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【小説】四つ星男子のセンセーション!(3)

あらすじ

「お前は、星が見つけた希望の子だ」
腐れ縁四人が、周りの大人たちに言われ続けた言葉だ。
生まれながらに星の加護を受け、魔法を扱うことのできる四人は、国中の憧れである『魔法騎士』のトップで、『四英星』と呼ばれている。

六花の星、コルンバ。
黍嵐の星、アリエス。
陽炎の星、アルフェラッカ。
芽吹の星、レオ。

そんな四人が最期に望んだのは、四人の軌跡を形にすることだった。
しかし、その願い虚しく四人は戦死。
四人は転生し、男子高校生デビューを果たす。
再び集った四つ星は、今度こそ望みを叶えるため、高校生活を謳歌する――!

前回の話

登場人物紹介

獅子倉芽來(ししくら・めぐる)

繊月学園高等部1年生。過去のある経験から他人を信用しなくなった。
小さい頃から文芸が大好きだが、形にしようとしたことは無い。
冷静。人をあまり寄せ付けないタイプ。

2話

 白の学生服を羽織った自分を、鏡に映す。この制服は、今日から三年間通うことになる、繊月せんげつ学園高等部の制服だ。
 ボタンを上まで全て留ると、黒髪をくしで軽く梳かし、前髪は左に緩く流す。服についた三日月の模様の入ったボタンが、光にあたり、煌めいた。

「似合っているじゃない」
「別に普通だと思うけど」

 適当な答えを返しただけなのに、母さんは「また照れちゃって」なんてにやけた顔をしている。その表情に思わず顔をしかめた。
 父さんはもう出勤していて、家にはいない。

「繊月学園に受験したい、って言われたときは驚いたわ」
 不意に、母さんが言った。
 高校受験も設置している繊月学園だが、高校から入学する生徒の募集は少ないので、受験しても合格する確率は低く、入学できるかは最早賭けに近い。

「よく頑張ったわね、芽來めぐる
「いや、まだこれからだよ。まだ、やりたいことも決まってないから」

 俺はそれを、誰よりもよくわかっているつもりだ。
 まだ、繊月学園入学の切符を手にしただけに過ぎない。
 俺のこれからの課題は、自分の進む道を決める、ということ。
 まだ、自分一人で生きていける環境を手に入れた訳じゃない。安心はできないのだ。
 しかし、俺の言葉を聞いた母さんは、眉を八の字に曲げた。

「どうしたの?」
「あのね、芽來。もし、父さんの言葉のせいで、夢を諦めているのなら、それは違うわ。父さんのことは私が説得するから。芽來が夢を諦める必要は無いのよ」
「……それは、」

 返答を待つ母さんの顔は、雲がかかったようで、なおさら答えに詰まってしまう。

 夢がなかったわけではない。
 俺は、小さい頃から、本が――いや、本を読むのが好きというよりは『文字』で『表現』する世界が好きだった。
 文芸と出会ったことで、世界が変わった気さえした。
 その趣味を形にしてみたい、と思ったこともある。

 確かに、夢にヒビを入れたのは、現実的な話ばかりする父さんだ。
 しかし、夢を完全に粉砕したのは、父さんではない。
 それに。文芸の世界で成功できる人なんて、ほんの一握りの、才能溢れる人だけだ。
 どうせ叶わない夢を追って、何になる?
 俺は、夢なんてとっくに捨てた。
 自分の意思で、捨てたんだ。

「それは……違う。俺に夢なんてないし、父さんは関係ないよ。それより、早く出発しよう」
「……そう、わかったわ」

 学校指定の鞄を手に、玄関へ向かう。言いようがない後味の悪さに、思わずため息を吐いた。

 ***

 ――繊月学園。
 家のある永山ながやま町よりかなり離れた三月みつき市にある中高一貫校だ。車で移動しても、片道二時間はかかる。
 進学に強く、知り合いが一人もいない。それに、学校の近くには、永山町とは比べ物にならないほど大きな図書館がある。
 これ以上ない好条件が、繊月学園高等部だった。

 程なくして、学校に到着した。車を降り、立派な昇降口へと移動する。人のまばらな早い時間を狙って来たので、人混みを上手く避けられたようだ。
 校舎に入ってすぐのところに、クラス分けが貼り出されていた。

「……あ。あったわ」
 母さんが、指差したのは一年三組の欄。確かに、俺の名前があった。
 まあ、クラスが分かったとしても、名前からピンとくる人なんているわけがない。

「じゃあ、後でね」
「うん、後で」

 受付を済ませ、母さんは会場の体育館に、俺は三組の教室に向かった。
 俺の席は、窓側から二列目の一番奥。
 一番前とかいう目立つ席では無くて安心した。
 窓からは五分咲きの桜がよく見える。満開になる頃は、もっと美しいのだろう。
 植物は好きだ。
 美しい花々は、心を落ち着かせてくれるから。
 すうっと心の中が、静かになっていくのを感じながら、まばらに咲く桜を見ていると、突然肩を叩かれた。

 振り向くと、そこにいたのは、背の低い黒髪の男子生徒。自分と同じように、白い制服を着ていた。長い前髪で、右目を隠していたが、左目は大きく見開かれていた。
 真っすぐな目は、

 ……昔?
 自分の心に、そう問いかける。
 昔、とはいつのことだ。初対面のはずなのに。
 どこかで、会ったことでもあるのだろうか。
 不思議な感覚を感じていると、彼は口を開いた。

、だよな?」

 興奮を抑えたような声。
 しかし、俺は「レオ」なんて名前ではないし、この男子生徒と話した記憶もない。
 ただ、何故だか、その名前が懐かしく感じた。

「……君は?」

 訳の分からないまま、やっと絞り出した言葉に、目の前の彼は更にその目を見開いた。
「わから、ないか?」
「どこかで会った気もするけど……分からない」

 すると彼は、まるで苦虫を嚙み潰したように、苦し気な顔を見せる。
 何かが、俺の中で引っ掛かっていた。
 その答えが出てきそうなのに、何かが邪魔をしている。
 アップテンポの心音が、まるで、更に答えを急かしているようだった。
 彼が何かを言いかけた、その時。
「新入生は入場です、並んでくださーい!」
 先生の号令がかかった。周りの生徒が動き出すのと同じく、彼もその場を動いた。

「……いずれ判るはずだ」

 すれ違いざま、そんな感情を抑えたような呟きを残し、彼は廊下へと向かった。
 小さな取っ掛かりだった何かは、窒息させるほどに、大きいものに変わった気がする。
 言葉にしがたい感情を抱えたまま、俺は廊下の列に並んだ。

次回予告

謎のクラスメイトは一体何者なのか。
それは、自己紹介にて明かされる。
しかし彼、とんでもない変人で……!?
「四つ星男子のセンセーション!」3話は、5月4日投稿予定です。

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