とうめいちゃんのおはなし

とうめいちゃんはいつか、
自分の色が欲しいと思っていました


ほかのみんなには
うまれつき持っている色がありましたから

とうめいだとだれも、とうめいちゃんが
そこにいることに気づかないのです

とうめいちゃんは、
みんなに はっきりとは見えません。
いろんなひとが そうとは気づかずに

とうめいちゃんにぶつかり、ふんづけ、
ひっかかり あなをあけたり してしまいました

すこしずつ、
とうめいちゃんに傷が増えました
でも、とうめいだから
どのくらいきずがついているのか、
じぶんにもみえません

ただ、いたみだけがふえました

ほかのみんなが、うまれつきもっている色は
とても輝いて見えました

じぶんにも、色がついていたらいいのにな と
とうめいちゃんはいつもおもっていました

だから、とうめいちゃんは
きれいな色のものをたくさん集めて、
いろんな色をじぶんにつけるのがすきでした

絵の具で塗ってみたり
布をまいてみたり
お化粧の粉をつけてみたり
いろんなことをしました

でも、しばらくするとどの色も消えたり
とれてしまって
自分のものにはなりませんでした

たくさんの色に囲まれ、
まんなかにいる自分だけがとうめいでした

とうめいちゃんは、だんだんと
色を持てないじぶんがかなしくなって、
あつめたきれいな色を
泣きながらぜんぶ捨ててしまいました


それからというものの、とうめいちゃんは
できるだけ夜にでかけました ひるは、
なるべく、色の見えないところを
選んであるくようにしました

色を見ると、うらやましくなって、
悲しくなってしまうからでした
きれいな色だなとおもうと、
とうめいちゃんのからだにたくさんついた傷が
ひとりでに痛むのです

きれいな色におびえながら、あこがれながら、
できるだけ見ないようにして、
なんとか おだやかにくらしました

それからしばらくしたあるよるのこと、
とうめいちゃんはいつもの散歩の途中、

今まで見たこともない色の人に会いました

その人は
とうめいちゃんを見て、
こう、言いました


「こんばんは、あなたはめずらしい色をしてますね」


とうめいちゃんは、じぶんのことがはっきり見える人にはじめて会って、とてもおどろきました

その人は 自分の色が
何色か思い出せないから、
自分が嫌いだと言いました


名前だって覚えていないのさ

きみはとうめいちゃん

名前がわかっているだけずいぶんましさ


そのひとはいつも同じ場所にいました
とうめいちゃんは帰り道に立ち寄って
お話をするのが日課になりました

そのひとがいろんな気持ちになると
いろんな色になりました
悲しかったり うれしかったり
怒ったり もやもやしたり
そのあいだ、そのぜんぶだったりしました

ずっと見ていても、飽きませんでした

どの色も 今まで見た色の中で
一番きれいだな と

とうめいちゃんは思っていました
そして、きれいだなと思っても、
とうめいちゃんの傷は痛みませんでした
とても ふしぎでした


ある日 そのひとは言いました
「なぜとうめいちゃんはいつもここにきて、
わたしとはなしをするんですか」

とうめいちゃんはゆうきをだして言いました


あなたは空の色を
ぜんぶ持っているような色をしています
あなたの色は とてもきれいです
あなたの色をみるのが 私は大好きです

そして 抱きしめてあげました

さわると、
たくさんのきずがあるのがわかりました
きれいな色の人がもっていた
いままでのさびしさや悲しさが
ゆっくりと、すこしずつ、わかりました

わかっていくにつれて、きずは
ひとりでにふさいでいきました

少しのあいだ 
とうめいちゃんと
きれいな色の人は
だまっていました


きれいな色の人は静かに言いました

そうです 私は空の色でした

私は もう いかなくちゃいけません


きれいな色の人はそう言うと、
見えない階段を 
一段ずつのぼりはじめました

とうめいちゃんは、同じ階段を
登ろうとしましたが 
ひっかかるところはどこにもありません

その階段は
とうめいちゃんよりもとうめいだったのです


きれいな色の人は、ふり返らず、
一歩ずつゆっくりと、
でも、ぐんぐんとおくなっていきます

とうめいちゃんは
見ていることしかできませんでした

きれいな色の人は、とても小さくなって、しまいには
空に溶けて とうとう
見えなくなってしまいました

それから、いくら探しても
もう どこにもいませんでした


名前を呼びたかったのに
なんと呼んだらいいのか

わかりませんでした


とうめいちゃんは寂しくなって、泣きました
生まれてきてから、いちばん

寂しいとおもいました



たくさんないたあと、ふと 

空の光が とうめいちゃんの体を通りぬけ、
虹のようになって
地面でひかっているのに気づきました

そのときはじめて、
とうめいちゃんは じぶんがとうめいで
よかったのだとわかりました

そして、

傷がついたことも、ふさいだことも、
ぜんぶ いいことだったんだ と おもいました



それからというもの
とうめいちゃんはまいにち
空の色を体に映しました

空はいつもきれいな色で

とうめいちゃんの体に映って

静かに通り抜けていきます

はれのひ あめのひ くもりのひ

ゆうやけ ほしぞら あさやけ 

きりのはれま 

ぜんぶがぜんぶ きれいでした


とうめいちゃんは きれいな光を見つけたら
自分の体に通した虹を 色々な人に見せてあげました
光は一つ一つ違う虹になって
見ている人を楽しませました
とうめいちゃんはもう
ひとりではありませんでした


こんなにまいにち空がきれいなのに、
理由をいくら探しても見つかりません

そのかわり、誰かとたくさん話した記憶がぼんやりと思い出されました

そんな時、とうめいちゃんは とてもしあわせでした


自分がとうめいだから、


とてもしあわせでした







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