余裕がない男。

少し前だろうか。

二年前に別れた元恋人から
突然連絡がきた。

こちら側は連絡先をすべて削除していたのだが
相手は私の電話番号をまだ登録していたようで

「元気？」

とだけ、ショートメッセージのポップアップが表示された。

LINEや外部アプリでメッセージが手軽にできる時代
ショートメッセージで連絡が来ること自体特別な関係だった人だろうと
直感がそう叫んでいた。

「すみませんが、どちら様ですか？」

仰々しく返事をしてみた。

「○○だけど、覚えてる？」

元恋人、予想は見事的中した。

 
10個下の彼とは1年弱ほど付き合って別れた。
「別れた」ではなく「離れた」が正しい表現かもしれない。

彼とは最初の数ヶ月を除いて
とにかく気持ちが寄り添うことがなかった。
お互い強烈に惹かれ合ってはいるのに
何故か心の距離が縮まらない。

何を言っても響かず寄り添えず
結果、音信不通のまま距離を置いた。

交際中は急な癇癪を起こされたり、厳しい言葉も投げかけられ
私は心身ともに弱り切ってしまったし、睡眠障害にも陥った。

 
それがちょうど２年前。

「あの時はごめんね」

 

彼から素直な謝罪を聞けるのに2年かかった。

程なくして彼から「また会える？」という
懇願と伺いのメッセージが入った。

普通なら応じない人もいるだろうし
もちろん、連絡を無視することも出来たと思う。

現に私も連絡先はすべて削除していた。

ただ、自分の中で

彼があの時どういう気持ちだったのか？
なぜ謝罪する気持ちになったのか？

その答えが知りたい、という気持ちが沸き起こったのは
間違いなかったと思う。

それに、愛した人間を私は心底嫌いになれなかった。

後日、その疑問を確かめるためにも
彼に会うことにした。

緊張したかと聞かれたら、NOだったと思う。

久々に会った元恋人は
サラサラだったセンターパートを卒業し、短髪に変わっていた。
心なしか穏やかさも感じられる。

見た目の変化は勿論だが、何より驚いたのは、
私が問う前に彼から当時の事が語られたことだった。

交際時、彼は転職したばかりで自分に余裕がなかったそうだ。
そんな状態で恋人ができ、さらに年上の女性となれば
自分でも知らず知らずのうちに、プレッシャーをかけていたのだと思う。

さらに別れた後も仕事が上手くいかない時期が続き
今年の春以降になって
ようやく落ち着いて今の仕事を取り組めるようになったという。

そう。

彼には全く「余裕」がなかったのだ。

 
私から見て、いつも彼は飄々としていたのだが
そうは言っても私と経験値は10年も違う。

恋愛においても、
私が過去の恋人とタイプが異なる女性だったようで
当時の自分では対応しきれなかったのだそう。

だけどそこは男として格好良くいたかった。

要約するとこんな感じだ。

彼と話をして改めて感じたことだが、
男性にとって「余裕がある」ということは、
とにかく精神的安定に繋がる。

これはどんなタイプの男性でも同じだと思う。
少なくとも私の恋愛経験では、不変的事実である。

女性より上昇志向や仕事への比重が大きい男性にとって
何より仕事と収入の安定は、精神の安定とも比例している。

元恋人の弁解を聞きつつ、私はその事実をはっきりと理解できた。

 

巷に溢れる恋愛コラムや関連記事では、

「余裕がある男性は素敵だ」
「余裕がある男性はモテる」

というワードをよく見かけるが、強ち間違いではないと思っている。

ただ、これをより深くひも解くと

第①段階：仕事が安定、もしくは順調
第②段階：収入や生活も安定、心にゆとりができる
第③段階：恋人が欲しい（シングルの場合）・彼女を幸せにしたい（カップルの場合）
最終段階：男として頼りにされる、モテる

こういう構図になっていると私は解釈している。

つまり逆を言えば、

余裕がない男性は、恋愛はおろかプライベートを投げ出しがちになり
酷い場合は余裕でメンヘラを起こす、ということだ。

私は、語り続ける彼に直球で聞いてみた。
“なぜ今になって連絡してきたのか”と。

 

「今なら色々してあげられるかなって。」

 

彼と今後どうこうなりたいなどと、全く考えてはいない。

なぜなら、一旦終わった恋は延長ではなく別物だからだ。

ただ、特にも恋愛において

男性側の余裕と心の安定は、女性の情緒より重要である

このことを教えてくれた彼には感謝したい。

LEON