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同人誌は、最低でも1000部売らなければいけない

満足したいなら1部売ればいい。
感想がほしいなら10部売ればいい。
手応えがほしいなら100部売ればいい。
反響がほしければ1000部売ればいい。
好転させたければ10000部売ればいい。

 格言っぽく書いたけれど、どこかでそのように言われているわけではなくて、これまで15年、自分がいくつか本やグッズをつくってきた得た実感だ。

 1部だとしても見知らぬ誰かに「ほしい」と思ってもらえれば、満たされた気持ちになれるし「また何かつくろう」と思える。

 10部ほど売ることができれば、ひとりはTwitter(現X)に一言くらいは書いてくれるだろう。「今日買ったものです」と一覧の中に紛れるだけかもしれないけれど、それだって立派な勲章だ。

 100部ほど売ることができれば、イベント出展費や交通費、印刷費などの原価を引いても、1日バイトした以上金額が手元に残って黒字にできる。継続できる。

 1000部ほど売ることができれば、どこかから取材や問い合わせが来ることもある。何かが起きる予感を感じられる。

 10000部売ることができれば、人生が好転するかもしれない。商業のお誘いがあったり、今まで一方的に見るだけだった人たちから声をかけてもらえたり、何か明確な変化が起こる。

 この数字は10分の1にすれば、Twitterなどでも同じことがいえるかもしれない。1万リツイートで1000部販売相当だ。


ひとり参加の必需品。大福(胃の中で水分を吸収してくれて長時間トイレが我慢できる)。


10部売った経験と100部売れた体験

 生まれて初めて参加した即売会は、文学フリマだった。当時はまだ会場も、大田区の産業プラザPioだった。

 公募新人賞に出して落選した「まっすぐ帰れ」という短編ミステリを自宅のプリンターで製本したものを販売して、20部ほど売れたはずだ。

毎回手持ちで搬入しているが、そろそろ限界を感じている。

 自分が落選した新人賞を翌年受賞し作家になった友人を含む3人で合同誌をつくって出展したときは150部ほど売れた(当時は新人作家だったから気軽に声をかけられたが、今は名実ともに世代のトップになってしまったので連絡すら気後れしてしまう)。同じメンバーで3度参加した。自分の実力ではないけれど、あれは本当に楽しかった。


1000部もしくは10000部相当の何か

 その後、即売会からは少し離れてしまったのだけど、Twitterに公開した「ない本」が話題になったおかげで、念願だった商業出版も果たせた

 取材も何件もうけたし、松本人志さんが休業する前の「ワイドナショー」でも取り上げてもらえた。大好きな「さらば青春の光」の番組に呼んでもらえて、お二人と会話ができたのも、一生ものの思い出だ。

 いくつもの反響を得られたし、出版のための作業で得られた経験は、淀んで滞っていた人生を前に進めてくれた気がした。

猫に作業を邪魔されるのは、むしろうれしい出来事。


再び1000部売るために

 そして最近は、『体験推理小説』という推理ゲームをつくって販売している。

 道尾秀介さんが手がけた「DETECTIVE X CASE FILE #1 御仏の殺人」に感激して、同じように実物のアイテムを調査する推理ゲームがつくれないかと試みたものだ。

ここ最近は仕事の合間に100本以上の鉛筆を削っている。必要なので。

 推理ゲームは、文学フリマとゲームマーケットで販売した。おかげさまで好評で、うれしい感想をもらえることも増えてきた。

 手応えも得られたし、量産するのがとにかく大変なので、ここらで満足して次のことを始めてもいいのだけど、これだけのものをつくれたのだから、まだ何か展開があるはずだと信じて「1000個売ろう」と決めた。

これでも20個くらいしかつくれない。セルフレジなのでひとつずつスキャンする。

 なので現在は、最低でも1000部売らなければいけない、と自分に言い聞かせながら、黙々と紙を折って封筒に入れてのり付けをして、アイテムに仕掛けを施しながらポーチつめる作業を繰り返している。これが本当につらい。あまり根を詰めると身体に変調をきたすようになる。

 頭痛は元からあったのだけど、それに加えて肩こりを超えて何か変な痛みが続くようになる。目もなんかチカチカする。夜に作業をした日はなぜか寝られなくなる。

 第三弾は絶対に手間のかからないものをつくる。第一弾の『化粧ポーチ』で苦労したときも同じことを誓ったのに、結局あれこれ仕掛けを足していって、第一弾以上に量産が大変な『文具ポーチ』が生まれてしまったのだけど、次こそは本当だ。

店員さんにどう思われているか、とかは考えない。


 今のところ、第一弾の『ある化粧ポーチからの推測』が400個、第二弾の『ある文具ポーチからの推測』が200個ほど売れている。

 個人で細々とつくっている割には大健闘だろう。だが、まだ足りない。シリーズ累計ではなく、個々の商品を1000個以上売りたい。そうすれば、どこかに届くかもしれない。「うちでたくさんつくります」と言ってくれる企業が現れるかもしれない。ゲーム制作だけに専念できるかもしれない。もうこの量産作業をやめたい。本当にきつい。たすけてほしい。

 あと一人でイベント参加するのもしんどい。さみしい。パッケージにはDesign:能登崇、Story:篠澤寄夫とクレジットしたけれど、能登も篠澤も自分なので、全部ひとりでやらなきゃいけないのだ。名義がふたつあっても2倍働けるようになるわけではない。


入れるべきアイテムを入れ忘れ全部開封して作り直した。


 物語に登場するアイテムを、実際に手に取りながら謎を解く、という体験を、ぜひもっと多くの人に味わってもらいたい。

 近年人気の「脱出ゲーム」「マダミス」などとは、近いジャンルではあるものの、まったく異なる体験だ。比較的ライトに遊べるので、謎解き好き、ミステリ好きはもちろん、そうでない人も大いに楽しめると思う。

 制作者本人の言葉では、信用できないかもしれないので、ポストしてくれた感想をいくつか抜粋して紹介しよう。映画か健康食品の宣伝みたいだね。

手元にポーチがあることで、なんか一種の生々しさが感じられて、ゾクっとしました
実物を手にしながら推理してくのはやっぱり面白い!
ポーチしかないのに持ち主の体温が感じられるというか、不思議な感覚でおもしろかった
体験推理小説の名は伊達じゃなく没入感が凄かった


文学フリマ東京38

 ということで、最初の1000部のうちの1部を、ぜひ買っていただきたい。

文学フリマ東京38
5月19日(日)12:00~17:00
第二展示場 け-17 膝掛炒飯文庫 で待ってます。売り切れないように、なるべくたくさんつくって持っていきます。


▼通販でも販売中

#文学フリマ #文学フリマ東京38 #創作 #推理ゲーム #ミステリ
※トップ画像は公式サイト https://bunfree.net/ より


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