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【イベントレポート】広報・PRはどう変わった?メルカリ、メドレーに学ぶ新しい企業広報 #等身大の企業広報

この数年で、広報やPRの役割は大きく変化しました。インターネットやSNSの普及、また企業コンプライアンスなどの社会的変化がある中で、各社はどんな動きをみせているのでしょうか?

今回の「等身大の企業広報」は、メルカリの矢嶋聡さんとメドレーの今井久美子さんにお越しいただき、これからの時代に広報やPRはなにが求められるのかについてお伺いしました。

肩書きは広報?PR?それとも?

矢嶋 メディアの方とお話しするときは、意識的に「広報」と名乗っていますね。そのほうがわかりやすいので。ただ、社内に対しては、マーケティング的な役割があるという文脈で、「PR」って言うこともあります。そこまで厳密に考えてはないですが、確かに使い分けていますね。

株式会社メルカリPRチーム ディレクター/グループ広報責任者 矢嶋 聡さん

今井 肩書きは「広報室長」なんですが、実は「広報」も「(日本的な)PR」もどちらもしっくりきていません。広報というと発信する活動のイメージが強くなってしまいますが、Public(社会)と組織をRelation(つなぐ)して、相互のコミュニケーションを取ることが私たちの仕事だと思っています。私たちがしている仕事を「広報活動」として認識している人が多いので、「広報」を名乗るのが一番わかりやすいのですが、「パブリックリレーションズ」のほうが、本来なら適切かなと思っています。実際、英語の肩書き表記では「Head of Public Relations」にしています。

徳力 日本だと「PR」もニュアンスが違うんですよね。自己PRとか商品PRのような解釈をされてしまうので。

今井 はい。PRだと広告をイメージする人もいると思うので、実際にやっていることと離れてしまう感じがありますね。でも「広報」だと、「広報広聴」の「広聴」の意味合いが含まれていません。

徳力 今日のテーマは、まさに「パブリックリレーション」についてだと思っています。矢嶋さんもまさしくその文脈でお仕事をされてきた方だと思うんですが、例えば若い人たちに自分たちの仕事の定義はどういうものである、と教えていますか?

矢嶋 教科書的にいえば「ステークホルダーとの関係構築」です。打ち上げ花火のような一過性のものではなく、中長期で続く関係性。その継続的な関係性に、会社としての一貫性があるかをステークホルダーの人たちは見ている。それをコントロールしたり、マネージしていく仕事ですよ、という説明をしています。

今井 この領域の仕事に馴染みがない方たちにオリエンテーションなどをするとき、最初に「PRって何の略か知ってますか?」と聞いています。そうすると「プレスリリース」や広告的な「プロモーション」だと思っている方が多いので、実は違うんですよ、という話から始めています。その上で、先ほどの「Public(社会)と組織をRelation(つなぐ)して、相互のコミュニケーションを取ること」という説明をします。

株式会社メドレー執行役員 広報室長 今井 久美子さん

メルカリ、メドレーのPRチームにおける
「ミッション」とは?

矢嶋 私がメルカリに入社した時に、会社のミッションになぞらえて作ったのが「メルカリの"ファン"を創る」でした。私たちが言いたいことを一方的に言うのではなくて、メディアを媒介にして様々なステークホルダーとコミュニケーションをするのが広報の役割となります。ただ、その先にある最終的な目的、ゴールってなんだっけ?って考えると、それは、私たちをとりまくステークホルダーの方々に、私たちが考えるビジョンや世界観に共感してもらって、最終的に自社のファンや応援団になってもらうことがゴールではないかと考えています。

今井 メドレーは、「医療ヘルスケアの未来をつくる」というミッションを掲げています。ここに資するものをテクノロジーを利用して事業展開し、納得できる医療の実現を目指しています。

事業は大きく二つあります。一つは医療ヘルスケア領域における日本最大級の人材採用システム「ジョブメドレー」と、その周辺事業を運営している人材プラットフォーム事業です。もう一つは日本最大級のオンライン診療システムである「CLINICSオンライン診療」を中核として、患者と医療機関双方にとってテクノロジーの恩恵を受けることのできるサービスを提供している医療プラットフォーム事業です。

ここ数年で「広報」「PR」は何が変わったのか?

矢嶋 やっぱり、マスメディアを介したコミュニケーションだけじゃなく、オウンドメディアやSNSなど、お客様とのタッチポイントが増えてきていますよね。そのコミュニケーションの起点として、広報がどういうコミュニケーションデザインをしていくのかが非常に重要だと思っています。PRって、実は立ち位置が半分、会社の外にあるというか、社内と社外を俯瞰してみられるポジションだと思うんですね。会社が一方的になにかを言うのではなくて、「お客さまやステークホルダーにどう反応してもらいたいか」から逆算してコミュニケーションを設計していく、というのがやるべきことになってくるんじゃないかなと思います。

徳力 なるほど。

矢嶋 あとはパーパス(存在意義)やナラティブ(物語、背景)という言葉が使われるようになりましたが、サービスやその企業がどのように社会課題に向き合っているか、ということがお客様の選択手段の一つになったり、ESG(Environment Social Governance/環境・社会・企業統治)のように、投資家が投資先を選択する材料になったりしています。従って、自分たちが取り組んでいる活動が、どう社会課題の解決に結びついているのかを言語化して発信していくことも重要な役割だと思います。

広告表現にしても、ダイバーシティ&インクルージョンの視点は絶対に必要ですし、イベントの登壇者を考える際も、特定の性別に偏りすぎるなんてことも避けたほうがいい。お客さまに対しても投資家に対しても、一貫性のあるコミュニケーションをしていかなければいけなくて、そのコントロールタワーとしての役割が重要になってくるんじゃないかなと。

徳力 矢嶋さんはコミュニケーションデザインに重きがあるんですよね。今井さんにとっては、変化のポイントはどんなところにありましたか?

モデレーター:noteプロデューサー 徳力基彦さん

今井 少し前まではファクト(事実)を報道資料などで発信して、どういう捉え方をするかはメディア次第、という側面が今より大きかったと思います。でも今はメディアが多様化し、情報が溢れることで受け取り手も多様化しています。そんな中で、受け取り手、つまりパブリックの理解を得るには、自分に関係あること、「自分ごと化」をしてもらい、記憶に残るようにすることが大事だと思います。自分に関係あることだと記憶に残りやすいので、ただファクトを発信するだけではなく、自分ごと化しやすいストーリーとして伝えなければいけない。しかも、その多様化したチャネルごとに合わせて作っていく必要があると思っています。

巣鴨地蔵通り商店街で
メルペイキャンペーンをした理由

矢嶋 基本的に我々の仕事って、まず最初にPRチームとして目指す理想のパーセプションのゴールがあって、会社の動きと世の中の動きを擦り合わせながら、理想と現状のギャップを埋めていく活動だと思っています。

巣鴨地蔵通り商店街のメルペイキャンペーンは2019年の9月に行ったんですが、10月から経産省のキャッシュレスポイント還元事業が始まるところで、世間やメディアの関心が盛り上がってきていたんですよね。IT系から金融系からたくさんの事業者がキャッシュレス決済に参入している中で、後発で参入した我々がいかに認知度を高め、ユニークなポジションを築くべきか。そこで考えたのがこの企画でした。巣鴨地蔵通り商店街のフラッグが全部メルペイになっている、という画としてのミスマッチの面白さがあったり、9月は「敬老の日」ということでシニア向けにメルペイ主導でスマホ決済の使い方教室をしたり。そもそもメルペイはフリマアプリ・メルカリの決済サービスですが、シニアの終活の一貫としてメルカリの利用者が増えているという文脈もあって、私たちがこれを推進する必然性もあるということで、広報主導で企画しました。

世の中の流れはきているのに、会社側の発信ネタやファクトがない場合があって、いま球を打たないと乗り遅れるぞ、という場合は自分たちでゼロから企画してしまうわけです。

メドレーがnoteで情報発信する理由

今井 医療ってほぼすべての人にとって必要になるものですよね。皆さん興味はあるんだけど「難しい」という声もよく聞くんです。最近は医療DX*という言葉もよく聞かれるようになって、注目もされるようになっています。

そこでメドレーのガバメントリレーションズのチームが、医療DXの政府の取り組みや方針などについて解説する記事をnoteで始めました。記事は毎回長いのですが、ビュー数がよくて、やっぱり関心が高い方がたくさんいるんだなと思いました。

*医療デジタルトランスフォーメーション……医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること。

発信したメッセージを受け手に自分ごととして捉えてもらうには?

今井 必ず使ってくれる人を想像してメッセージを作るのは大事なことですね。相手の属性だけでなく、生活スタイルも想像して、その相手に合った言葉遣いや構成を考えると、それだけで自分ごと化してもらえる可能性は高くなると思います。

また、先日読んだ本にも書いてあったんですが、同じことでも物語にして伝えることで、記憶に残る割合がかなり上がるそうなんです。先ほども言いましたが、ストーリー化して伝えていくことはとても大事だと思います。

矢嶋 なにを言うかではなくて、なぜやるかのほうが大事だと思っています。私たちはこういう会社や事業を作りたい、って一方的に言うんじゃなくて、なぜそれを作りたいと思うのか、というコンテキストをちゃんと伝えないといけない。

例えばメルカリが「循環型社会を作りたい」というのであれば、資源が枯渇してきていることや、衣服の廃棄の問題が存在していて、それをメルカリというプラットフォームを通じて減らしたいんです、と伝えると、そこに共感が生まれると思うんです。

5年後、10年後に求められる広報の役割は?

今井 コミュニケーションを通じてどのように課題を解決するのかを考え、実践していく、という役割は変わらないと思っています。企業のフェーズや関わっているステークホルダー、その時のツールのトレンドなどによってHOWの形に変化はあるかもしれませんが、スタートとゴールはこれからも同じだと思います。

矢嶋 今、世の中の流れとして、SDGsやESG、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が重要視されているように、社会との接続なしに企業が永続的に成長することはできません。そこのコミュニケーションデザインを、広報が担ってほしいと思っています。

この仕事のポテンシャルのわりに広報の価値が小さく見られていると感じますし、広報業務に従事している人たちも、本当は自分たちがもっといろんなことができるってことに気づいてない人も多い。旧来型の受け身の広報ではなく、その会社のコミュニケーションデザインのオフィサーとして、ある種「経営の参謀」みたいな役割の人が一人でも増えてくれたらいいなと思います。

今日からできる広報に必要な考え方

今井 簡単にできることでいうと、「書くこと」だと思います。自分の考えがどう世の中と結びつくのか、どのような考え方で行動するのかを文章化する。自分の思考を整理できるし、一人ブレストにもなる、あるいは自分を納得させるためでもいい。あとで見返すと、また違った気持ちで読めて、新しい発見になることもあります。

矢嶋 「なぜこれをやるのか」を言語化するのが大事だと思っています。事業部から「このリリースを出して」と言われた時も、なんでこのサービスを出すのか、社会にとっての意義はなにか、お客さんにとっての価値はなにか、受け手側の視点で言語化する。そうすると、世の中の動きに合わせて発信ができるようになるんです。世の中の人たちが聞きたいと思ったタイミングで聞きたかったことを発信できると、反響を実感できると思います。


このイベントのアーカイブ動画は下記からご覧いただけます。

登壇者プロフィール

矢嶋 聡さん
株式会社メルカリ
PRチーム ディレクター/グループ広報責任者

1978年生まれ、東京都出身。2000年に早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、ネットベンチャーの立ち上げ、留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン入社。2013年4月、LINE株式会社に商号変更を経て、2014年1月にLINE株式会社マーケティングコミュニケーション室室長を務める。2017年8月にLINEを退社し、2017年10月にメルカリ入社。PRグループの責任者としてメルカリの広報活動を牽引する。
mercan.mercari.com

今井 久美子さん
株式会社メドレー
執行役員 広報室長

大学卒業後、グローバル企業、日系企業・代理店において、幅広い事業領域での広報業務に従事。メドレーの前は、アマゾンジャパンでコーポレートPRとコンシューマーPRのチームをリードし、Eコマース事業やAmazonプライムなどのシニアPRマネージャーとして日本でその価値を広めながら、世界有数のテクノロジー企業として社会的責任が増していく中での、米国本社と連携した包括的なパブリック・リレーションズを8年ほど経験。現在は、メドレーで広報室の責任者として、新設された広報室の基本機能と組織構築などの立ち上げから、中長期のコミュニケーション戦略策定に取り組んでいる。
https://note.com/medley/

モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー/ブロガー

ビジネスパーソンや企業の、ブログやソーシャルメディア活用の可能性を日々試行錯誤してます。
https://note.com/tokuriki/

・・・
text by 大熊信

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