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【小説】四つ星男子のセンセーション!(2)

あらすじ

「お前は、星が見つけた希望の子だ」
腐れ縁四人が、周りの大人たちに言われ続けた言葉だ。
生まれながらに星の加護を受け、魔法を扱うことのできる四人は、国中の憧れである『魔法騎士』のトップで、『四英星』と呼ばれている。

六花の星、コルンバ。
黍嵐の星、アリエス。
陽炎の星、アルフェラッカ。
芽吹の星、レオ。

そんな四人が最期に望んだのは、四人の軌跡を形にすることだった。
しかし、その願い虚しく四人は戦死。
四人は転生し、男子高校生デビューを果たす。
再び集った四つ星は、今度こそ望みを叶えるため、高校生活を謳歌する――!

前回の話

登場人物紹介

獅子倉芽來(ししくら・めぐる)

繊月学園高等部1年生。過去でのある経験から人を信用しなくなった。小さい頃から文芸が大好き。
冷静。あまり人を寄せ付けない。

1話

 ――いつからか、同じ夢を繰り返し見るようになった。
 それは、どんなに作り込まれたライトノベルの世界よりも、よりリアリティのある、ファンタジックな異世界の夢。
 異世界と言えど、仲の良い四人の男がただ日々を過ごす、日常をそのまま写したようなもので、お決まりのモンスターと闘う展開なんてほとんどない。
 言うなれば、非日常の日常の夢。

 そして、例のごとく、見慣れた木目調の天井が、開いたこの目に映った瞬間、今日もまたその夢を見たことを思い出す。
 胸の底からまとわりつくように、もやがかかるんだ。
 何か、すっきりしない何かが、居座っているかのように。

 ――この夢は、一体何なのだろう。
 その疑問は、未だ解消されていない。

 気持ちがあまり晴れないまま、ベッドから出て、シンプルな青のカーテンを開ける。今日は雲ひとつない晴天になるらしい。
 昨晩見ていたニュースの天気予報のコーナーで、今日の天気を『絶好の』と表していたのを思い出す。

 俺――獅子倉ししくら芽來めぐるも、春本番の今日、高校の入学式を迎えるうちの一人だ。

 ***

 朝食はしっかりと摂る。脳が働きやすい状態にする為だ。
 ちなみに、俺は断然白米派。パンは過度な脂質や糖分の摂取が増えてしまうし、白米のほうが、腹持ちがいい。

「芽來も今日から高校生か。早いわねえ」
「……そうだな」

 獅子倉家は、両親と俺の三人暮らしだ。
 穏やかな性格の母さんは、しんみりとした表情で俺を見ていた。
 一方、父さんは厳しい性格の人で、いつも家族には無関心。今日も、仕事が忙しく、入学式には参加出来ないらしい。

 俺は、そんな両親をあまり信頼していない。
 今まで育ててもらったことには感謝しているし、ありがたいとも思っている。
 でも、自分の全てを話せる相手では無かった。
 悩みや不安、思っていること。それらを話しても何にもならないことなんて、この十六年間で既に理解わかっている。

「それより芽來。お前もう進路は決まったのか」

 抑揚のない声がそう問いかける。こちらを見ようともしない。母さんは、何も声には出さなかったが、顔をしかめていた。

「……それを見つけるために、入学する」
「はぁ……。ちゃんとした仕事に就いてくれよ。俺に面倒や苦労を掛けないでくれ」

 そこまで言って、ようやく目線を俺に移すが、その目線は鋭い。父さんは、もう一度ため息を吐いて、空になった湯飲みを無言で母さんに差し出した。母さんは、湯飲みをやっぱり無言で受け取って、茶を注ぐ。

 昔からこれっぽっちも変わらない。
 父さんは、家族のことなんて考えず、自分のことばかり考える。
 母さんは、そんな父さんにビクビクしながら日々を過ごしている。
 悩みなんて、話せるわけも無かった。

「ご馳走様。今夜も遅くなるから、夕飯は要らない」
「あ……。わ、わかったわ」

 父さんは、そう言い残して、さっさと自分の部屋に行ってしまった。
 残った母さんは、父さんがそのままにして行った食器を片付け、ため息を吐く。俺は、すっかり冷めてしまった味噌汁を何も言わず口に運んだ。
 美味しいはずのご飯が、なんだか不味く感じる。
 深い、深いため息を吐いた。

 そもそも、俺が両親、特に父さんを信じなくなったのは、小学生の頃のある出来事がきっかけだった。
 両親に認められようと必死だった俺は、ついに作文のコンクールで優秀賞に選ばれた。
 母さんは、それはもう喜んで、ご馳走を用意してくれた。
 俺も、ついに父さんを見返すチャンスが来た、と内心喜んでいた。
 たった一言、「よくやった」と褒めてほしかった。言葉は何でもいい。低く深みのあるその声で、祝いの言葉をかけてくれるのを、賞状を持つ手がかすかに震えるほど期待した。

「よかったな」

 返ってきたのは、そんな素気ない声だった。
 素気ない声と、俺の顔を一瞥した、ただそれだけ。
 それでも喜んだ。我儘を言っては駄目だ、と教えられてきたから。

 その日の夜は、上手に夢に浸ることが出来なかったのだと思う。
 だから、夜中に起きてしまったのだ。
 お手洗いに向かう途中、リビングで両親が何か話していた。

「優秀賞をとったくらいで、豪華な料理を出さなくてもいいだろう」
 父さんの声に、思わず足を止める。幼い俺は、耳をそばだてて、両親の会話を聞いた。そのとき、逃げ出してしまえば良かったのに。
「でも、優秀賞よ? 充分すごいじゃない」
「二番目だぞ? たかが作文コンクールの二位になったって、何もすごくない」

 身体が、動かなかった。
 今になっても、あのときの気持ちを『ショック』なんて言葉では、到底表しきれない。
 絶望した。

 人は、いとも簡単に嘘を吐く。
 俺はもう、安易に人を信じることはしない。
 心は閉ざしておくに限るんだ。

 ふと、あの『非日常の日常の夢』を思い出す。
 俺にも、あの四人のように、信じあえる人がいれば変わったのだろうか。
 そう思うと、心に黒い霧がかかる。
 だから俺は、あの夢が嫌いだ。

次回予告

繊月学園の入学式に臨む芽來。
その先で、とある人物と出会う。
しかし、その出会いは、芽來の心に靄をかけるものだった。
「四つ星男子のセンセーション!」第2話は、この後続けて投稿いたします。

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