ブラックホール慕情


宇宙には、無数のブラックホールが存在しています。「無数だなんてそんな大げさな」という意見もあるかもしれません。ですが、現実に即した表現を用いるのであれば「無数」という言葉が適切なのです。観測可能な宇宙には、千億個以上のブラックホールが存在するといわれています。この千億個というのは、まっとうな感覚を保持したままでは、相対することが困難な数字です。数字そのものがブラックホールを内包しているといえるほど、途方もなく大きな数字なのです。

ブラックホールというのは、言うなれば「巨大な星の残滓」です。巨大な星が爆発すると、その跡地にブラックホールが誕生します。建築物を解体すると相応の廃材が出るように、巨大星が爆発すると相応の残骸が出ます。その残骸がブラックホールです。宇宙には、巨大な星が数え切れないほど存在しています。そのため、星の数と同じだけ、ブラックホール予備軍も存在するのです。貝塚がその場所に定住していた人々の存在を物語るように、ブラックホールはその場所に巨大星が存在していたことを物語るのです。

また、ブラックホールは重力が非常に強いので、その周辺では不可思議な現象が起こります。その様々な現象のうち、最も異質なのが「時間の進行速度を変える」というものです。ブラックホールの表面は重力が途轍もなく強力です。なので、その場所ではごくわずかな時間しか経過していなくも、他の場所では膨大な時間が経過している、という奇妙な現象が起こるのです。なんだか「楽しい時間はあっという間に過ぎる」という現象と似ていますね。ただ、ブラックホールには自由自在に出入りすることはできないので要注意です。

ブラックホールと対になる存在として「ホワイトホール」がよく挙げられます。ですが、現時点ではその存在は確認されていません。「ブラックホールの裏側にはホワイトホールが存在する」という言説が有名ですが、今のところそのような観測結果は得られていません。この言説を現実世界のイベントにたとえるならば、ブラックホールがバレンタインデーでホワイトホールがホワイトデーになります。ある人にとっては存在するイベントでも、他の人にとっては存在しないイベントになり得るのです。

もちろん、現時点でホワイトホールを観測できていないからといって「ホワイトホールは存在しない」と断定することはできません。今は観測できなくても、未来においてはその限りではないのです。可能性を探求するという試みこそが人間の真骨頂であるといえます。バレンタインデーにチョコをもらえる可能性が限りなくゼロに近くても「何らかの天体現象によってもしかしたら・・・」と期待を抱いてしまうのと同じですね。






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