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大学入試のスポーツ推薦制度は問題か?

”mond”の僕のアカウント宛に来た質問文より。

質問文

◀九月の回答(原文ママ)▶

九月と申します。くがつと読みます。入試は一般入試しか受けたことがありません。

ではでは、3つくらいの論点でもって答えます。概ね僕の論調としては「スポーツ推薦で人が入ってきてもよくない?」という考え方です。

  • 大学は勉強する場所なのか?

まずですね、「大学が勉強する場所」という認識自体が、もしかしたらそこまで妥当なものではないかもしれません。

いや、勉強する場所ですよ。わかってますよ。別に僕、狂ったわけじゃありません。大学は勉強する場所です。僕も大学でいっぱい勉強しました。確かに一般的な学生の目線から見れば、大学とは「勉強して入るところ」「入ってからも勉強するところ」と考えるのが妥当でしょう。

しかし、他の側面もあるんじゃないの、という話です。「木を見て森を見ず」になってはいけません。もう少し広く捉えてみてください。

大学というのものを、「個人がライフコースとしてくぐるところ」のみではなく、「この社会をつくる一つのユニット」くらいにも考えてくださいよ。すると、大学には「文化や知識が集積するところ」という側面があることに気付きます。

大学というのは、文化や知識を集積させ、持続させる装置としての役割を持っているわけです。それはもちろん「哲学」「数学」「経済学」「工学」というような学問分野の一つ一つについてもそうですし、野球、アメフトなどのカレッジスポーツについてもそうでしょう。大学がなかったら、ラクロスの日本での競技人口、5人とかでもおかしくない気がしませんか。さすがにもうちょっといるか。

いずれにせよ、ある種の文化って、大学の「学問」以外の機能によって守られてる節があるはずなんです。大学が担わなければ、なくなってしまう/弱体化してしまう文化というのは意外に多い。

そう考えると、大学に「スポーツ推薦」という枠組みが存在することは、「文化の維持」みたいな側面で言えば一定の意義があるんじゃないかと思います。それがスポーツと直結する学部(体育学部、スポーツ科学部など)であっても、スポーツと間接的に関わる学部(経済学部、経営学部など)であっても、バックグラウンドにスポーツを持った人が定期的に入って来ることで、一つの文化を維持する側面がある、といえるかもしれません。

  • 勉強とスポーツって違うの?

二つ目の論点です。現実問題として、勉強に打ち込むことと、スポーツに打ち込むことの両者が、どこまでどれくらい違うかなという話です。

わかっていますよ。勉強とスポーツ、結構違います。そんなことはわかっています。狂ったわけではありません。でも、何かに打ち込むことって、究極的には共通するポイントもあるように思うんです。

大学院生の頃、僕は体育系の単科大学で、一般教養科目の一部を担当していました。一年じゃないな、半期くらいだったと思います。いわゆる「リメディアル教育」などと呼ばれる、高校範囲までの学習内容に関する学び残しをフォローしようという科目でした。学生たちに指導する中で、確かに基礎学力とされるものの抜けを感じました。

しかし同時に、「でも彼ら、俺より泳げるんだよな」「走ったら俺より速いんだよな」などと考えると、必ずしも「学力という観点のみで大学の意義を測ってよいものではないかも?」と考える部分がありました。

僕、彼らより暗算とかめっちゃ速いわけです。結構めっちゃ速いんです。昔そろばん習ってたので。でもでも、それと同様に彼らって泳ぐのが速かったり、球を遠くまで投げられたりできるわけじゃないですか。そのとき、彼らにしか感じ取れない領域の何かを知っていたりするわけじゃないですか。

それはある種、「言語の違い」のようなものだなって思ったんです。必ずしもそこに知としての優劣はない、人間の営む文化としての質的な違いがあるわけじゃない、というか。「知」には、「いわゆる知っぽい感じ」とは異なる在り方で積み上げられたものを許容するくらいのゆとりはあってもいいんじゃない?と思うようになりました。そりゃ、論文としてきっちりしたものを書くってなったら、一定の論文の枠組みの手続きを踏む必要はありますよ。でもそれって、入試のルートとはあんま関係ないよな、みたいな。

  • 大学は勉強する場所だからこそ

あるいは、「大学が勉強する場所である」と考えればこそ、スポーツ推薦入学を擁護した方が豊なんじゃないかな、とも思います。

いや、要するに、そもそも大学は勉強する場所なのだから、勉強して入って来るのか、勉強せずに入って来るのかって、実はどうでもよくないですか?入ってから勉強したらいいじゃないですか。学生に必要なのはポテンシャルであって、完成度じゃないと思うんです。

僕は昔、医学部受験のための予備校で英語の講師をしていたことがあるんです。そこで「ん?」と思う経験をしました。というのも、一部の私立医大では、英語の入試問題で、医学の専門用語に関する知識を出題したりするんですね。かなり違和感がありました。だって、それって、入ってから教えたらいいことじゃないですか。えー、それってアリなの、という驚きがあったんです。

大学って「教育機関」でもあるわけですよね。すると、入試においてはあくまでも「教育を受けるためのポテンシャル」を測るべきだと思うんです。だからこそ、東大にしろ僕の母校・京大にしろ、入試問題が高校範囲を逸脱することはありません。大学に入ってから学ぶべきことは、大学に入ってから学ぶべきこと。それらは板前が金目鯛の小骨を取り除くときのように、試験問題から丁寧に排除されているのです。まあ、それでも金目鯛は小骨多いけど。

それが何、入試問題(それも英語の)で医学の用語を聞いて、なんじゃこいつら、と。あんたら、入学後何教えるつもりなの?って本当にびっくりしたんです。そういう知識にアクセスできるかできないかって、ただの課金じゃん、と。ふつうの高校で教えてないような内容を出して、要するに「たっけえ金」を払って外部で学んだか学んでないかのところで差をつけたいんだ、ふーん、みたいな。端的に言って「あんま思慮を感じねえ問題だな」と思いました。

あくまでも大学は勉強する場所だからこそ、完成度ではなくポテンシャルに開かれているべきだと僕は思うんです。だったら、「勉強以外の方法でポテンシャルを示した学生に対しても門戸が開かれること」ってアリなんじゃないか、って。

机に向かって英文解釈と整数問題の訓練をして入試に受かった僕と、僕と同じような方法で入試に受かった同級生との議論の席に、一人くらいスポーツで入った奴がいたら、そっちの方が議論が多角的に盛り上がることって、結構ありそうじゃないですか。場の空気が変わるというかね。

これはスポーツだけじゃないですよ。芸能人でも推薦で早稲田に行った、慶応に行った、明治に行ったみたいな人がいるじゃないですか。そういう人、別にペーパーテストの学力は大したことない可能性もあるんでしょうけど、そういう人にこそ聞いてみたいこととか、投げかけてみたいテーマってちょっとあるじゃないですか。それこそこのご時世で言うと、某芸能事務所のタレントさんがジェンダー論に関わる学部で学んだら、相当な意義があると思うんです。そういう進路選択をされる方、あと数年で出てくるんじゃないですか。もういるのかも。俺が知らないだけで、もういるのかもな。

そういえば大学時代、某私立大学に通う友人に、スポーツ推薦で入学された方がいました。彼は自分のバックボーンがスポーツであることについて、物凄く自覚的に考えたうえで、学問を学んでいました。彼の問題関心は「スポーツにおけるコーチング理論を、広く学校教育に持ち込めないか」みたいなことだったんですけど、その話が僕には凄く面白かったんですよね。こういう人の存在によってしか進まない社会の変化はあるのだろうな、と思ったんです。京大の同級生からじゃ出ない考え方だろうな、なんて思いながら。

そういう経験もあるので、なんだろうな、一口に「スポーツ推薦だめ!」とは言えない節があります。僕には。

  • まあ、でもさ

まあ、そうはいっても嫌なパターンもありますよ、そりゃあります。いっぱいあります。ここまで述べてきたことは、「まあ理性的に考えたらこうかしら」と意識的に組み立てたことに過ぎません。僕なんてほめられた性格してないんですから、実例を見たらちゃんと「なんじゃこいつ」って思いますよ。

特にほら、「スポーツ推薦の奴としかつるまないスポーツ推薦の奴」、あれ嫌いです。だめだよ。お前なんなんだよ。なんで体育会系なのに内弁慶なんだよ。外に出て行けよ。お前らで群れるなよ。そんなガタイして内気なのかよ。どうなってんだよ。みんなから見てお前らが怖いんだよ。お前らがみんなを怖がるなよ。

で、お前って授業には出ないのに学食には毎日いるよな。どういう意味なんだよ。一応キャンパス内には存在したいのか。あるいは学食の味が好きなのか。なんなんだよその行動。そもそもさ、アスリートとして体鍛えたいなら、たぶん学食のメニューじゃだめだろ。何俺と同じ普通のうどん食べてんだよ。食べるなよ。もっと持参した鶏肉とかブロッコリーとか食べろよ。そういう姿見してくれよ。

なあ、お前ら、一応さ、ちゃんと勉強しとけ。好きなだけスポーツして、いいとこに就職できればいいや、じゃないんだよ。お前、なまじ馬力あるんだよ。ポテンシャルあるんだよ。だからそのぶん、学んでおいた方がいいぜ。でなきゃ今後の人生、ずっといいように使われてるだけになるぞ。

お前気付いてるか?「スポーツだけで、勉強しなくても大学行けた~」とかって思ってるだろ。違えよ、大学の広告塔にされてんだよ。大学名がデカデカと印刷されたユニフォーム着て走るだろ。そのたび大学の株が上がるんだよ。なあ。お前、自分の力でここまで来たと思ってるだろ。違うぜ。大学が利用してんだよ。お前の力を。大学側はお前のことなんとも思ってねえよ。ただ運動神経いいんだな、いっぱい走って稼いでくんねえかな、しか思ってねえよ。大人って、エグいことするんだぜ。

当然、これからの人生もそうだぜ。このままいけばお前、なまじ就活では無双するんだよ。周りも羨ましがるんだよ。すげえすげえってなるんだよ。でも、実はお前の就活ってワンパターンなんだぜ。体育会系の業界の、体育会系の会社の、体育会系の部署に行くんだよ。それしかないんだよ。24時まで働いて、27時まで飲むんだよ。そのあと2~3時間寝て、また出勤するんだよ。毎日その繰り返しなんだよ。

きついんだよ。当然きついんだよ。やっちゃうんだよ。どこを?肝臓。あるいは心。最悪の場合は両方。だめだよ。そんなのだめだよ。身体強いからってだめだよ。お前はただ、今強いってだけだから。このままだと今後未来がそれ一択になっちゃうから。勉強しとけ。マジで。スポーツ推薦で入った奴こそ勉強しとけ。な。


mondにテーマを投げて下さればそのテーマで何か書いてみるかもしれません。僕以外の回答者の方が答えることもままあります。ちょっと硬めのものとか、一般的な話題などがいいかも。お待ちしております。


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