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ふり返れ、2020年。 〜日本語ラップ編〜

毎度のことながら、長期休暇で特にやることもないので今年よく聴いた日本語ラップの作品を書き留めておこう。

前回記事を書いた後、まったく知らない方の書いた年間ベストみたいな記事でヒップホップ関係のものにいくつか「スキ」をつけたが、僕の最新の記事だけ見たら「こいつアイドルのことしか書いてないのになぜ俺の記事に賛同を!?」ってなっただろうな。

趣味に貴賎なし。というのが信条だ。こちらに迷惑がかかるものでなければ、とやかく言う権利はない。むしろ他人が「好きなこと」を語っているのを聞くのが好きだ。

音楽についても同じで、自分の好みか否かはあれど、特定のジャンルを否定したり馬鹿にしたりするような行為はしたくない。
日本語ラップとアイドルは特に、というかもう「2大馬鹿にされジャンル」だと思う。そこそこ聴き続けてきたので実感している。

またイントロが長くなりすぎるところだった。『適当強盗 a.k.a 春夏秋冬』じゃないんだから。
順位なし、ABC順で紹介する。

BIM 『NOT BUSY』

神経質であがり症でオコリンボな僕が出来たなら誰でもさ
やってみてはどうだい?

BIMで選ぶならこれまた今年出したフルアルバム『Boston Bag』を挙げるべきなのかもしれないが、こちらのEPがどうしても好きで。

特にMVを貼ったM-5『Be feat. Bose』は僕の中では今年を代表する1曲だ。
Bから始まるラッパー2人が、どういう人間になったのか?これから何者になっていくのか?という「Be」を歌う。

BIMが「Bの文字のキャップ 僕も被ります」と歌うのもリスペクト溢れてて最高だし、BOSEが「同じメンツでまさか何十年後って思うじゃん?って思うじゃん?って思うじゃん?」って歌うのも染みてくる。

日本語ラップ好きの友人と定期的に話し合う、「BOSEとRYO-Zのラップスキルの高さがヒップホップ好きにもそれ以外にもイマイチ浸透していない件」は今年も解決しないままだった。

Dos Monos 『Dos Siki』

Eat or dieが運命のホモサピエンス 始まる4 seasons No reason

1stがぶっ飛んだ名盤だったのでどう出るか?と思ってたら変わらずで安心した。

4曲入りだけど方々のインタビューで「2ndアルバム」と言っていて、なるほどたしかに中身が濃い。1stアルバムよりも聴きにくさが増していて、MC3人とも何言ってんだか理解しがたい。没がuamiと組んで今年出したEPも、殊更に難解だった。

四季に沿った4曲で、各曲の歌詞にもそれらしき単語が散りばめられていて楽しい。春の曲、M-1『The Rite of Spring Monkey』には懐かしの「センテンススプリング」も出てくる。

とはいえ「寒くなってきて、すっかり冬だな〜。『Mammoth vs. Dos Monos』でも聴くかぁ」とは絶対ならない。

Jambo Lacquer & Olive Oil 『OIL LACQUER』

壁は高い高い 降りるためのハシゴならいらない じゃあ今しか
でも力まず I can fly そう言い聞かす

オシャレ日本語ラップ大賞を差し上げます。

Olive Oilは大好きなトラックメイカーの1人だけど、制作ペースが早すぎてついていけないことがある。早すぎるのにクオリティが最高なものしかなくて、どうなってんだと思う。道理が通らんだろう、と思う。

Jambo Lacquerはラップよりも歌の人だ。歌の人、という表現はラップばかり聴いている者が「メロディセンスのある人」を尊敬している表現なので勘弁してほしい。ラップと歌の両刀使い、というよりは歌寄りで、歌詞を詰め込みすぎないおかげでトラックとのバランスがとれていてとても聴きやすい。

「耳の奥 忍び込む」というラインはラッパーならみんな言いたくなるんだろうな。

KennyDoes 『セレブレイション』

急がば回ってる暇なんてない 1速ってのはもう二度と入れることない
坂道発進どころかこれジャンプ台 いっそ全部振り切るHyper Space Drive

KennyDoesは好きなMCなんだけど、ソロ作がリリースされていることに気づいたのは出してから数ヶ月後のことだった。乗り遅れたけど期待通りのクオリティで、僕が勝手に提唱している「ラップアルバム」にも近い。

日本語ラップへのリスペクトも端々に表れていて、その道に詳しい人ほどニヤリとする部分が多いだろう。梅田サイファー全般にほんのり漂うオタク臭が好きだ。

今年だとテークエムもEPを出したし、梅田サイファー近辺は来年も熱が高そうだ。テークエムとかKennyDoesとか、「バトルから距離置き組」の人たちが好み。

KGE THE SHADOWMEN 『ミラーニューロン』

誰かに知らない所でジェラシーばら撒かれたって動じない鋼のマインド
ネガティブキャンペーン開いては優越感に浸る奴らのチンケなプライド

KennyDoesが期待通りのアルバムだったとしたら、この作品は正直期待していなかった分、振り幅でやられた。

M-1『俺のHIPHOP』から思う。KGE THE SHADOWMENのラップ、こんなにカッコ良かったっけ、と。税金をシンプルに痛烈に批判し続けるM-4『No Money No Problem』を聴いて思う。あ、これこれ。と。

M-7『Good Time』ではオートチューン使い&歌うようなフロウが新鮮で、こんなこともできる器用さがあるラッパーなのだと思い知る。

でもやっぱり2020年日本語ラップ最大の問題作、M-6『岩尾』が素晴らしかった。ラップ好きの友人知人に、この曲ヤバイぞと連絡しまくった。
誤変換した歌詞をそのまま提出してしまった、というだけの曲なんだけど、まずそれを曲にするかね。そして10年振りに出したソロアルバムに入れるかね。

こういう曲が出ると、あらためてヒップホップって最高と思う。

Moment Joon 『Passport & Garcon』

それは出国じゃなくて帰国ですねw

韓国出身で大阪在住のラッパー、Moment Joon。今年の日本語ラップのシーンでも最も注目を浴びた一人かもしれない。

アメリカでの人種差別問題ばかりが報道されているけど、もっと自分の足元を見なければならない。Moment Joonが日本で受けた差別や制度への問題提起をラップすることで、多くのヒップホップリスナーが僕と同じ事を考えたのではないかと思う。

文句ある奴は会いに来い、と住所まで晒すところに本気度と怒りと、ごちゃ混ぜの感情がみてとれる。でもMVにもインタビューでの本人の姿勢にも、皮肉混じりのユーモアがある。この表現はヒップホップならでは。
ちなみに本当に文句を言いに来た人がいたらしい。そこまでいくともう、それはそれで一つの思想として箱に入れるしかない。

NORIKIYO 『相模川町』

天使より悪魔の方 それに相談した

これは盤で買って歌詞カードとその裏の登場人物紹介を読まないといけないアルバム。いや、読んでも一聴しただけでは理解しきれないアルバム。でも完全なるコンセプトアルバムというか企画モノのこの路線は好きだ。

1曲ずつ順に漫画付きでMVが上がってるので、それを追いかけていけば理解が深まるかも。NORIKIYOの実体験を元にしたらしいけど、どこまで実体験なのか知るのが怖い。ふかみあり あぶないよ

ZORN 『新小岩』

人生の半分ラップし確信 諦めねぇ奴が最後に勝つ

最初から最後まで韻漬けで、1曲の中にもパンチラインがいくつもある。今に始まったことではないけど。

追いかけ続けている身としてはZORNが順当に評価されて売れていくのが分かり、非常に頼もしいけど、BOSSやKREVAとの共演は予想外だった。大物と共演しても食われないほどのスキルをしっかり身につけていて、そりゃ武道館ライブぐらいできるかぁ、と思ってしまった。武道館って出演者の今までの素行の審査があると聞いたけど、通るもんだな。とも思ってしまった。

アルバムは既発曲多めだけどどれもクオリティが高いので気にならないし、いまだに『Rep feat. MACCHO』のイントロが始まるとワクワクする。

神門 『歳月』 『年月』 『二〇二〇』

それぞれが偶然を通じ「これや」と思える「それ」に出会ったわけで
自分が必死になってる表現こそ最強の表現方法やと思いたいやん

2020年、こんなに神門のラップがたくさん聴けることになるとは思わなかった。3枚まとめて紹介されるの、本人は嫌がるだろうなぁと思いつつ。

この中だと少し肩の力が抜けている『年月』が好みだ。
四六時中歌詞のことを考えていると曲中でも本人が言う通り、家族のこと、曲作りのこと、ラップのこと、その他日常のすべてが曲作りのネタになっている。

人間性が滲み出ているし、関西出身でないと出せない表現もあるし、吐き出す言葉は優しいものが多いが紛れもなくリアルで、オリジナルで、ヒップホップだ。
歳を重ねても不自然にならず続けていくことのできるスタイルなのが良い。
「そんなこと考えてるのか」ということから、「そんなことあるある」まで、感情を色々な方向に揺さぶってくれる作品たち。

環ROY 『Anyways』

俺ら軽快 正体は明快
平和な国の一個小隊

全曲セルフプロデュースの6thアルバム。先行公開されたM-1『Protect You』が良くて、これはクールな曲が並ぶアルバムが出るぞと思っていたらクールでなく不穏なアルバムが出てきた。

環ROYはデビュー時から飄々としていて、今も飄々とし続けていて何を考えているかいまいち分からない。でも書く詞に地頭の良さが出ている。というところがたまらなく好きだ。このキャリアでトラックメイクを始めるというのも、らしいといえばらしいのかも。

前作『なぎ』が重い雰囲気のアルバムで、今作もそっち寄りなんだけどアルバム通して34分という、離脱せずに乗り越えられる長さなところがポイント。歌詞を見ると、子供のことを歌っている曲が多いのかな?
歌詞カードが凝ったデザインになっていたのも密かに評価ポイントだ。

思ったよりたくさん紹介してしまったけど

こちらからは以上です。ここで紹介してないのだとkZm、Normcore Boyz、YELLOW DRAGON BAND、黒衣のアルバムも好きだった。

新人賞はSound's Deliにあげたい。

ライブで観るときは絶対「ペパロニ!」って被せたい。

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