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京のたぬきうどん

子どもの頃、母の実家へ行くと祖母がいつも近所のあさひ亭からたぬきうどんの出前を取ってくれた。

おじさんの「おおきに〜」の声が聞こえると姉妹みんなで玄関に走っていった。

大人になると1人で店へも食べに行った。
女将さんもおばあさんも「たぬきはきざみに餡かけのうどんですけどよろしいか?」と確認する。

学生が多い街なので地元以外の子が多いからだろうか。
あまりにも毎回聞かれるので祖父母の名字を言い出前で子どもの頃から食べてるから知ってる、と言うと「あの四人姉妹のお嬢さんか。夏でもよう食べてくれはった」と覚えておられた。

なんでもたぬきは冬場はよく出るが暑い夏に頼むのはうちくらいだったらしい。
その時はいつも出前に出ているご主人が店にいて少し話をしたのを覚えている。

それからまもなくしてご主人がまだ若いのにご病気で亡くなられ店は閉まった。

息子さんがいて時々店を手伝ってたのに、と母に言うと天下の京大を出てええところにお勤めや、と笑った。

最後に食べたのはもう随分前なのに餡のとろみ加減や少し甘い出汁を覚えている。

今日も他の店でたぬきを食べそれなりに美味しいけどやはり違う。
私のベスト・オブたぬきは幻となってしまったがまたいつかどこかで食べられるような気がしてならない。


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