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脳は平気で嘘をつく 「嘘」と「誤解」の心理学入門 (植木 理恵)

(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)

 タイトルから判断して久しぶりの「脳」に関する本だと思って手にとったのですが、期待していた内容とはちょっと違っていました。

 いろいろなシーンにおける円滑なコミュニケーションのためのTipsが認知心理学的側面から紹介されているのですが、内容はかなり物足りないですね。
 概念の説明も淡白ですし、その根拠についても「実験からそういえます」とあるだけで、実験方法・内容についての十分な紹介もありません。
 また、著者の得意な心理学的知見からの提言についても、その具体性に関していえば非常にプアです。

 たとえば、著者は、ひたすら一方的に意見を出し合う「ブレーンストーミング」について、コミュニケーションを重視する日本にはあまり向かないと主張しているのですが、それに続くコメントはこんな感じです。

(p164より引用) 日本人には日本人に合った「集団的思考法」というものがきっとある。アメリカのマネをするのではなく、日本人の資質に合った集団的思考法をみんなで模索していけばいいのではないだろうか。

 そうかもしれませんが、その何がしかの「集団的思考法」とやらのヒントなりとも示さないと、単なる素人のつぶやきレベルに止まってしまいます。

 とはいえ、そういった中で、ちょっと参考になったところを2・3、書き留めておきます。

 まずは、「第一印象に左右されやすい性向」とそれを是正するためのヒントについてです。

(p55より引用) 自分の先入観や思い込みを補強するために確証ばかりを求める確証バイアスは、思考のエラーとも言える。「自分の正しさを確かめるための情報ばかりを集める」という間違いである。
 本来、物事の真実や本質を見極めるためには、多角的に対象となるものを見ていく必要がある。いくつかの確証を確かめたのであれば、今度は反証もいくつか確かめる。そういう作業を繰り返すことで物事の本質は徐々に浮かび上がってくる。

 確かに、一度形作られた「第一印象」を変更するのには抵抗がありますね。何かの機会に、よほど強烈な新発見がなければ簡単には変わりません。
 日頃から「意識的」に普段と異なる視座から物事を見る癖をつけることが大事なようです。

 もうひとつ、自分が起こしたことから学んでいく「教訓帰納(問題解決後に、この問題をやってみたことによって何がわかったのかという教訓を学習者自身が抽出すること)」について紹介しているくだりから。

(p167より引用) 「悪いこと」が起こった時に教訓帰納するのは、一種の人間の本能である。・・・普通の人は「悪いこと」が起こった時しか教訓帰納しないが、メタ認知能力のある人は「いいこと」であっても教訓帰納するのである。

 ここでいう「メタ認知能力」とは「自分の思考や行動を客観的に把握し、なおかつ全体を俯瞰的に捉える能力」のことですが、主観的な視点に偏ると、つい「悪いこと」「失敗したこと」のみを教訓のインプットにしてしまいがちだという指摘です。
 この傾向は、確かに心当たりがあります。私自身も大いに自省すべき点だと思いました。



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