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ひとかけ、ひとかけ、一粒、一粒、噛みしめて味わい、飲みこんで、神事の如く我が命に届ける。 

■病床を知らぬ男の病床

もちろん食べ終わって「何が入ってた」と訊かれ
口にした食材を言えないなどという鈍感な対応は
なるべく避けるよう料理に向き合ってきたつもり
だったが、この20日ばかりは、それがより鋭敏に
研ぎ澄まされクローズアップされた感覚だった。

約3週前に新型コロナウイルス陽性と告げられた。

感染後は喉が痛く声も出ず薬も飲めなかったが、
それでも「命」なる言葉が大袈裟なのは承知だ。
恐らく命みなぎる元気な自分を追っていたのだ。

身体に染みる海鮮に野菜の歯ざわりが寄り添う。

■命綱と思っていたスープ

私はこの間、妻が作る野菜主体のスープを三食、
ひたすら食べ、飲み続けた。多少の仕事を除き
ほぼ横たわる時間のなかで食事は特別感があり、
あえてまた書くがそれこそが元気な自分の姿を
取り戻すための「命綱」の如く思えたのだった。

海の幸、山の滋味を食らう歓び。

幸い味覚は正常で食欲も十分あり、命に結び付く
食事と信じていたから、真摯に希望を抱きながら
毎食向き合う。すると、箸でつまんだ人参の赤い
三角のひとかけ、豆やコーンの一粒、ふくよかな
魚の身をじっと見つめてから口に運び歯でつぶし
舌で味わい、痛みの残る喉を通して我が臓物へと
届ける一つひとつの行いが、まるで神事であるが
如く厳かな心持ちのなか全てこの身に染み込む。

味噌に餅と野菜の温かみがうれしい。

■食に集中、マインドフルイーティング

呼吸に意識を向けて瞑想するマインドフルネスは
知っていたが、ある日スープの一杯を飲みつつ、
私は、ただひたすら食事に意識を向けて集中する
「マインドフルイーティング」なる言葉を見た。
なぜこのときだったのか実はどこで読んだのかも
最早分からない突然の遭遇だったのが不思議だ。

発芽ニンニクが入るシチューにパンが付いた。

■一生、箸の先を見つめて

最初の1週間は、骨付鶏肉を入れたサムゲタン風、
それが糯米を入れたお粥になり、いつしかそこに
ハンバーグが入ってスープから離れていったが、

いつの間にかハンバーグに耐えられる身体になる。

私のマインドフルイーティングは生涯続くはず。

大根の胡麻汁に切り昆布が乗る。

箸先の食材を見つめ味わい噛みしめ身体に届ける
行為を神事の如き思いで愉しみ、妻に感謝する。



※付録【コピーライターの仕事~箱組】

WEBサイト全盛のいまは、死語かもしれないが、
印刷媒体華やかなりし頃「これ箱組(はこぐみ)で
書いて」と、ディレクターにたびたび言われた。
一つの文章ブロックの最初から最後の一字までを
同じ字詰めで箱型に、つまり長方形に収めていく
手法だが私はさらに行替えを文節(文が不自然に
ならない最小単位。Ex.私は学校に行く。→私は/
学校に/行く。)で区切って、コピーを作成した。
この投稿はスマホサイズで左右に収まるように、
文節で切り作成した(仕事では最終調整をする)。

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今夜は、川中家名物「おでんうどん」。








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