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【創作大賞2024】オカルト学園の怪談 3話

3話「儀式」

夜10時ごろ。摩耶は倉田と一緒に学園の裏庭に来ていた。放課後に病葉が言ったとおり夜間外出の許可が出たので適当に理由をでっちあげて許可証と携帯電話だけは持ってきている。あの日病葉を埋めた木の根元まで進むとすでに先客がいた。病葉本人だ。

「こんばんは。いや〜……ここ数日夜でも暑いねえ。やあ倉田くん久しぶり、元気だったかな」

病葉の長身が月の光が当たらない木陰からぬうっと立ち上がり、2人を出迎える。

昼間の服装とはうって変わり、真っ黒なローブのようなものを着ていて、フードを目深に被っているので表情はわからない。

「お久しぶりです……事情は比良坂さんから聞きました。一体どうやって生き返ったんですか先生。だってあの時、完全に死んでましたよね」
「もちろん。それは彼女も君も見ているから間違いない。でもねえ……できるんだなこれが」

病葉はそう言って、くつくつと含み笑う。

「ど、どうやって?」
「じゃあ......今ここで実演してみせようか。後は頼んだよ」

病葉が木の向こう側に声をかけるとどこからともなく制服の上に病葉と同じ黒のローブを羽織った生徒が現れた。同じ美術部で摩耶と倉田の先輩にあたる水月潤みずきじゅん紗倉茉莉花さくらまりかだった。

2人は木の根元に開いた穴のそばに後ろを向いて立った病葉を、手にしていたシャベルを大きく振りかぶって殴りつけた。

がつっと鈍い音がして後頭部を殴られた病葉が穴の中に倒れこむ。水月と紗倉も後を追って穴に下り、さらにシャベルの背で病葉を何度も殴打した。

「せ.....先輩、もう止めてくださいっ‼︎」

突然始まった暴行に耐えかねた摩耶が金切り声に近い悲鳴をあげ、その場にしゃがみこむ。それでも水月と紗倉は手を緩めなかった。倉田がとっさに摩耶の目を両手でおおう。

「ひ、比良坂さん落ち着いて。深呼吸......できますか」

倉田が摩耶の耳に小さな声で囁く。摩耶は言われたとおりにゆっくりと息を吸って、何回か吐き出した。

「あ......ありがとう倉田。もう......大丈夫」

摩耶が倉田にそう言った時、周りがしん、としていることに気づく。摩耶は倉田の手をどけると木の根元に視線をやる。水月と紗倉がいつの間にか上がってきていて、シャベルを土の上に投げ捨てる。

シャベルは2本とも元からそうだったのではないかと思うくらい真っ赤に染まっていた。続けて2人は低い声で交互に呟く。

『......死者は立ち上がり、我がもとへ来たれり』
『天地万物を混乱に陥れる地獄の魔物よ、陰気なる住処を立ち去りて、三途の川の此方へきたれ』
『......汝もし我が呼ぶ人を意のままにしうるならば、乞う、汝の王のなかの王の名において、彼を我が指定せる時刻に出現せしめんことを』

そこで水月が一旦しゃがみ、地面から土を一握り手に取り、穴の中へまきながら詠唱を続ける。

『朽ちはてし遺体よ、眠りから覚めよ。遺体より踏み出て、万人の父の名のもとに行う我が要求に応えよ』

次は紗倉がローブから十字架状に組み合わせた小動物か何かの骨を取り出し、穴の中へ放った。

『......我は汝を求め、見ることを得ん』

その瞬間、水月と紗倉の体が脱力し糸の切れた人形のように地面に倒れる。同時に穴の中から土を引っ掻いて這い上がるような音が聞こえ、体中が血塗れの病葉が顔を覗かせる。摩耶と倉田を見上げるとローブのフードから覗く口角がつり上がり不気味ににやあ......と笑った。

「......ね、本当だっただろう?」

病葉は穴から出るとぼろぼろになってしまったローブについた土を払い落とす。深く被っていたフードがはずれ、月光に顔が晒される。摩耶は「ひいっ」と短く悲鳴を上げ、倉田は息を吞む。先ほど水月と紗倉に殴られ続けた病葉の顔は頭の一部が陥没し、左目から頬にかけての皮膚がごっそりと剥がれていた。

「ああ……そんな。またなのか」

穴の両側に倒れている水月と紗倉を見て、剥き出しになった病葉の左目が悲しそうに細められた。病葉はしゃがみこんでそれぞれの体を抱くと愛おしげになで、こう囁いた。

『選民の国に戻れ。汝がここに来たれるは、嬉し』

病葉の腕の中で水月と紗倉の体がまるで波が砂の城をさらっていくかのように跡形もなく崩れ、細かな塵が夏の夜空に舞う。病葉はおもむろに立ち上がると2人が着ていたローブと制服を摩耶と倉田に手渡してきた。

「先生……い、今のは?先輩たちにな……何したんですか」
「……あるべき元の姿にかえしただけだよ。2人とも一昨年に事故に遭って亡くなってるからね。死者蘇生の儀式は僕1人では出来ないから、誰か手伝ってもらう人手が必要だったんだ。まさか君たちの先輩だったとは知らなかった……ごめんよ」

倉田からの質問に答えた病葉は謝罪し、まだ黙ったままの摩耶の前に膝をつく。

「大丈夫かい摩耶、手を貸そうか」

病葉が摩耶のほうに手を握ろうと差し出した瞬間、勢いよくはたき落とされた。ぱしん、という音が響き、怯えた表情の摩耶が病葉をきっと睨みつける。

「わ、私に……触らないでっ!!」
「摩耶?」

摩耶に拒絶された病葉は一瞬驚いた表情になったが、すぐに意味を理解したらしい。「そうか」と言って頷き、倉田のほうを向く。

「そろそろ寮に帰りなさい。今夜ここで見たことは誰にも言わないように……約束できるね」
「はい……先生。おやすみなさい」

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