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キミが大人になる頃に。―環境も人も豊かにする暮らしのかたち (石田 秀輝・古川 柳蔵)

低環境負荷型ライフスタイル

 地球環境問題をテーマとした書籍は数多くありますが、本書は、「低環境負荷型ライフスタイル」をテーマに、その実現の前提となる「人びとの意識の持ち方」や「具体的な暮らし方の提示」等をとても優しい書きぶりで紹介していきます。

 冒頭、以下のような問題意識が提示されています。

(p5より引用) 今まではものがたくさんあれば豊かさが実現できると思い込み、ものを市場に溢れさせ、結果として環境劣化が加速しました。今望まれているのは、「人間らしく生きるためには豊かさが必要」という考え方で、その豊かさを担保するために必要な「もの」を市場に投入することなのです。2030年の厳しい環境制約のなかでも、心豊かに生きるとはどういうことなのか、そのためには、どのようなライフスタイルを提案できるのかが問われる時代なのです。

 ここで目指すべき方向としてされるものが「低環境負荷型ライフスタイル」です。
 地球環境問題は、すべての人々にとって逃げることのできない大きな課題です。この「地球環境問題」として扱われている具体的なリスクとしては、地球温暖化 資源・エネルギー問題、生物多様性の急速劣化、人口増加等々が挙げられます。が、これらの個々の問題の根本に遡って探っていくと、「人びとの暮らし方=ライフスタイル」にたどり着きます。

(p13より引用) 地球環境問題とは、本来リスクとはならなかったこれらをリスクにしてしまった物質消費を中心とする人間活動の際限のない拡大に他ならないのです。

 となると、地球環境問題を根本的に解決するためには、従来型の「人びとの暮らし方=ライフスタイル」を変えていかなくてはなりません。
 では、いったいどういう姿に変わらなくてはならないのでしょうか。

(p20より引用) 「人間らしく生きるために必要な豊かさ」を考えてみると、それは人と人との繋がり、人と自然の繋がり、さらにはあらゆるものとの繋がりが見えてきますし、「足るを知る」とか「もったいない」に見られるような、発散せず内なるものに和合する粋な暮らしのかたちが見えてきます。

 どうやら、従来のような「外向・拡大」型の延長線上には解はなさそうです。私たちを取り巻く環境を制約条件として、その中での「豊かさ」を追求していくというスタイルに変わっていかなくてはならないようです。

バックキャスティング思考

 地球環境問題に対応する将来の私たちの暮らしぶり、その時の具体的な社会・生活はどうなるのでしょう。どうすれば、新たな「ライフスタイル」の具体像をつかめるのでしょうか。

 まず、著者は、今から先を考える「フォアキャスティング思考」だけでは、生存のための制約条件を前提とした低環境負荷型ライフスタイルの具体像を描くことは困難だと考えています。そのうえで、現実的な実現案を生み出すメソッドとしての「バックキャスティング思考」を提唱しているのです。

(p39より引用) 世界のすべての人が日本人と同じ暮らしをすれば地球が2.4個、アメリカ人と同じ暮らしでは地球が5.6個必要です。でも、私たちには、もちろん1つの地球しかありません。1つの地球で、どのように心豊かに暮らしていけるのか、その新しい暮らしのかたちを見つけるには、1つの地球を前提に考えるバックキャスティング視点がぜひ必要なのです。

 バックキャスティング思考で「暮らしの方向性」を明らかにし、フォアキャスティング思考で、それに向かう「現実解」を考える、こういうデュアル思考の薦めは非常に興味深いものがあります。

 この思考方法を適用すると、今後のマーケティング活動においては、以下のような方法論が求められることになります。

(p136より引用) これまでの企業のマーケティング活動では、調査によって過去と現在を知り、分析することで、未来への戦略を策定していました。・・・これからの時代は、未来の状況を予測データから把握して、こうあるべきというイメージを自分たちのなかに創ったうえで。戦略策定の糸口をつかんでいかなくてはなりません。そして、そのためには、これまで主流だった差別化のための調査・分析手法だけでなく、生活価値を新しく創り出す構想型の方法論が必要となります。顕在化しているニーズを絞り込んでいくのでなく、まだほんの小さな予兆としてしか現われていない現象と未来の環境制約から、未来を構想するのです。

 そして、この方法論で発想された今後の変化や製品・サービスアイデアを網羅的にまとめたものが、「2030年の曼荼羅」(p148)です。これは、マクロ環境予測・生活者の行動・生活者の欲望・具体的製品・サービスを同心円状に表現したもので、とても参考になります。

 最後に、ひとつ、特に私の関心を惹いた部分を覚えに記しておきます。
 「オリジナリティとはオリジンに戻ることである」
 本書で紹介されてるアントニオ・ガウディのこの言葉は蓋し名言ですね。

(p85より引用) 価値は、一方向に向かっているわけではないと考えた場合、原初的な行動を分析し、その本質的価値に立ち返ることは後戻りとは言えません。・・・新発明とかエコであると叫び続けながらさほど新しくないものを次々と生み出すよりも、本質的価値に戻って持続可能性の高い暮らしのかたちと、そこにある製品・サービスを考える方が、よりオリジナリティが高いと言えるのではないでしょうか。

 「『独創性』は『根源的』である」、まさに的確に本質を突いた指摘です。



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