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4年ぶりに帰って来た鎮守の祭りでいつものように思春期たちが大人の階段を登る。〈大沼田稲荷神社秋季祭礼_小平市大沼町〉

(は)の家から一番近い神社の秋祭りが帰って来た心躍る週末に、このまちに暮らす老若男女の期待と熱と渦に巻き込まれてしあわせな話。

そろそろ雨が上がる予報の12時。
どん、どどんとずんと響く号砲の乾いた音が空から聴こえてくる。

大沼田稲荷神社の秋季祭礼。
(は)の家から一番近い神社の4年ぶりのお祭り。

ここに越してきてから、夫婦で、息子と、一人でと、コロナで中止になるまでは毎年訪れていた暮らしの中にある年間行事の一つ。

東京街道沿いの大沼町。
その一角だけ、その当時からの景色を残しているかのように静かにたたずむ様が安らぐ神社。

それでも年に一度主張する参道の入り口にずらりと並ぶ提灯が圧巻で誇らしいといつも思う9月のはじめ。

日が暮れて、夜風が気持ち良く、秋の虫がぎゃんぎゃんと鳴く頃に、遊びに出かけてみる。
妻も高校生になる息子も行かないというから一人。

石段を上り鳥居をくぐると、いつもは静かな鳥居の先の参道に並ぶ露店にこもる熱。溢れて行き交うこのあたりに暮らす老若男女。待ちわびてみんな火照る笑顔。

参道の先の拝殿でがらんがらんと鈴を揺らし、二礼二拍手一礼で普段の暮らしのお礼をし、これからの未来を我儘にお願いをする。

参道を戻り、氷が浮かぶどぶ付けに浸かる氷結を買いぷしゅ。まだぬるい氷結で乾いた喉を軽く潤してはじめる祭りな気分。

関西風のたこ焼きも牛だ豚の串焼きもびっくりするほどの行列。でも、(は)はそれほど並んでいないじゃがバターがあれば満足。

セルフのトッピングと謳うバターをたっぷりとまぶして、はふはふとあちちと頬張り、氷結で流し込んでなんだかしあわせだね。

境内の奥に組まれたいつものステージでは、鈴木ばやしのお囃子が奏でられ、ひょっとこが舞っている。かぶり付く小さな子たちが全身で楽しそうに跳ねているのを見て、怖がって泣きながら逃げ出してた年中の息子を思い出した。

その先の薄暗い雑木林にたむろう思春期たち。コロナの前と変わらぬ景色。
このあたりの小平7小6中のガキンチョ達がおとなの階段をほんの少し上るお祭りなんだ。

そんなこの小さな世界がハレの日になる日。

いつものくじ引き屋に、特賞を当てた息子の元に集まる仲間たちの純粋な羨望の眼差しを思い出す。

奴らが5年か6年だった頃。そのあと、え、これ、特賞?なんてみんなで文句言ってたけどね。それが露店だ若者たちなんて偉そうに言ってた俺。

不意にポケットで震えるスマホ。「焼酎お願いします」とLINE。

食べかけのじゃがバターをお土産にしてビニールの袋に収めて鳥居をくぐり石段を下りて、余韻に浸り歩いて向かうセブンイレブン小平大沼町3丁目店はいつにないレジ待ちの列。

そうだった、知恵のついた中防たちは、露店は高いからってセブンイレブンで飲みものと食べものを買って神社でたむろうと思い出した。

コーラとからあげ棒を抱えてじゃれる中坊たち。
こんな頃に戻りたいなんてセンチに思う秋のいりぐちを感じるセブンで焼酎のパックを買う親父。

翌日の日曜日。
あのステージでカラオケを気持ちよく歌う歌声が大沼町に響いてる。
これこれ、これ、なんてベランダで洗濯物を干しながら一緒に鼻歌る。

夕方にやっぱり中学の頃の仲間と祭りに行くと出かけた息子が帰ってこない。いい時間じゃないかと送るLINEにいま帰ってる。それでも神社はそこなのに帰って来る気配がない。

だいぶ経ちガチャンと玄関の扉が開いてただいまー。

どこ行ってたのと聞くと、小金井公園。ずいぶんと遠くまで行ったなー。
だって、狭いし露店も少ないし面白くないからと妙に大人びたそれ。

やっぱり、小、中学生が大人の階段をすこし登るお祭り。
高校生になるともう物足りない世界。

そんなお祭りが(は)はずっと好きです。

(は)

【大沼田稲荷神社秋季祭礼】
  東京都小平市大沼町7-2-1


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