見出し画像

14.じい、じい。ぼく助かるよね!ぼくを助けてくれるよね!ねえ、じいじい…

「蘇った人」

先日、私の母に電話が入りました。
「市役所のものですがお尋ねしたいことがあります・・」
「はい・・」
「あなたの住まいの事で確認したいことがあります。住所は○○○で良いですね?お名前は○○さんでよろしいですね・・」
「はい・・」
「現在、年金はおいくらですか?」
「え・・」
母は一瞬、変だなと思ったようです。市役所からの確認ならば、年金の額など知っていて当たり前だと思ったからでした。一瞬、今流行の「オレオレ詐欺ではないか?」と疑いました。
「・・あの・・詳しいことは長男に聞いてもらえませんか・・」
「いいですよ。では市役所の番号と名前を言いますね、私の名は〈佐藤〉といいます。長男さんからお電話をください、お待ちしております」
後日、母から連絡があり、私もおかしいとは思っていたのですが、市役所の佐藤さんに連絡したのです。電話番号は間違いなく、佐藤さんという方も実在していましたが、三人いました。市役所も忙しいのか折り返し連絡しますという返答で待つことになりました。
その翌日、また母に市役所から電話が入りました。
「お母さん、長男さんから電話を頂いたのですが、私が不在のため対応できず、大変申し訳ありませんでした・・。そこで改めて年金の金額を教えてほしい・・」
母は安心して、話してしまいました。
のちに、これらはすべて嘘だったと判明します・・。
かなりの知能犯的で、市役所の実際の電話番号と実際の人物名〈佐藤さん〉が存在していたため、信じる以外なかったのです。この事を市役所に連絡したら、そのような問い合わせが多数あるようですが、市役所としては年金額を聞くことはありえないという回答でした。そのような話を私の先輩に話しをしましたら、違うケースですが、その先輩にも連絡があったそうです。

それは・・・
長年銀行に勤め、現在は退職中の先輩のところに突然、電話が入りました。

「もしもし、もしもし。お爺さんですか?私はお孫さんの会社の上司なのですが、お孫さんがお客様から預かった現金を紛失しまして困っています。もちろん、お孫さんだけの責任ではなく、会社として私にも責任があります。困っています・・。あ、お孫さんがどうしてもお話したいというので、電話を代わりますね」
「じい、じい。僕です、ごめんなさい。大切なお金をなくしてしまった・・。じい、じい。助けて・・・」
「いくら必要なんだ・・」
「1000万円なんだ・・」
「そ、そんな大金・・」
「じい、じい。全額じゃあないんだ。会社がどうしても困っていてそのお金がないと倒産してしまう・・(泣きじゃくる)。すべては僕の責任なのだけれど、会社では僕に責任を負わせる気はないんだ。でもね、僕のせいでこんなことになってしまい困っている。1000万円の内、あと400万が不足なんだ・・。僕に貸してほしい・・」

じい、じいと呼ばれるその先輩は、長年銀行に勤めていたため、会社のお金を1000万円も紛失すれば、その会社が危ないことは理解できていました。
何よりも、今流行の「オレオレ詐欺」だと見破っていました。
その理由は、孫は昨年、病気でこの世を去っていたからでした・・。

「・・どうでしょうか・・。私どもはお孫さんに責任を負わせる気はありません。お孫さんが責任を感じて、大好きな祖父にお願いするというのです。私どもも不本意ながら、一時的にお貸し下されば我が社としても助かります・・」
「・・・」
先輩はこの時、不思議な気持ちになりました。それは、その電話の声が死んだ孫の声にそっくりだったからです。さらに、生前孫は自分の事を「じい、じい」と呼んでいたから、死んだ孫がいつものように語りかけ、そこにいるような気がしました。
「もう一度、孫に代わっててらえますか・・」
「はい・・」
「じい、じい。ありがとう・・。僕を助けてくれるんだね・・」
この時、先輩は孫の最期を想い出しました。
ベッドに横たわる孫は笑顔で、
「じい、じい。僕助かるよね・・。じい、じい。僕を助けてくれるよね・・」と言っていました。医者からも見放され、痛み止めだけの癌治療でした。

先輩は涙を抑えて「うん・・、うん」と頷く事しかできませんでした・・。
自分の残された生命のすべてを孫に捧げても惜しくはありませんでした。息子と嫁の悲しみさえも救うことができない・・無力を感じました。

オレオレ詐欺だとわかっていましたが、孫とあまりにもそっくりなその電話の声に、しばらく聞き入っていました・・。
「ねえ、じい、じい。聞こえているの・・」
先輩は孫を語るその若者に真実を話すことにしました。

「ありがとう、電話をくれて。じい、じいはとても嬉しい。涙が止まらないよ・・。だけどね、私の孫は昨年死んだんだよ・・」
相手は押し黙ってしまいました・・。

「ありがとう・・電話を切らないでくれ。あなたは私の孫の声にそっくりだよ・・。ありがとう、逢いたかった、声をもう一度聞きたかった・・。私はきみを助けたかった。私の残りの人生のすべてをあげてもいいと思った。何よりも、きみを愛していた。一言、ありがとうと言いたかった・・。この世に生まれてきてくれて、色々なものを与えてくれて。何よりも、年老いた私に生きる希望をくれた。そのきみを救えなくて、本当にすまない・・。400万円なら渡せるよ、いつでもおいで。その代わり、もうこんな事はやめなさいよ・・」

長い、長い沈黙が続きました。電話の先には息遣いが感じられます。

しばらくして、一言を残して電話は切れました・・。

「じい、じい・・ごめんなさい・・ありがとう」

電話の孫も泣いていたそうです。

これは実話です。

coucouです。ごきげんよう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?