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菊池寛が落語になる日 (春風亭 小朝)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。

 最近はYoutubeやPodcastが中心ですが、落語は好きで結構聞いています。
 好みは、桂米朝師匠や古今亭志ん朝師匠といった超オーソドックスなタイプの噺家さんですが、そういった面々のなかでも春風亭小朝師匠はかなり上位に食い込みます。

 この著作は、その小朝さんが、菊池寛の小説を「落語小説」に仕立て直したものが採録されているとのことで殊更興味を惹きました。

 本の構成は、菊池寛の短編小説とそれをモチーフにした小朝さんの創作落語を1セットにして、全9作を並べています。
 こうやって原作と創作とを密着対置させると、菊池寛作品の着眼を小朝さんが上手く掬い上げて、現代の世情での “小品” に仕上げている様がはっきり分かりますね。とてもチャレンジングで楽しい試みだと思います。

 もちろん、小朝さんの創作パートでは、彼一流のウィットに富んだ語り口がそこここに散りばめられています。
 たとえば、

(p12より引用) ある時、師匠に召し上がって頂きたいものがあって、根津のマンションに伺ったんですよ。 眠そうな顔で出てきた師匠とひとしきり話をしたあとでひと言。
「お前は俺が会いたいと思う時にくる奴だな」。どうですか、皆さん。キザでしょう。この台詞は女性の皆さんも使えますから、ぜひここイチバンで使ってみてください。男性と電話で話したあとに、「あなたって、私が声を聞きたいと思った時にかけてくる人ね」。こう言われたら男はキュンとしますよ。今わの際に「お前には色々と世話になったな」「あなたって、私が死んでほしい時に死んでくれる人ね」って、これはダメですけど。まぁ、人の上に立つ人間は、下の者に対する言葉の配慮がいかに大切かということですね。

 といった感じですが、やはりこのあたりは、小朝さんの高座の「口演」で聞きたいですね。



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