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忘れるわけないじゃないか、なんで忘れるのさ(2023/2/11 ukka 茜空生誕ソロライブ「20 -星雲之志-」)

(※以下の文中、すべて敬称略で失礼します)

二度と来ない 今を生くんだ

ライブ終演。
アンコールを求める手拍子に応えて、茜空がステージに再登場することはなかった。

顔見知りの生誕委員を手伝って、ほぼ光らなくなった使用済みの “赤” “青” 2種類のサイリウムを回収しながら、徐々に人がはけていくフロアをぼんやり眺めた。
「くそー、茜空め!」
急に感情の波が押し寄せてきた。
およそ、推しの生誕ライブのブログを書くのに、似つかわしくない表現を使うならば、ホント悔しくてたまらなかった。

代官山UNITは、地下2階のステージ・フロアから、地上の入口にまで階段が螺旋状に連なっている。
ぐるぐるぐるぐる、
「茜空め!茜空め」
と階段を上がりながら、頭の中を思いが巡る。

ふと目の前を見ると、この2年ほど親しくさせてもらっている北九州の茜空推しが、にやにや顔を差し出してきた。
「くっそー」と彼の頭を軽くはたいた。
わかってるか? だって、あいつ今ごろ絶対に楽屋で「してやったり」な笑顔うかべているんだぜ。

みんなは泣いた?感動した?
そしたら私の作戦勝ちです!

2023/2/12「#20星雲之志」

この日、この生誕ソロライブから遡ること、1週間前。
2月に入って最初の週末、2日続いた対バンライブで、何人かのオタクが、茜空から「来週は泣くと思うよ」というニュアンスの言葉を受け取っていたという。
同じ日、自分は、そんな挑発(?)の言葉は受け取らなかった。
けれど、それでも静かな、そして少しだけ自信に満ちた口調で、
「もしかしたら…来週、茜/空、と名づけた理由が、わかったり…するかも? 楽しみにねん」
なんて言葉を投げかけられた。
ん?なんやねん。いま考えたら、やっぱり挑発やん。

そんな挑発にまんまと乗っかって、『茜(tipToe.)』をひとりで歌う茜空に返り討ちにあったという話は、既に書いた。

正直に言うと、この2曲め『茜』が終わった時点で、
「もう帰ってもいいかなあ」
ほんの一瞬そんなことを思った。
明らかに、今日はいろいろと分が悪い。

それは、今から振り返るとするなら、
「開演から10分経たずして、代官山UNITが、すでに彼女の手のひらの上にあったこと」
と、そして
「今日のステージでは、大事にしまい込んでいる過去の思い出の箱を開けて、ひとつひとつステージに観客を引きずり込まれながら、見せようとしてくれている」
そんな気がしたから、だと思う。

思いのままになるなんて思うなよ〜、
と強がりつつも。

でもさ、
「いまのわたしを見てくれ」
いつもそんな風に言う茜空にとって、”決して甘美なだけではない”過去は、どんな風に刻まれているんだろうか?
帰るのはやめた。
わかったよ、今日はとことんまで挑発に乗っていこうじゃないか。

解けたシューズを 何度も結び

代官山UNITは、ukka改名後としては初めて、桜エビ〜ず時代から考えても、かなり久しぶりの会場とのことだった。

聞くところによると、この会場で何度もワンマンライブを行っていたころ、2016年から2017年あたりは、ライブハウスを埋め尽くすまでの動員はなかなか難しかったという。
「正直わたしたち伸び悩んでいます」ステージ上の茜空から、2017年の春先に、そんな言葉が口に出たこともあったそうだ。
今日と同じステージで「他のグループとは一線を画して、かっこいい路線を目指します、新衣装でおへそも出しちゃうよ」と”脱スタダ宣言”したときには、デビュー2周年が間近に迫っていた。
同時期にデビューした同事務所のグループのいくつかはメジャーデビューを果たし、そのメンバーの何人かは、メディアでもちょこちょこ見かけるようになっていた。

今日この日、芹澤もあ(1部:昼帯)のソロライブ開演前、後ろのバーカウンターまで一杯の客入りを見ながら、当時をリアルに知っているオタクはいろいろと思うところはあったようだ。
あれから6年、そのうち半分の3年間はコロナ禍で活動制限を余儀なくされたことを思うと、ソロライブで「あの頃」よりもステージに目を向ける人の数は、如実に増えてきた。
同時期にデビューした同事務所のグループで、いくつかは、すでに活動終了したところもある。

茜空のソロライブ(2部:夜帯)は、18時開場だった。

『シャープペンシル』 lyrical school
『タッタ』 ゆず
『雲丹と栗』 ずっと真夜中でいいのに。
『Will♡You♡Marry♡Me?』 清竜人25
『明日天気になあれ』 こぶしファクトリー
『Thank you my teens』 YUI

客入れSEに耳を凝らしながら、ステージに目をやると、奥の暗幕は開けられて、ほんの少し白いスクリーンの壁が浮かび上がっている。
スタートは何かしらの映像からなんだろうな、そう予想しながら、今年選ばれた曲の仕掛けに思いを巡らせてみる。
昨年にも増して、茜空から事前にほとんど何の予告も宣言もなかった今年。
企画・演出・出演 : 茜空、去年にも増して全く予想のつかないライブが始まる。

はじまりの日の先は

予想どおり、開演とともに、ステージ正面奥にオープニング映像が流れた。
茜空自身が、ゆっくりと幼少期からの写真を眺めている様子を、少し上めのカメラがとらえている。
写真のほうに徐々にフォーカスが移る。
ゆっくりと、でもよどみなく流れていく時間を過ごしてきたことが、白い背景とともに無言で語られる。

映像がいったん止まり、1曲め『ダイビング(スターダストプロモーション)』のイントロとともに、文字通りステージに飛び出してきた茜空。
赤?紅?色鮮やかな和装の衣装をまとっていた。

今日という日すごく 待ち遠しくて
みんなに会えること 嬉しいよ

『ダイビング』

ももクロもエビ中も、まだまだよるべない存在だった2010年ころに生まれたこの曲。スターダストがグループアイドルを手がけていく、半ばテストケースとして模索しつつ生まれた曲だ。
その後、数多くのグループがカバーした(あるいはさせられた)この曲が、彼女にとって特別だとする文脈は、自分には正直わからない。

ただ、スターダストのかつての多くのグループが、ライブの冒頭に歌ってきた曲の、一連の歌詞そのものが、なにも飾ることのない茜空の、今からステージに飛び出さんとする気持ちそのものだということは、よくわかる。

かつての桜エビ〜ずも、多くのグループのうちの1つだった。
ネットの海に残っている、当時の映像。
箱に押し留めた過去の中で、がむしゃらに「なんでもやってやろう」と、茜空が舞台で側転を披露している様子、それに続いて「やってやるぜ」とも「やってやったぜ」ともつかないニヤッとした顔に、八重歯が白く光っていること、そんな様子は、今でも遡ることができる。

今日、ステージに飛び出してきた茜空は、とびっきりの笑顔だった。そしてそこに野心を秘めた表情は微塵も感じられなかった。
歌いながら、髪留めが外れかけるのをどうにかしようとする表情。これがなんとも絵になるというか、緊張感をゆるめてくれるというか。
「なんでもやってやろう」の気持ちが、演者としてのむき出しの若さだけではなく、もともと兼ね備えていた演出家としての熟練さ、制作陣としての老獪さに結びついたとき。
もしかしたら、茜空は20歳を迎えるとともに、ひとつの自己演出の解を見つけたのかもしれないな。
そんなことを思いながら、ライブの華やかな幕開けをステージ真正面から受け止めた。

そして、直後に『茜(tipToe.)』がやってきた。

巡り会うこと 重ね合うこと

『茜』のアウトロが止まり、最初のMCで、今日ここまで足を運んだファンへの気遣いの言葉と、そして「楽しんでいきましょう」の掛け声がかかった。
茜空のいつもの笑顔が浮かんだ。

3曲め『恋愛ライダー(Buono!)』、4曲め『ヒマワリと星屑(東京女子流)』、5曲め『ワンダーフォーゲル(くるり)』と、2016年から2017年にかけて、かつて桜エビ~ずが、このステージでカバーしてきた曲が続く。

初ワンマンライブでもカバーされた『恋愛ライダー』
今日のステージで披露されたのは、2016年のセカンドワンマン、いまから遡ること7年前だった。

この日の2部。はじめて客席からアンコールをもらったことに、茜空は舞台袖で涙したという。

『ヒマワリと星屑』『ワンダーフォーゲル』は、2017年、前述の「脱スタダ宣言」、桜エビ~ずの方向性を大きく変えることになったワンマンライブで披露されている。

『脱スターダスト』宣言とともに、新衣装は黒+ピンク

今日、茜空がひとりで歌う『ワンダーフォーゲル』は、オリジナルMVを模した、自作映像を後ろに投影した演出だった。
岸田繁とは似ても似つかない、きれいな顔かたちの茜空が、大真面目にメガネをかけてヘッドフォンを付けて、渋谷の歩道橋にたたずむ姿。
それを背景にして、ステージでこれまた大真面目に歌う姿。
これを同時に視界におさめられたこと、この日一番多幸感を味わえた瞬間だったように思う。


「MV見た瞬間、かれこれ8年9年は通っている、あの場所だ!ってなって」村星りじゅに撮影を依頼した動画。時の経過とともに、少し変わっている場所があったことも発見したという茜空は、川瀬あやめ・村星りじゅにも映像に登場してもらって、”いまこの瞬間”を記録に残した。

続きを描くと決めたから

2018年、そして2019年。
地道な活動を通じ、少しずつファンが増えるとともに、代官山UNITでワンマンライブを行うことはなくなった。
2枚目のフルアルバム『octave』が各方面で絶賛され、はじめて1000人クラスのホールでワンマンを成功させたころには、もう活動開始から4年をゆうに超えていた。
グループ名がukkaに変わり、そして、2020年に思わぬ落とし穴が待っていた。

6曲め『カブトムシ(aiko)』は、コロナ禍ですべてがストップした2020年5月、フジテレビCSで放送された「ガチンコスタプラ」という番組で、茜空がカバーした楽曲だった。(※収録は、コロナ禍前と思われる)


画面越し、明らかに緊張した、いや緊張しすぎているようにも見えた茜空の歌声は、当時のポテンシャルの半分も出し切れていないように聞こえた。
でも、そう聞こえたのは、もしかすると行く末が見えない当時の自分の気分ともシンクロしていたのかもしれない。

あれから3年。今日はステージの椅子に座ったまま、静かに歌い始める茜空。

少し背の高い あなたの耳に寄せたおでこ
甘い匂いに 誘われたあたしはかぶとむし
流れ星ながれる 苦しうれし胸の痛み

aiko『カブトムシ』

いまさらって話だけれど、茜空は自分にとって「推し」メンだ。
そこに「なぜ」を挟もうとしても、初期衝動から時間が経った今となっては、言葉ではうまく表しきれない。
代官山UNITに伸びていく高音を聞きながら、その声の行き先を追いかけて思わず天井を見上げた。
ここで「涙がこぼれた」と書くことは、でもたぶん何かが違う。
ステージの方向に向き直った。

強い悲しいこと全部 心に残ってしまうとしたら
それもあなたと過ごしたしるし
そう 幸せに思えるだろう

aiko『カブトムシ』

ふと2列前のとあるオタクが目に入った。
何年も現場に通っていると、どうしたって、”ちょっと苦手な”オタクの1人や2人はできるものだ。
いつもクールに振る舞っている推し被りの”彼”が、人目をはばからずに泣いていた。
そんな姿を見た瞬間、なぜか急に抗いがたい感情の波が押し寄せてきた。真正面にとらえていたはずの茜空が、うすぼんやりと目にうつる。
ここで同じ場所と時間を共有して、そして歌声を通じて、人知れずライブを共感できたこと。
いまさらって話だけれど、茜空は自分にとって「推し」メンだ。

昨年5月、メジャーデビューが発表された直後に、茜空は、ブログでこんな一節を残している。

あとね、最近よく言われるの
「忘れないでね」って

多分メジャーデビューして遠くに行ってしまっても忘れないでねって意味なんだと思う、でも
忘れるわけないじゃないか、なんで忘れるのさ

忘れないでねって言われる方がずっと寂しい

どんなことが待ってるか正直わからないけど大変なことが沢山あると思う
そんな時に今までの思い出を沢山思い出すと思うの、その時にきっとみんなのことだって思い出すと思う
だからそんな簡単に忘れられるはずがないのよ

2022年5月8日 「あなたの隙間に」

『カブトムシ』の最後、大事なメッセージは2回繰り返される。

生涯忘れることはないでしょう
生涯忘れることはないでしょう

aiko『カブトムシ』

7曲めの『しろくま(スピッツ)』は、たまに茜空がブログにも引用していた曲だった。
「高1あたりのころ、つらいことがあったときに、寝る前にずっとリピートで聞いていた。アコースティックギターのゆっくりな音色が心地よい」

ステージをめぐる現在と過去の振り子は、ここで、また大きく年数を遡ることになる。
8曲めに、自分がアイドルを志すきっかけになった『PLAYBACK(私立恵比寿中学)』を用意していた。
2015年5月、NHKホールの2days公演。
人生はじめてのアイドルのライブで、曲調ががらりと変わる中、客席から打ち振られるペンライトの海を見たとき、アイドルとしての茜空は産声をあげたのだという。

9曲め『だけどユメ見る(ロッカジャポニカ)』は2016年11月にリリースされた楽曲。
同時期の同事務所のアイドルとして、かなり早くメジャーデビューしたロッカジャポニカの曲を、等身大の「あのころ」「いま」自分の気持と重ねながら、いまはなきグループと、そのファンへ向けて歌ったという。
あの頃、ソロで歌いたいと公言していた『歌うたいのうた』もいつかまた。
アイドルを、歌い手を続けていく限り、いつだって機会は訪れる。

そんなハッピーエンドで僕と笑って

一度、袖に引っ込んだ茜空に代わり、また映像が正面に映し出される。
インタビュー形式で、これまでを振り返る様子を、少しだけ斜め上に据え付けられた定点カメラがとらえている。
幼少のころの話、スカウトされてスターダストに入った話、アイドルを始めて活動を続けてきたときの思い。
ただただ、話す様子を流しているように見えて、こまめに編集がほどこされている。話す言葉に、写真が大写しで差し込まれる。

VTRの最後に、字幕で「青いペンライトを振ってください」の文字が映し出される。

10曲め『シューティングスター(スマイレージ)』

この空はいつも青い空
手を握り君と歩く
またあしたも絶対 平和じゃなきゃスネるよ
こんな我がままは良いでしょ!

スマイレージ『シューティングスター』

後日の振り返り配信で、
「青い空、そう、わたし。そして、この歌詞。こんなこと言いそうだなあ」と無邪気に笑う茜空。
この曲の直前のVTRで、グループとして活動してきたこれまでの波瀾万丈な経緯だったり、そしてときに謂れのない悪意が向けられたときのことを、語っていた茜空。

その視線にうつる、いまこの風景は、彼女にとってちゃんと平和に満ちているのだろうか?
彼女の些細なわがままを、僕らはちゃんと受け止めきれているのかな。

続いて11曲め『とりあえず走れ!(KAGAJO☆4S)』

決して背伸びなんてしなくていい

KAGAJO☆4S『とりあえず走れ!』

後ろの映像に、写真とともに、歌詞が映し出される。
演出のキッカケ出しに、ちょっとした行き違いがあったのか、音と映像とでは何秒かのラグが生じたまま、歌は続いていく。
そんなトラブルに、少しだけ困ったような表情を浮かべながら、ステージ正面の僕らに向かって、そして関係者席にいた結城りな・葵るりに向かって、そして最後に後ろに顔を向けて、過去の自分に向かって、語りかけていく。

ちょっとした計算違い、トラブルなんて、いつしか慣れっこになっていた。
そのたび、なんとか乗り切ってきた。
続けていれば、なんとかなるさ。
決してトントン拍子に進んでいたわけではない道のりを振り返って、何度もアイドルをやめようと思っていた自分に歌いかけていた。

キミがキミらしくいれたら
いつの日か 夢は叶っていく

KAGAJO☆4S『とりあえず走れ!』

10曲目は、『ray(BUMP OF CHICKEN)』だった。

2018年に、柏木ひなたが生誕ソロライブでカバーしたのを聞いたとき、この曲の存在をより近くに感じられて、「あ、いいな。いつか歌いたいな」と思ったという。
ボイトレの先生と相談して、原曲からキーを6つあげた歌声は、いまの茜空にとってもひとつのチャレンジだった。
そこにいま伝えたい思いをこめて。

お別れしたのはもっと 前の事だったような
悲しい光は封じ込めて 踵すり減らしたんだ

BUMP OF CHICKEN『ray』

2021年3月のあの日から、まだ2年も経っていない。
18歳になったばかりの茜空が、そしてukkaの4人が受け止めなくちゃいけない現実は、心を砕くものだった。
4人になっても進むしかない、と歩き始めたあのとき。

いつまでどこまでなんて 正常か異常かなんて
考える暇も無い程 歩くのは大変だ
楽しい方がずっといいよ ごまかして笑っていくよ
大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない

BUMP OF CHICKEN『ray』

2021年6月、半ば傷だらけになりながら全国をまわってきたZEPPツアーのファイナルで、ステージ上から茜空が言ったのは、
「これからもukkaの、そして水春の応援をよろしくお願いします」
の言葉だった。
このまま4人だけで活動をつづけることはやめて、新メンバーを、ステージに一緒に立つ仲間を探しに行く、そう決めて発表した直後だった。

大丈夫だ この光の始まりには 君がいる

BUMP OF CHICKEN『ray』

今日、代官山UNITのフロアは、大勢のファンで埋め尽くされた。

2023年2月11日「20 -星雲之志-」

エンドロールを一緒に見よう

ライブを締めくくる感想を述べたあと、そしてここまでの過去の宝箱を愛おしそうに振り返ったあと、最後に歌われたのが、『キラキラ(ukka)』だった。
この日唯一のukkaの楽曲で、ライブにピリオド(。)が打たれた。

「『キラキラ』は私の代名詞。これはやらなくちゃって使命感がありました。この曲については何か言葉でつけくわえることはありません。このライブでこの曲を歌うことで、何か伝わっていたらいいなと思います」

袖に引っ込んだ茜空になりかわって、エンディングの映像が流れ始める。
昨年と同様、このライブを支えてくれた全ての人の名前をエンドロールとして流していく。
ダンス・ボイトレの先生、制作・音響・衣装・メイクのスタッフの皆さん、ukkaのメンバー、ファン一人ひとりの名前、最後の方に「代官山UNIT」さん、という表示もあった。

時間は、残酷なまでに、誰にも平等に流れていく。
過去を振り返っているこの瞬間も、未来に向かって時は進んでいく。
いつしか終わりがあるとしたら、20歳になったいまこの瞬間は、どんな風に振り返られるんだろう。

この文章を書いている何日か前、全国各地をまわった、2023年の春ツアーを振り返った個人配信に、コメントで「いまのukkaは空ちゃんの中で何点ですか?」という質問が寄せられた。
この質問に対して、茜空はこんな風に振り返っている。

「ゼロがたくさん」です。
なんていうんだろ、今が最高だけど、100点でおさまっているわけでもないし、100点より下がっているわけでもないし。
今が最高ということはどんどん更新していくはず。
で、その、なんていうのかな、ゼロが2個あったとしたら、次のときにはゼロが3個になるし、また次の次のときにはゼロが10個に増えているかもしれないし。
その終わりのときに、その(たくさん並んだ)ゼロに、1でも2でも9でも何かの数字を足して、自分の中での満点にしたいなって感じ。
だから、まだゼロ以外の数字はいらない、て思ってる。
伝わるかな。

2023年4月15日 スタコミュ配信より

過去のあの瞬間、あの瞬間に連れて行ってくれたライブ。
2月11日、また一つの「0」が積み重なった。
アンコールで茜空がステージに戻ってくることはなかった。
エンドロールの最後に、ライブタイトル「星雲之志」が、青い縁取りとともに正面に映し出された。

赤から青へ。
太陽から月へ。
そんな風に変わりたい、ライブのMCの言葉が、無人のステージを見ながら頭に浮かぶ。

オレンジ色の灯<ユウヒ>を浴びて 「ほら、君も一緒に歩こうよ」って

「月は、たとえ昼時でも、ぽかんと空に浮かんで方向を指し示しているよね」

僕らと同じ視線で、後方からステージを見つめていた、葵るり・結城りなは、いろいろな場面で、オーディションの時や、メンバーとして加わったのち、茜空からはさまざまな面でお世話になった、そして叱咤激励を受けた、と、答えている。
茜空は、そんな彼女たちに、今日のステージから
「どこかしら陰だった私たち4人に、底抜けの明るさ・陽を与えてくれた」
と感謝を伝えていた。
葵るりは、その言葉を聞いて、やっぱり今日も泣いていたという。

帰宅後、予備として使わなかった"赤" "青"2本のサイリウムを眺めた。
普段は、
「私には、ペンライトを振ってくれるのも嬉しいし、ペンライトではなくて、拳をつきあげて応援してくれるのでもいいし、好きな色で好きなスタイルで盛り上がってくれたらいいよ」
と言う茜空が、自身の生誕ライブで染めたかった「色」はひとつではなかった。

道しるべはひとつじゃない。
きっと、このあとの道のりも、ひとつじゃない。

20歳の茜空は、僕らが目を向けるたび、いつもその表情をかえてどこかの方角に浮かんでいる。
全速力でその方角に向かっても、手を伸ばしても、決して、本当に手が届くことはない。
けれど、家に帰るときには、月はいつだってずっと後ろをついてきてくれる。
理由はないんだけど、きっと自分は、なんだかそのあたりまえのようなことが妙に感情を掻き立てられるんだろうな。
そう、さしたる理由はないんだけれど。

12歳のときに、自分を「茜/空」と名付けたこと。
その理由はやっぱり今日も明かされなかった。
でも、もしかしたら、それもさしたる理由はないのかもしれない。

20歳おめでとう。
今年も、素敵なソロライブをありがとうございました。

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