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特撮系小説”スーサイドアクト”「歪んだ復讐ダイナソー!」

章前

ベルデとは…異能力者の総称。体から何かを発射する遠隔タイプ、相手の思考を読むテレパスタイプ、そして変身アイテムとの奇妙な合一を可能とするタイプの3種類に大別される。


以下本編



トロオドン、本名は本田竜。彼はスマホで桐緑社の懸賞金リストを確認していた。
神秘を宿した変身アイテムを使い犯罪を起こす者、あるいは意図しない使用方法で暴走してしまった者のリストだ。

足元には血溜まり。そして片腕の吹き飛んだチンピラの死体。
一体何事か。時計の針を数時間戻そう。


インスタント食品のカップが散乱する自宅アパートで、彼の居るちゃぶ台の周りだけが片付いていた。
愛する者を怪物に殺されてからというもの、彼は生活の全てが疎かになっている。
鬱々とした日々を送り、その果てに自らの命を絶ち、図らずもベルデとして蘇ってしまった今も、家事掃除など全くやる気にならない。


暴走した怪物の命を奪ってやること。彼はこれを救済と考えていた。そのこと以外はどうでもいい。倫理も法律も、自分自身のことも。
彼はベルデとなった後、金が得られる方法は全て試した。報酬が出る人助け。強盗。殺人依頼。
そしてかき集めた金で迷わず桐緑社の「変身原器」を購入した。
箱を開けるまで何型かわからない、値50万のブラインド商品。しかし何故だか、その型は本人にピタリと合うと言われている。
本田竜、トロオドンの場合、それは銃型だった。骨の様に真っ白で、少し小さなリボルバーマグナム。片時も離さず腰に隠している。


インスタントヌードルのカップを倒さない様に器用に身を捩りながら寝転がる。懸賞金リストを「暴走」でソートし、一番上に来た案件を受注する。


街中の鏡の中に人が閉じ込められている。 
この原因を突き止め、排除せよ。 
鏡の中の人間を助けると追加ボーナス。


怪物を殺せさえしたら他はどうでもよい彼は、ブルゾンにカーゴパンツで適当に身支度をしアパートを出た。



地道に聞き込みをすること数時間。トロオドンは何かと怪しいという噂を嗅ぎ付け、とある廃工場に辿り着いた。
バリケードの様に入口を塞いでいる錆びた資材を押しのけ、敷地に入ると…。

「何やってんだ~?おっさん!そんだけ塞いであったら立ち入り禁止だろうがよ!ガキでもわかるぜ?」


物音を聞きつけたチンピラが2~3人やって来た。廃工場には大抵犯罪者が幾人か住みついているものだ。彼らの目は全員人を殺めたことのある者特有の目つきだった。
しかしトロオドンは、変身者でもベルデでもない人間の威圧など微塵も恐怖を感じない。それどころか、彼らを自分と同列の生き物とさえ捉えていなかった。人の形をした何かが鳴き声を出している。


「耳が聞こえねえのか?おっさんよ。手話で話そうか?」


構われるのも厄介だ。彼は二の腕に半透明の赤い羽をビッシリと生やし、素早く肘で水平に弧を描く。射出された羽は2メートル先のチンピラの片腕を掠めた。その腕は衝撃で爆散した。


「あ、ああ!」


腕の吹き飛んだチンピラは両膝をついて倒れ込む。じき出血多量で死ぬだろう。他の者は一目散に逃げていく。これで誰も絡んでこない。血の池を踏んで工場奥へと進む。



廃工場の奥、コンベアなどのある開けた区画に着いた。読者諸氏が思い浮かべるような、ごく一般的な廃工場…しかし。鏡が多い。スタンドミラーから姿見まで、あらゆる所に異常なまでに鏡が置いてある。
明らかに営業当時の物ではない。後から、無造作に、それもごく最近置かれたものだ。鏡面に埃が一つもない。大小様々な鏡には、彼以外の顔が映し出されていた。


「助けて…」
「誰か…」
「助けてよ……」


鏡に閉じ込められた会社員、子供、女子高生が縋るように彼に訴えかけていた。そう、怪物によって鏡に閉じ込められた者達である。
トロオドンは二の腕に羽を生やしたまま、警戒しながら進む。すると…。獣の様な咆哮が聞こえた!

数メートル先の姿見の表面に波紋が浮かび、中からターゲットの怪物が姿を現した。
体は鈍色、頭は巨大なパクトとなっている、邪悪な巨躯。その体は2mはあった。

トロオドンは両の眼で怪物を捉え、口を開き死刑宣告をした。


「お前を救いに来た」


言い終わらないうちに、肘を振り羽を射出!怪物の表面に火花を散らしながら刺さるいくつもの羽!しかし怪物は依然として立ったままだ!攻撃を加えてきた者に獰猛な怒りを覚え、さらに吠える!

怪物は出てきた姿見の中に戻っていき、トロオドンのすぐそばの鏡から出現!鏡の中から腕を伸ばし彼を鏡の中に引きずり込もうとする!


「俺に触るな!」


腕に向け羽を飛ばす!
怪物の腕はズタズタになったが、それでも死には至らない!
今度はトロオドンの死角の鏡から出現し、無事な腕で彼の首を鷲掴みにし吊り上げる!

破壊的な握力でトロオドンの首の骨が音を立てて折れる数秒前、彼は震える手で腰から純白の変身原器を取り出し、二の腕に生えた半透明な羽を毟りリボルバーに込めた!
撃鉄が上がり、落ちる。

突如トロオドンの全身は超自然の緑の霧に包まれていく。
その時怪物が掴んでいるのは完全に緑のモヤだった。そして霧が晴れていき…吊り上げられていたものは再び人の形を取り、痛烈なキックを食らわせた!その勢いでバック宙し着地!


怪物の手から離れたトロオドンは最早ブルゾンにカーゴパンツという出で立ちではなかった。
全身は艶めく深緑のアーマースーツに覆われ、胸・腕・脚・指にはアクセントとなるレモンイエローの硬質なプレートが生成され、二の腕には誰の目にもわかる華美な羽が生えていた!
頭はヘルメットのように硬く、肉食恐竜の尖った牙の意匠が施されている!
彼は自分と同じカラーリングに変化したマグナムを強く握る。それは色が変わる前と比べ1.5倍は巨大化していた!


怪物は自分の手から離れた獲物に激昂し、手近な鏡へ突進する!トロオドンの背後から出現!彼はノールックで背後へ発砲!怪物の胴にヒットし火花が散る!

怪物の勢いは減速した。トロオドンは両腕を水平に上げ、その場で舞うように回転!華美な羽が四方八方へ飛び、廃工場中の鏡を粉砕破壊!これで怪物のトリックプレイは封じられた!

地の利を失ったことを本能的に感知した怪物は、さらに雄叫びを上げる!トロオドンがマグナムの弾倉を回転させると、力が溜まっていくことを示す電子音が鳴る。
3回回転させ、腰を落とし銃口を真っ直ぐに怪物へと向ける!引き金が引かれた!


『ジュラシックショット!』


マグナムから発せられた電子音声が廃工場内に響き渡る!
発射された光弾は恐竜の鋭い顎へと見た目を変え怪物を挟み込む!
怪物の中を辛うじて循環していた超自然の力は行き場を失い、直後爆炎に変わり爆ぜた。

割れた鏡の破片が爆風で到来したのをやり過ごしてから、トロオドンは変身を解いた。
純白で小ぶりな銃に戻った変身原器を腰に戻し、爆発の中心地に歩み寄る。
そこに落ちている壊れかけのパクト型変身原器を踏みつぶして、桐緑社の懸賞金アプリを開く。

パクトと合一した人間の排除を確認。
報酬金額は指定の口座に振り込み済み。
鏡に閉じ込められた人間の救出は確認できず。
追加報酬は無し。
以上


鏡に閉じ込められていた会社員、子供、女子高校生などは恐らく消えたままだろう。
だがトロオドンにとっては変身原器と融合し理性が無くなった存在を葬ることそれだけが重要だった。葬れば葬るほど怪物によって親しい人を失う自分の様な者が減る。怪物達への復讐にもなる。

立ち回り次第では鏡の中にいた人間を救うこともできたかもしれないが、それは彼の知ったことではない。そこまで器用ではないし、そこまでする必要性もない。

トロオドンは変身原器を扱うだけで、聖人君子のヒーローではないのだから。



次回予告!
いつも通り怪物を倒していた本田竜、トロオドンが家に帰ると見知らぬピンク髪ツインテールのサイコ女が出迎えた!

「ご飯にする?お風呂にする?それとも、ア・タ・シ?」

一体彼女は何者なんだ!?街に出没する車の怪物との関係は!?
第8話”パイナップルと時期尚早”、来週も見てくれよな!



雰囲気のおまけ



敵ステータス(6ポイントスクラッチ)
キャラ名:カガミ
筋力:2+4    体力:2+4

知力:2-1    精神力:2-1

器用さ:2-1    命中:2

異能力:0(一般人)

桐緑社のおもちゃによって孫が暴走してしまい、懸賞金リストに載せられ殺された事を恨んでいる一般人。孫が暴走した時と同じパクト型の変身原器と合一し、暴れた。


主人公(6ポイントスクラッチ)
キャラ名:トロオドン(本田竜)
筋力:1    体力:1

知力:1    精神力:1

器用さ:2    命中:3+4

異能力:1
(遠隔系のベルデ)
鬱々とした毎日を送り、自殺をしたはずだがベルデとして蘇った。
腕から生える半透明な羽を射出する、遠隔タイプのベルデ。
強盗や人助けを繰り返すことで金を集め、変身アイテムを手に入れた。
全ては暴走した者に死という救済をもたらすため。



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