
入学式の日の夜、芽来はまた不思議な夢を見て――。
次回、第4話は5月11日に更新です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?