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僕は男前の魚

数日前から、新しくバイトを増やした。

面接した次の日には、気づいたら、働いていた。

これまでは、プールの監視員と配達をこなしていたのだが、新しくオシャレな小料理屋で接客をすることにした。

今までの人生で、お酒を出すお店での接客をしたことがなかったので、やったことのないことを、新しくやってみることにした。

僕は普段、ほとんどお酒をのまないので、お酒に関する知識がない。

バイト初日では、ワインクーラーなるものの存在を知らず、冷蔵庫から出された筒状のそれをズボンのようにワインに履かせようとして、お客様から「違う!被せるのよ!」と教えてもらったりした。

白ワインは冷やすなんてのも、よく知らなかった。

おととい、2回目のバイトがあった。

普段、ランチの時間によくいらっしゃるという女性のお客様が来店した。

店に入ると、カウンターの中に、見慣れない僕がいるので、オーナーが「新しく入ったカネコくん、芸人やってる」なんて軽く紹介してくれた。

その女性は、ぼくのことをまじまじと見つめて、一言、「男前じゃない〜!」と褒めてくれた。オーナーにも「男前よね?」なんて確認をとっている。

僕は、これまでの人生で「男前」だなんて言われたことがないので、手を動かしながらも「初めて言われましたよ!!」なんて元気良く返した。

すると女性は「うん。男前!よかったわね。マスター、良さそうな人が入ってきて。」と、僕のことを気に入ってくれたようだった。

僕も「ありがとうございます!よろしくおねがいします!」と明るく返すと、

「うん。元気だし。かねこ、魚に似てる!活きの良い魚だ!」と続けてきた。

「魚、、、?」と僕が返すと、

「うん!魚みたいで男前!!あたし魚みたいな男好きよ!」と屈託のない笑顔で、そう、おっしゃった。

僕はまた「初めて言われましたよー!」と笑顔で、元気よく返した。

「魚」というワードを聞くと、この間のキングオブコントで、サルゴリラさんが「魚」というワードを軸にしたネタを披露し、見事、優勝した。

なので、一瞬、僕が芸人だから、「魚」という言葉をつかって、試してきてるのかと思った。

「もしや、このお客さん、お笑い好きなのか?」と思って、顔色を伺ったのだが、どうも、そんな感じではない。

真芯に僕を捉えて「魚に似ている」と言っているのだ。

しかも、最上級の褒め言葉として。

女性は「うん。活きのいい魚みたいで男前だ!兼子!」と何度も何度も褒めてくれた。

そこからは、他のお客様も来店し、忙しなく終業まで、働いた。

そして、数日経って、今日、あの日のことを思い出すと笑えてきた。

よく考えると「活きのいい魚」って、もうすでに死んでるじゃないか。

元気じゃないだろ。死んだ魚なんだから。

「活きのいい魚みたいなやつ入ってきた!」って、「死んでるやつの中ではまだ元気そうなやつが入ってきた!」っていう意味になるじゃないか。

どっちみち、死体なんだから、元気なわけないだろ。

改めて、「活きのいい魚みたい!」っていうセリフ、すっごい面白いなーと思った。センスの塊じゃないか。

芸人のボケでも、コントのセリフでも通用するようなセリフだなと思った。

あの場で、僕が「活きのいい魚ってそれ、死んでるじゃないですか!」「全然元気じゃないでしょ!」「ちょっと!せめて、マグロとか、止まると死んじゃう魚に例えてください。」とかちゃんとつっこめてたら、ちゃんと、プロだったなぁ。

これからも楽しいことが起きそうな予感を胸に働きたい。

また書きます。

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