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[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。

仕事のコツと聞けば、
陸上競技で、ハードルを
巧みに跳び越えて進むようなイメージと
結び付けるかもしれないが、
社会人生活はもちろん
そんな都合のよい局面ばかりではない。

失敗をして注意されたり、
与えられた職務を実力不足で全うできずに
へこむことだってある。
ここで語るのは、
壁にぶち当たった、そんなときに
試みてほしいマインドチェンジのコツだ。

■毎日が曇り空でも、めげなかった修業時代

私のコピーライター修業時代は、今から40年も昔、
パワーハラスメントという言葉は
その種子さえなく、
コピー(広告文)は原稿用紙に書いていた、
デジタルという言葉すら目にしなかった頃だ。
 
書き上げたコピーを
ディレクターの席に持っていくと、
頭から尻尾まで欠点を指摘された挙句、
人差し指でピンッとはじかれた原稿用紙が
ヒラヒラと空中を舞い、床に落ちる。
私はそれを拾い上げて席に戻り、
修正指示の書かれた
朱字の通りに直し、何とか仕事を終える。
自分でやった感などない、
そんな苦い経験の繰り返しだった。
       *
私の勤めていた制作会社は
東京の「新宿御苑」近く、
春は御苑内でお昼の弁当を食べる
楽しみもあったが、
見上げる空は毎日、曇り空だった。
これは単に、当時の心情を曇り空に
例えたのではない。
本当に私は、青空を青空として
認識することができないほど、
沈んでいたのである。
 
しかもそのディレクターは、
会社を辞めるとき
「私は君だけは連れて行こうと思わない」と
そもそもついていく気のない私に、
そんな無用で重たい置き土産まで残していった。

しかし、いま思っても
自分自身に驚くのだが、
私は、一度たりとも辞めたいと思ったことはなく、
ただ、ひたすら自らの拙いコピーと
向き合い続けていたのだ。

■ある、励ましの言葉

しかし考えてみれば、
こうした屈辱的な行為の繰り返しは
至極当然の結果だった。
私はまだコピーライティングとは何かを
模索している状態で、
修正指示の意味を必死にかみくだきながらも、
全てを理解する水準にも達していなかった。
つまり明らかな実力不足だったのである。
                             *
これを読まれる皆さんにとっては、
さらに古い昔話となるが、
1940年から60年代にかけて絶大な人気を博した
古今亭志ん生という噺家がいた。
この志ん生が次のような言葉を残している。

「本気で辛抱してりゃ、
自分の目には見えなくても、
畳の目のように物事は
進んでるんですよ」。

 
つまりこれは、いくら芽が出なくて自信がもてなくても
自分が気づかぬうちに実力はついている、
という励ましの言葉だ。
私は落研だった高校時代にこの言葉を知って、
10代ながら胸の奥にしまった。

しかし、修業時代の私に「物事は進んでる」
実感はなかった。
 



■成長を感じる瞬間

前述の制作会社を辞めた私は、
友人の伝手で、中規模の制作会社に移る。
そして何の実績もないまま、
ある定期カタログの
コピーディレクターにさせられてしまう。

恐らく、メーカーから転職してこの道に進んだ
私の年齢が既に29歳であったという、
ただそれだけの理由で任されたと思っているが、
いきなり他者のコピーをチェックする
という立場になった私は、
その状況のなかで、ない感性を振り絞り、
コピーと改めて向き合って文字の
一つひとつを追った。
私にとって他者を評価するなど、
恐怖と隣り合わせの出来事と言ってもよかった。
しかし、このとき私は、いつの間にかそうした時間を、
自らの鍛錬の場へと
変えていた気がする。

「気がする」と書いたのは、まさに私が
それを意識することができなかったからだ。
                           *
そんな私が、ふとある瞬間、
「あれ、(意外にうまく)書けてる!」と
思える自分自身のコピーと
突然、出合ったのである。

このときの不思議な感覚は
今でもはっきりと思いだす。

曇り空を晴れにする術は全く見えず、
ひたすら自分が書いたコピーを
最初から最後まで修正し続けていた日々と、
自分だけでなく他者のコピーを
受け入れて反芻し、
こんどは自分が修正の朱字を入れる毎日。

そんな、手探りしながら前に進む行為が、
「見えなくても、畳の目のように物事は進んでる」
という“志ん生” の言葉を、
リアル過ぎる実感として、
私に体験させてくれたのだ。

■手探りでもいいから前へ

いかにパワーハラスメントが
一掃されつつある時代にあっても、
失敗や実力不足で壁にはね返されたとき、
どう言われようと言われまいと、
ダメージを感じずに済ませることはできない。

そんなときは、
失敗した、できなかったという事実を
真正面から受け止め、
やるべきことをやるのだ。
失敗の原因をふさぐ手段を
曲がりなりにも実行に移し、
実力不足と思えば、
昨日より、少しだけ違うアプローチを
試してみる。
そのように、
失敗や実力不足によるダメージを
取り返す試みを続けながら、
ただひたすら与えらえた仕事に向かう。
それは、手探りでよい。
「手探り」は、その時点での
最高の対応手段だと思うのだ。

                             *
結果は、
サプリメントの広告のようにすぐには訪れない。
もしかしたら、
また落ち込むことがあるかもしれない。しかし、

「本気で辛抱してりゃ、自分の目には
見えなくても、畳の目のように物事は
進んでるんですよ」。

この言葉は、信じていい。

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